第16話「わたしメリーさん……学校のプールにある目を洗う蛇口の正式名称が分からなくて困っているの」


 異世界に建てられた、豪華絢爛な洋風建築。

 正門の柱に刻まれた銘は「リリアン魔法女学園」だった。


 その雰囲気をひと言で表せば、典型的な全寮制のお嬢さま学校。

 所属する学生は、身分の高い子女が多い。


 上流貴族の娘や、王族の子女が主体で、出自が卑しい生徒は少ない。

 基本お金持ち向けの運営で、庶民は鼻から相手してないのだ。


 だから、貧しい生徒が入学するには、かなりの才能と努力が必要となる。

 ゆえに、お嬢さま学校に所属する貧乏人は特別だ。

 大抵の場合、金持ち学校の貧乏人は主人公やヒロインに収まる。


 他にも、お嬢さま学校における主人公枠には欠かすことの出来ない属性があった。


 それは――女装。 


 お嬢さま学校に、男子生徒が一人だけ入学する。

 そのシチュエーションに理由付けするなら、女装が最もメジャーで、次点は女しか着れないパワードスーツを世界でただひとり着れる男、三番手は美少女が異世界から呼んだ召喚獣(俺)、というところか。


 とにかく、美少女の楽園に男が一人というシチュエーションは、いろいろな意味でおいしすぎるので人気なのだ。風呂とか着替えとか覗きとか。

 もちろん、男子生徒が女子校に入学するのにはミラクルな設定が欠かせないが、魔法でちんこをアレコレするような作品に理由付けはいらない。


 そう、メリ太郎は入学しようとしていた。

 股間にチンコを授けられて、女から男に性転換した都市伝説は。


 美少女と美少女がキマシタワーする、この世の楽園。

 リリアン魔法女学園に、男でありながら入学を試みていた。


 二人の転校希望者は、学長室に招かれて挨拶するのだ。


「俺は九條冥子――完全無欠の美少女だ」

「あたしは二宮メリ太郎じゃなくて、メリ太郎子です」

「九條冥子さん。二宮太郎子さん。リリアン魔法女学園へようこそ。私は学園長のダンブルゴラァよ」

「しばらく世話になる」

「……よろしくお願いします」

「早速だけど、二人の身体検査をさせて頂くわね」

「ククク、望むところだ」

「……ええ」


 身体検査と言われて、冥子はパンツを膝まで下ろした。

 そして、スカートをめくり上げる。

 完璧に整った美姫の唇を釣り上げて、ババアな学園長に見せつける。


 俺は女だ。完全に女だ。

 見ろ、女である俺に男の証など存在しない。

 もっと見てくれ。


「どうだ、ダンブルゴラァよ。俺のアソコは女の子だろ?」

「はい。間違いなく女の子ですね」


 性的快楽の有無は別で、映像だけなら変態だった。

 アソコを見られて満足したのか、冥子は愉しげに言うのだ。


「ところで学園長よ。このような検査が必要なら――」

「ええ、いるのよ。男子禁制の女学園に、性別を偽装して潜入を試みる男が」

「質問しよう。仮に男であるのがバレたら?」

「リリアンの死霊術科ではね、常に教材用の『死体』や『人骨』を募集しているの」

「あはは……だいたい想像つきました」


 二宮メリ太郎は、乾いた笑いを漏らす。

 ややこしいので表記をメリーさんに戻すが、コイツは股間にちんこを持つ男だ。

 昨日までは女子高生だったが、魔法で男に性転換した都市伝説だ。

 その性転換を引き起こしたのは、


「スカートは便利だな」

「九條君……じゃなくて、九條ちゃん。変態っぽいからやめて」


 黒いセーラー服を着た、完璧な美貌を放つ黒髪ロングの大和撫子。

 九條冥介を改めて、九條冥子だった。


「貴様も学ランの着心地はどうだ?」

「……悪くないわね」


 純白の男子学生服を賞賛するのは、ボーイッシュな少年だ。

 ショートヘアーで、かわいい系の顔。

 その組み合わせは、令嬢の警護を務める男装の麗人に見えなくもない。


 学園長のダンブルゴラァは、柔和な笑みで言うのだ。


「では、タロー子さん。下半身を確認させてくださる?」

「……はい」


 すご~く嫌そうに、メリーさんは純白のズボンとパンツを下ろした。

 それをジロジロと眺めて、ババアな学園長は言う。


「女の子ですね。何の問題もありません」

「……ほっ」


 胸をなでおろす、メリーさんの股間にはアレがなかった。

 性転換してちんこがあるはずなのに、メリーさんのちんこは見つからなかった。

 このミステリーは、平成技術の特殊メイクのおかげだ。


 魔法女学園に来る前、冥子は井戸娘に地球で買い物を命じた。

「ァロンァルファA」という医療用の接着剤で、外科で用いられる特殊な商品だ。

 買うのに処方箋が必要なソレで、冥子は制作したのだ。

 メリーさんのちんこで、女の子のアソコを。


「バレなくて良かったわ……」

「クククッ、俺が自分の股間を参考に作った、女の子のアソコは完璧だからな」

「この変態がぁ……乙女をなんだと思ってるのよ!」

「今の貴様は男だろうが」

「ふぇぇーん」


 魔法女学園の廊下を歩きながら、メリーさんは己の不幸を嘆く。

 そのメリーさんだが、本来あるはずのアレが身体検査で見つからなかった。


 なぜか?

 ちんこを接着剤で加工して、女の子のアソコを作ったからだ。


 作り方は簡単で、まずは泣いて嫌がるメリ太郎を全裸にひん剥く。

 両手両足を鎖で縛り上げて、股間のアレを掴んでお尻に向けて折るように曲げる。

 その状態を、セロハンテープで固定する。

 すると、アレが消えるのだ。

 前から股間を見ても、アレが皮膚に埋没して見えなくなる。

 男性のアレは柔軟な組織で、皮膚に押し込めば、かなり奥まで押し込める。


 男性読者は、自分のアレをケツに向けて折り畳んでみよう。

 きっと、予想以上に折り畳めるはずだ。


 女性読者は、彼氏か弟に頼んで試してみよう。

 きっと、2分ぐらいは楽しめるはずだ。特に弟はオススメ。


 そんなこんなで。

 力技で男性器の外観を消したら、接着剤の出番だ。

 玉袋を活用して、それっぽい見た目を作り、外観が決まったら接着剤で固定する。

 すると、ガチで女性器にしか見えない男性器が完成する。


 嘘だと思うだろうが、これはマジだ。

 メリーさんも「ウソっ!? これ女性器にしか見えないっ!」と言っていた。

 接着剤を用いたちんこ改造は、元女子高生が驚くほど、精巧な偽物が作れるのだ。


 話は変わるが、世の中には様々なマニアがいる。

 その中に「女性器形成マニア」というマニアが、確かに存在する。

 それは「自分の股間を女性器っぽく整形する」ことに熱意を燃やすマニアだ。

 その趣味を、理解しようとしたら負けだ。

 彼らは変態紳士であり、我々のはるか高みを歩いている。


 女性器を接着剤で形成する方法は、そんなマニアが編み出した秘伝の奥義だ。

 ネットで実例を検索したら、未体験の感動を引き起こす画像が見れる。

 規約に触れるので、詳細は語らないがすごい。

 マジで女性器にしか見えないちんこを、彼ら紳士は接着剤で作るのだ。

 アンビリーバボー、真似はしない。


 余談だが、ちんこを折り畳んで女の子の股間を形成した時でも、排尿など生理機能は維持できるらしい。玉袋を体内に押し込むと熱が篭るので、男性機能には良くないそうだが、たぶん大事な何かを捨てるか、別の次元に進化してないとできない趣味だと思うので、多少の犠牲はノーカンなのだろう。まさに紳士!


 とにかく、


「ククク。メリーよ、なろうテンプレ通り、俺は魔法学校に入学できたぞ」

「ひっぐ……えっぐ……」

「次のテンプレ展開は、どうするのだ?」

「しくしく……考えてあるわ」


 羞恥に涙を流しながら、メリーさんは言うのだ。


「最初に断っておくわ。これからの展開は、厳密にはなろうテンプレとは言わないの。だけど、魔法学園モノでは欠かすことのできない王道展開よ」

「ふむ、続けろ」

「正式名称は定かでないの。でも、一部でこう言われているわ――石鹸展開、と」

「ほぉ?」


 性転換の都市伝説、メリーさんは語り出す。

 ライトノベルの冒頭で、主人公がヒロインが裸を見てしまう現象。


 その、王道に隠された合理的な理由を。

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