第345話 魔王との戦闘でございます……!

 おじいさんが得意そうに攻撃を防いだ直後、私たちの足元に上の階で出現したような巨大な魔法陣が現れた。魔王はどうやら、水晶の壁が突破出来そうにないから直接魔法を私たちに叩き込むことにしたみたいだ。

 しかしそんな簡単にゆく筈もなく、先代勇者の遺体のアンデットってことが判明したナイトさんが剣を抜くと、地面に向かって軽く一閃。巨大な魔法陣が彼の立っている場所から真っ二つに割れた。



「そう上手くはいかないよ」

【ぐっ……】



 目の前の壁が消える。そのため、魔王の明らかに悔しそうな顔が私たちにはっきりと見えた。打撃を防がれ、ブレスを防がれ、魔法を破られた。顔をしかめたくなるのも当然かしら。



「ね、そろそろこっちの番じゃない?」

「そうね、長引かせる必要もないし……」

「それじゃあこちらから仕掛けるとするかの」



 リンネちゃんの提案にお母さんやおじいさんがうなずいた。他のみんなも概ねそのつもりのようだ。ガーベラさんも槍を深く構える。



【……真上から呪文がくるよ!】

「まかせて!」



 ロモンちゃんがガーベラさんのような予知能力を見せた。言葉と同時にリンネちゃんが上空へ駆け上がる。

 そして本当に、先ほど私たちの足元にできた魔法陣と同じくらいの大きさのものが現れた。しかし、ものの五分の一秒ほどでそれはリンネちゃんの斬撃によって切り刻まれる。


 魔法陣が掻き消されたの同時にガーベラさんは動き出した。そのほぼ後ろをお父さんとナイトさんが邪魔にならないようにスピードを調整してついていく。加えて、地面へ降り立ったリンネちゃんもさらにその後ろに着いた。


 ケルくんやお母さんらは敵の攻撃を打ち落とすための遠距離攻撃の準備をしている。私は中に居るロモンちゃんと共に万が一、前線に出た4人にダメージが通ってしまった場合に即座に回復できるよう構える。



【調子に乗るなよ、人間共ッ!】



 ドラゴンにしては発達した腕が、炎魔法を付与された状態で4人に向かって振り下ろされた。

 普通の人が見たらおそらく、目にも止まらぬ速さと供述しそうなスピード。しかしこの程度、私達にはゆっくりに見える。


 

「安直ね~」



 そんなペリドットさんの呟きと共にその鉄槌が地面と衝突した直後、多量の闇氷魔法が凍てつかせ、その腕を地面に縛り付けた。

 魔王の体制は前のめりのまま固定される。



「あら~、ぶっつけ本番で上手くいったわ~」



 無論、攻撃に使用したはずの自分の腕が凍らされたため、魔王の意識はそちらに向く。その一瞬、気を逸らしたせいで当人は4人を見逃してしまったみたい。

 


【小癪な……】



 今度は自分に発射口を向けた状態の多種多様な属性の魔法陣が一度に現れた。

 おそらく魔王は勇者の攻撃以外が通らない、つまり自分の攻撃も自分に通らないのでしょう。4人を見失ったためこうして自分もろとも巻き添えに広範囲の攻撃を仕掛けるつもりみたい。


 ただ、その魔法陣の群は一瞬にして全て消え去った。お父さん達が一つ一つ超高速で掻き消していったのがギリギリ見える。

 そしてガーベラさんは、魔王の頭の上に立っていた。



「これで終わりだ!」

【なんだと!?】

「はああああああああ!」




 ガーベラさんの手にしている槍が光り輝く。ここからでも感じられるほど、膨大な魔力が一転に集中されている。

 おそらくグラブアに止めを刺した時と同じ、基礎中の基礎を鍛え上げた末の必殺の一撃。しかも込めてる魔力があの時とは一つが二つ桁が違う。……おそらく、魔力を保存できるあの鎧に日々ため込んでいたものも解放し、使用しているのでしょう。


 彼は勢いよく、その至高の一撃を魔王に撃ち込んだ。

 この巨大な空間が眩く照らされる。その明度がこの一発の強大さを物語っていた。


 そして、すぐにその光は晴れる。

 そこには魔王、もといドラゴンとしての巨体はない。



【やったかゾ?】

「いやぁ、まだだな」

【やっぱりがゾ】



 そう、巨大な身体がないだけ。魔力はまだ残っている。

 光で眩んだ目も慣れてきて、見えた情景は。

 巨大なツノ、黒い服、彫りの深い顔、そんな知らない男の人が地面に槍を突きたたているガーベラさんに向かって斧のような武具を横薙ぎに撃ち込もうとしており、それをナイトさんが剣で防いでいるという様子。

 


「あれが魔王の半人体ね?」

「ほっほっほ、貴重なものが見れたの」



 なるほど、つまりガーベラさんの攻撃を半魔半人化で透かしたってことね。私もたまにやるし、なんら不思議なことじゃないわ。



「ありがとうございます、ナイトさん」

「ふふ、こうなることはわかっていたんだろう?」

「チッ……」



 人間となった魔王は斧を下ろし、後方へ飛び上がって4人から距離を取る。

 ……そういえば、まだガーベラさんの槍に放ったはずの魔力が残っている。ナイトさんの言ってる「わかっていた」っていうのはそういうことか。相変わらず、未来を見れるほどの予測って便利ね。



「まあ、でもあんなだだっ広く的を広げるよりはそうやって縮んだ方がまだ倒されづらいから、いい選択だとは思うよ、魔王」

「だまれ! この魔物の王に人間の姿をとらせおって……! 全員、生きて帰れると思うなよ!」

「前の前の魔王は常時人間態だったっていうし、そこは拘る必要ないと思うな。それにその姿になったところでドラゴンの時とそう実力は変わらないじゃないか」



 なんだ、ナイトさんの話どおりならやっぱりグラブアが異常だっただけで魔王も私と同じでゴーレムの時と人間態との強さは大体同じなのね。安心した。



「だまれ、だまれぇい!」



 魔王はその場で斧を振り下ろし、地面を割るような衝撃波を放ってきた。しかしそれはナイトさんとガーベラさん、勇者二人の同時攻撃で簡単に防がれる。

 だが魔王はその衝撃波と一緒に自身も二人に突撃を仕掛けていた。ガーベラさんの首をつかもうとしていることは明白。人間態になると魔王もスピードが出せるようになるみたい。

 ……リンネちゃんが横からすっ飛んできて、魔王に飛び蹴りを入れたため、何事もなかったけど。



「おお、さすがリンネちゃん。いいよいいよ!」

「今のでもダメージって入らないんですか?」

「うん、衝撃で吹っ飛びはしたけど痛くも痒くもなかったはずだよ」

「そっか……残念」



 ナイトさんのいう通り、飛ばされた衝撃で崩れた壁の中から無傷の魔王が出てきた。しかし、その顔はまた驚愕している様子。

 


「こ、小娘……ッ!」

「ぼく?」

「貴様、なぜ勇者の力が使える!? 明らかに、それは、それはそこにいるアンデット野郎と同じ力! 人間が行える超高速とは別次元の力ッ!」

「それはナイトさんに教えてもらって……」

「教えてもらってできるようなものではないッ!」



 たしかに教えてもらってできるんだったらお父さんが真っ先にできるようになるはずだものね。

 魔王は次に私の方を向き、指差した。



「そのゴーレムの主もそうだ! 先ほど、我の魔法を感知したその力……それは今代の勇者の力ではないのか!?」

「察しがいいね。ガーベラ君の能力に気がついていた上にロモンちゃんが同じ力を持ってると見抜くとは」

「……となると、となると、だ! 明らかに尋常ではない進化! 小娘共が勇者との特殊な力の一端を使えるその不可思議! 答えは一つ……一つだ、貴様ら、すでに手にしているな? 賢者の石を!」



 そして、私の方を向く。



「そういえばあの時の回復力……まさか、お前が?」



 どうやらついに気が付かれてしまったみたい。まさか気が付かれてしまうとは、長年、魔物の王として君臨していただけのことはある。……さて、これから私はどうしよう。





#####


次の投稿は8/24の予定です。


お久しぶりです、Ss侍です。

1ヶ月半ぶりの投稿、本当にお待たせしました。

ただまだあまり調子の方は戻っておりません。この話を書くのにいつもの四倍時間がかかったり……。休止を述べたあの頃よりはだいぶマシですが、まだ完治には至らなさそうです。

投稿予定日の通りに投稿できない場合は、再度連絡いたします。

申し訳ありませんでした。

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