第18話「わたしボビーさん……ジャマイカ生まれのレゲエ育ちでヒップホッパーなの」


 異世界学園モノでは、たまに技術的特異点のブレイクスルーが起きる。

 その最たる例は、風呂やトイレだろう。

 中世ヨーロッパな世界観でも、些細な統合性などノーセンキューだ。

 シャワーからお湯が出るし、トイレは水洗式だ。

 下水施設がどうなってるかは、あまり考えてはいけない。

 トイレは作品世界を清潔に保つのに必要で、お風呂は世界観を壊してでも採用せざるをえない需要があるからだ。

 ラノベでヒロインは野糞をしないし、毎朝の日課が『おまる』の片付けではない。


 ……

 …………リアルだから良いってモンじゃねぇのです。

 ……


 そんなわけで。



「ふーん、ふ~ん、ふふーん♪」


 謎の鼻歌を奏でながら。

 清潔なタイル張りの共同浴場で、優雅に朝シャワーを決め込む美少女がいた。

 彼女の名前は、メリッサ=ヴィルライン。

 胸は小さいが美少女で、胸は小さいがリリアン魔法女学園でトップの召喚士だ。

 彼女が全裸でシャワーを浴びる浴室に、見慣れぬ女子生徒が入ってきた。

 黒髪ロングの超絶美少女で、胸のサイズは推定でDカップ。

 完璧な調和が生み出す裸体の美は、惹き込まれるほど美しい。

 だが、九條冥子の美貌も同じ性別の女性には効果なし。

 メリッサは、にこやかに挨拶した。


「ごきげんよ――むぐぅぅぅっっ!?」


 黒髪の超絶美少女が、メリッサの唇を奪った。

 小さい胸を指先で弄び、口の中に舌を挿れて、唾液と唾液を絡ませてくる。

 いきなり襲われて、メリッサは驚愕した。

 でも、


(……ありかもしれません)


 九條冥子の超絶テクに意識がとろけて、頬を紅潮させたまま全てを受け入れる。

 タオルで腕を縛られて、タイル張りの床に転がされる。

 全裸の冥子が、親指を「パチンッ」と鳴らして。


「井戸娘、来い」

「くーる♪ きっとくるー♪ あはっ」

「召喚魔術? 私の知らない魔法体系の?」

「メリッサ=ヴィルラインだな」


 バスルームに出現した防水テレビから、正体不明の白装束美少女が現れた。

 召喚魔法、転移術式、よく分からない。

 だが、次元の壁を飛び越えて出現した黒髪の美少女は――人にあらざるモノ。

 メリッサは、情欲にとろけた表情を引き締めて言うのだ。


「あなた! 何者ですか!」

「九條冥子――貴様をレイプする美少女だ」

「……はい?」

「これより、学園最強の召喚術の使い手、メリッサ=ヴィルラインをレイプする」

「……あの」

「そして貴様が俺にレイプされる光景を、映像を記録する異世界の道具「4Kビデオカメラ(市場価格82万9800円)」で撮影させる」

「……その」

「井戸娘。始めるぞ」

「はいです」

「おはなしが読めない……きゃっきゃぁぁぁ!? そこらめぇぇぇっ!?」


 全裸の冥子が、全裸のメリッサのうなじに手を添える。

 乙女の柔肌とは違う、硬質なウロコの質感。

 冥子は、愉しげに言うのだ。


「ほぉ? これが半竜人の『逆鱗』か」

「や、やめて……見ないで……舌先でペロペロ……あっ」

「メリッサよ。貴様が竜と人間のハーフ――半竜人であるのは調べが付いている」

「んんっ、あんっ」

「聞いた話では、地球のニシキヘビにも足の痕跡が残っているらしい。蹴爪けづめという5ミリほどの突起で、ニシキヘビは蹴爪を交尾の際にメスを愛撫するために用いるという」

「んっ、そこぉ……逆鱗……らめぇ」

「異世界に住まう竜には『逆鱗』という逆向きに付いた鱗があり、それに触れられると怒り狂うそうだな」

「あぁぁっ、くっ、逆鱗……ペロペロ」

「何が怒り狂うだ。貴様は逆鱗を舐められて、こんなにも昂ぶっているではないか」

「逆鱗らめぇぇなのぉぉ! 逆鱗が竜属共通の弱点らのぉぉ! 他の種族には絶対秘密らゃのぉぉぉ!」

「ちゅぱ……ちゅぱっ」


 冥子ちゃんによる、全裸プロレスリング☆逆鱗ペロペロマッチは。

 それから、数分にわたって続き。


「ひっぐ……お願いです……勘弁して下さい……」


 タイル張りの床で全裸土下座するのは、胸の貧相な半竜人の美少女だった。

 それを上から目線で足蹴にするのは、黒髪の全裸美少女――九條冥子だった。

 威風堂々と裸体を晒す冥子は、全裸土下座する美少女に言うのだ。


「クククッ。半竜人メリッサよ。この痴態を収めた映像を広く公開すれば、貴様ら竜族がひた隠しにしていた性感帯の秘密がバレてしまうなぁ」

「それだけはご慈悲を……逆鱗の秘密が……他の種族にバレたら……」

「クククッ。薄い本が分厚くなってしまうな」

「マジ弱点なんです……そこ責められると竜属は耐えられないんです……産卵不可避なんです……」

「ならば、俺と決闘しろ」

「……はい?」

「学園で最強の召喚術士として名高い貴様は、俺に決闘を申し込むのだ」

「……なぜ?」

「裸を見られてからの決闘という、テンプレ展開を演出するためだ。俺はテンプレ展開を演じて、それがいかに下らぬかを喧伝するのだ」

「……分かりました」


 よく分からないが、決闘すればエッチなビデオは未公開で済ませてくれるらしい。

 なら、叩き潰せばいいこと。

 竜がスライムを尻尾で薙ぎ払うがごとく、圧倒的な術才で殲滅すれば良いこと。

 誇り高き竜族を愚弄した罪は、


「――その体で後悔させてあげますよ」

「望むところだ」


 全裸の半竜人の召喚士と、全裸の地球人な転校生が、共同浴場で睨み合う。

 井戸娘は「ハァハァ……萌えす……」興奮していた。

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