第326話 戦いの準備でございます!

「……ただいま戻りました、王様……」

「いやぁ、おかえりおかえり!」



 出発してから5日後、タイガーアイさんが無傷で帰ってきた。偵察に関しては右に出る者はいない、王様は彼が魔王のもとへ向かってから毎日言っていたけれど本当のことだったみたい。



「で、どうだった?」

「犬の子の……ほぼ……計算通り。地下に……多数、そして……超大量の魔物がいる場所が……ありました」

「なるほど、地下かぁ」



 どうやらビンゴだったみたい。まさか本当に魔王の居場所が判明してしまうとは。いえ、もし仮にこれが魔王の居場所でなかったとしても、拠点の一つであって幹部が何人か居ることには変わりはない。十分な準備をして叩けばこちらが一気に有利になる。



「一応念のために訊くけど、みんな戦う準備はできてるよね?」



 王様は、みんなが既に気持ちの整理もついているのを知っている。だからその質問に返ってくる答えは一つ。

 私達はこの一ヶ月以上特訓をし続けた。そしてしっかりと実力がついた。普通なら一ヶ月前後ぐらいの期間じゃ大幅に強くなんてなれない。

 でも、お城に招かれる前から私達四人と一匹はそれぞれ個人でSランクに近い実力を持っていたこと、私という賢者の石がずっと一緒に居たこと、各々の師匠達がこの世界でも指折りの実力者であること、これらの要素が奇跡的に混じり合ってしまった。だから強い。



「その顔は……できてるね。ふふ、いいね。そうこなくっちゃ。僕、実はね今回のメンバーが過去、魔王討伐に参加した団体の中で最強なんじゃないかって踏んでるんだ」

「たしかに、そうかもしれませんな」

「そもそも王様、前回の魔王討伐は幹部への相手すら勇者一人に任せているのです。仲間が居る時点で楽勝だと思うよ」



 こういった場では最近発言を控えていたナイトさんが何故だか嬉しそうにそういった。楽勝とまで言い切るなんてね。まあ、SSランク相当が二人、Sランク相当がガーベラさん含め九人もいるんだもの、その気持ちは分からなくもない。



「あとね、友好国のみんながAからSランクの冒険者や騎士を派遣してきてくれるし、この国内でもランクが高い冒険者を雇おうと思ってるんだ。相手には魔王軍幹部だけじゃなくて、普通の魔物も配下にたくさん居るんでしょ? タイガーアイ」

「ええ……その通り……。何千……いや、何万は……」

「だからそんな感じで募った人たちにはそういった雑多な敵を相手してもらおうと思うよ! まあ、本当だったらこの場に一人で何千体を相手にして殲滅できる能力を持ってる人が何人もいるから不必要ではあるんだけど、念には念を入れないとね」



 王様のいう対群殲滅ができる力を持つ人物は、おじいさん、お母さんとベスさん、ロモンちゃんとケルくん、ペリドットさん、そして私のことでしょう。Aランク以下の敵だったら一撃で、なおかつ大量に倒すことのできる術をもっている。何万体も倒せるかは不安だけど、そこは協力してくれる方達に頼りましょう。



「蘇った魔王軍幹部達はそれぞれ任せるよ。特にロモンちゃん、リンネちゃん、アイリスちゃんの三人はこの中で一番魔王軍幹部達と接触してるから、期待してるね」

「お任せください!」

「頑張ります!」

「うんうん」



 少し前の私たちでも何やかんや魔王軍幹部には食い下がれていた。いまなら各個撃破もできてしまう気がする。

 でも相性は考えなきゃダメね。例えばサナトスファビドだったら毒が完全に効かずかかったとしてもすぐ回復できる私でないと大事に至るし、逆にグランルインクラブ……とにかくあの人が目の前に来たら嫌なことを思い出すので、別の人、特に男性に相手してもらわなければならない。……それとオーニキスさんが現れた場合、あの人と親交が少なかったナイトさんかガーベラさんに任せたほうがいいだろうし。



「それと魔王本人と戦うときになったらだけど、たしか魔王種って勇者から以外の攻撃によるダメージを激減させる特技を持っていたはずだから、ガーベラくん以外は無理をしないこと。例えジーゼフやナイトさん、アイリスちゃんだってまともにダメージ与えられない可能性があるからね」

「勇者以外の人物が魔王を倒してしまったらそれこそ格好もつきませんしな!」

「まあね、確かにそうだね」



 魔王に対して勇者が必要な理由は、王様の言ったように魔王は勇者から以外の攻撃によるダメージをほとんど通さないから。

 むしろナイトさんとおじいさんが連携してダメージを抑えても意味ないくらいの火力の技を出し、倒せてしまっても私は面白いと思うけどね。



「さてと、まあ大雑把な決め事や状況報告はここらへんにして、これからちゃんとした作戦を立てようか。魔王はなんとしても倒さなきゃいけないからね……」



◆◆◆



 七時間に及ぶ作戦会議が終わった。もちろんこのお城の策略家さん方も頑張っていたけれど、一番意見を出していたのはケルくんだった。出した意見のうちいくつかは実際に行われることになったし。あの子は一体どこを目指してるのかしら、そろそろ本格的に人間化した方がいいような気がしてきた。


 ……とにかくこれで、あとは作戦にのっとった準備をして当日を待つだけ。その当日まであと三日間。

 私はこの戦いで私自身が死んでしまったり、私と親しい誰かが亡くなったりするとは思っていない。そもそも死にそうになってたら私がすぐ回復させちゃうもの。大丈夫。

 


「ねーねー、アイリスちゃん」

「アイリスちゃん」

「はい、なんでしょう」

「私がこの戦いで一番心配なのはアイリスちゃんなんだよ?」

「ぼくもそうだよ」



 双子が私の腕にしがみついて上目遣いをしてくる。胸がキュンとしめつけれるほどに可愛い。



「そ、そんなに心配ですか?」

「心配だよ、心配! だってこの戦い、アイリスちゃんのことがバレたら一番狙われるのはアイリスちゃんだもん!」

「それにアイリスちゃんの悪い癖はなくなったわけじゃないからね、ぼくたちがしっかり監視してなきゃ」



 まあ、たしかに誰かを庇って死んじゃったりするのが一番私らしい気がする。いや、この戦いが終わったらすることがたくさんあるし、まだまだ死ぬわけにはいかないけど……って一度死のうとした私だもの、説得力なんかないけどね。



「そうかもしれませんね、気をつけなければ」

「でもね、大丈夫、ぼく達アイリスちゃんのこと守ってあげる!」

「私達のことアイリスちゃんが守ってくれてきたように、私達がアイリスちゃんを守るの!」



 二人は自慢気な顔をしてそう言った。この二人、なにができるようになったかまでは知ってるけど、それを本気で扱ったら相手がどうなってしまうかまでは私は知らない。


 ロモンちゃんは見事、半魔半人をしながら自分の意識を保つことが当たり前のようにできるようになった。これで自由に仲魔と連携が取れる。

 その上、自分と契約していない魔物や人間にも潜り込める。まだおじいさんのように勝手に記憶を覗いたりとかはできないみたいだけど、今はそれで十分。

 リンネちゃんもやはりナイトさんほどでないにしろ、自分の周りの時間を遅くする特技を半分くらいの精度でできてしまうらしい。二人の剣士に集中的に鍛えられたこともあり、純粋な技術力もスピードも高まっている。

 

 おそらく魔王軍幹部相手にはこの二人も手加減をしないでしょう。この二人が殺す気で全力を出した時、相手はどうなってしまうのか。



「……ふ、ふふ。可愛らしいお二人が守ってくださるんですから、きっと無敵ですね」

「強さに可愛さって関係ある?」

「ないよね?」

「あるんです、可愛いは正義なのですよ」

「それだったら王様が最強になっちゃうんじゃないかなぁ」



 可愛いと周りの士気も上がりますし(主に私の)、民衆からの人気も出るでしょう。やっぱり可愛いと強いとは密接に関係があると思うのよ、私は。リンネちゃんの言う通り王様が実際みんなの士気を上げまくってるわけだし。





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