第322話 タペペドンを解析したのでございます!

「おはよう二人とも。巨盾のアイアくんと戦ったそうだねぇ」



 朝、私とガーベラさんで一緒にお城へ来たら、お庭で姫様と薔薇を見ながらジュースを飲んでいる王様と遭遇した。そして、昨日の夜の出来事をいきなり指摘されてしまう。一旦夜中を挟んだっていうのに、情報が届くの早すぎじゃないかしら。

 あ、でも、逆に勇者とSランクの冒険者が個人的に手合わせしたっていう情報自体大きいものだから伝わらないほうがおかしい?



「あの人相手に楽勝だったらしいじゃない!」

「いや、そ、そんなことは……」

「まあガーベラくんは謙遜しちゃうよね。で、どうだった? アイリスちゃん」

「実際はガーベラさんの一方的な攻撃のみで試合は終わりました。ガーベラさんは無傷です」

「ほらねー!」



 王様は嬉しそうに微笑んだ。王様にとっては勇者は強くいてもらわなくちゃいけないものね。



「聞くところによると、結構ノリノリで戦ったんだって? もしよかったら他国からSランクの人達招集して、手合わせしてみるってこともできるよ」

「本当ですか!?」

「うん、僕にとってはこの世界の国の全てが友好国だからねー。遠すぎるとこからじゃなきゃ、呼べると思うよー」

「……まあ、お爺様の代まで敵対国だった国も、お父様が友好国にしてしまったんですけどね」

「えっへん!」



 本当に王様はとんでもないわね。姫様の言うことを自身の可愛さと交渉術だけでやってのけたらしいのだから。

 この世界のすべての国の友好国ってことは、どこかが戦争を始めようとしていても止めることもできるってことでしょう? 見た目のせいで実感湧かないけど、かなりの偉人よね。



「では、その、お願いします。特に誰と戦いたいなどの希望はありませんが……」

「うんうん、オッケー! いい子を見繕っておくよ。で、話は変わるんだけどさ、あの、タペペドンだっけ? あの魔物について解析できたよ」

「一晩でですか!?」

「ジーゼフ、ノア、ロモンちゃん。この国が誇る魔物使いトップ3人が解析に揃って参加したからね、一瞬で終わったよ」



 ロモンちゃんも参加してたんだ。それなら確かに解析が早く済みそうね。おじいさんとロモンちゃんが居る時点で、タペペドンの中の情報も好き勝手覗くことができるし。

 


「それで……どうでした?」

「やっぱり魔王の手先だったよ。その魔王、ジーゼフ曰く、間違いなく昔に封印されたのと同一個体だってさ」

「そ、そこまで分かったんですか!」

「うん。あ、そういえばガーベラくんって前の魔王の主な能力、知ってる?」

「いえ、実は知らないです」

「じゃあ教えてあげよう」



 前の勇者の代で封印された魔王種のドラゴン。もちろんSSランク。そのドラゴンの力の一つに自分の配下の魔物を強制的に進化させるというものがあるらしい。だからSランク超越級の幹部がわんさかいるというわけね。



「あのタペペドン、ジーゼフによると元々は通常種だったらしいんだけど、無理やり亜種にされたような痕跡があったみたいなんだ」

「なるほど」

「まあ、魔王によって能力は違うから、歴代の魔王が全員タペペドンを使ってたという説はあんまり有力じゃなくなったけど、今回の魔王は前もあの魔物をつかって偵察してたってことはわかったよ」



 確かに空が飛べる魔物の透明化能力は使い勝手が良さそうだものね、前回と同じ手口を使うのもわからなくないわ。

 あ、そういえば一番大事なこと聞かなきゃ。あのタペペドンがどうやって魔王に情報を伝えるつもりだったか。たぶんおじいさん達のことだからそれも判明しているのでしょう。



「あのタペペドンから魔王はどのように情報を受け取るつもりだったのでしょうか?」

「なんか眉間にアイテムが埋め込まれていたみたいなんだ。所持している者の記憶を保存して、別の人がそれを壊せば、壊した人に記憶がうつるっていうものだよ。記憶玉って言うんだ」

「そんなものがあるんですか!?」

「うん、手に入れようと思えば僕でも手に入れられるよ。まあ、最終的に記憶玉を埋め込まれた対象は、取り出す時に必ず死んじゃうから、今の時代で使おうとする人はいないけど。でも戦争が盛んに行われていた時期は結構流通してたみたいだよ」



 要するに、ガーベラさんがタペペドンを打ち落とした時点で情報の漏洩は防げたってことかしら。本当にガーベラさんの勘が鋭くてよかったわ。

 ……あれ、もしかして、タペペドンに埋め込まれた記憶玉って私達が使っても効果あるんじゃないかしら。あの魔物がお城へやってくるまでの道順を知ることができちゃうわよね? そしたら魔王達の居場所がわかっちゃう……。



「あの、王様。その記憶玉を私たちが使ったら、魔王の居場所を割り出すこともできますよね?」

「もちろんできるよ! 今日の話し合いの一つに、その記憶玉を誰が覗くか話し合おうと思ってたんだ」

「一気に魔王討伐まで進みますね」

「うんうん!」



 やっぱり、私達を含めた人材の優秀さや準備の状況といい、今回の魔王討伐は早く済んでしまうんじゃないかしら。過去のことは知らないけど、それでも相当順調な気がする。

 


「……っ!!」

「どしたの、ガーベラくん」



 突然、再び昨日のようにガーベラさんが何かを感じ取ったかのような表情を浮かべた。そして、何も言わずに城内へ向かって走り出す。



「わわっ! え、なに、また魔王軍かな!?」

「私、彼の跡を追います」

「わかったよ、あとで状況報告お願いね。僕達はお城のみんなに緊急事態だよって知らせるから」

「わかりました」



 私は自分に補助魔法をかけ、走っていくガーベラさんを追いかけた。そしてすぐに追いついた。

 


「どうしたんですかガーベラさん、突然!」

「記憶玉……そんなもの、魔王達が黙って放っておくわけないよなって思ったんだ。そしたら予感がした。誰かが記憶玉を取りに来るって」

「どこに来るのかも大体分かっているのですか!?」

「だいたいね!」



 私はそのままガーベラさんについていく。彼が向かった先は研究室。おじいさん達がタペペドンを解析したところ。探知で見ると、まだ人の気配がある。



「扉を開けたらどうなっているか……」

「早く中へ入りましょう!」



 たどり着いてすぐ、私は研究室の扉を開けた。薬品の臭いが充満しており、台の上にはタペペドンの骨と切り分けられた肉や内臓が乗っている。そしてそこにいた人物というのは……じいさんであった。



「おお、アイリスとガーベラ。おはよう。昨日は夜遅くまで出歩いておったそうじゃな?」

「え、えっと……あの……」

「なに、ワシの孫娘となったアイリスが危険な目に遭わなきゃいいのじゃよ。そうじゃろ?」



 おじいさんは特に変わったことがない様子で話しかけてくる。ええ、話の内容自体は普通なのだけど、その手に握っているミミズと蛇のあいの子みたいな魔物はなんなのかしら。



「あの、それより、その、手に持っているものは……?」

「これか? これはたぶん魔王軍の魔物じゃな。大方、タペペドンに入っていた……」

「記憶玉ですか? 先ほど、お庭にいた王様から大体の話を聞きました」

「そうか、なら話が早い。その記憶玉を取りにきたんじゃろうて」



 流石おじいさん……。でも、こんなところに魔王軍の手先が入り込んでくるなんて、やはりオーニキスさんの仕業なのでしょうね。味方だと思っていた人がこのように敵対行動をしてくると、悲しくなってくる。



「ちょうど今捕獲したところなのじゃが、まさかいつもの予知だけでここまで駆けつけてきたのかね、ガーベラ」

「そうです。でも良かった、ジーゼフさんがいてくれて」

「そりゃそうじゃろ! あんな貴重なもん、取り返しに来るに決まっておるからのぉ。解析が終わり次第、先にノアとロモンを帰らせて正解じゃった。ちなみに記憶玉は、今、クロに持たせてワシの魔封書の中にある」

「それなら安全ですね!」

「あとはこの記憶玉の中身を誰が見るか決めるだけじゃな。あと一時間もしたら王様が話を始めるじゃろう。それまでゆっくりするといい……ああ、こんな魔物の死骸がある場所以外でな」



 とにかくよかった、おじいさんがなんとかしてくれて。とりあえず王様にすでに騒動が済んだって報告しなきゃ。

 ところで、記憶玉の中身を覗くの、私が立候補しようかしらね?  探知も小石視点があるから、私は案外何かの探索に向いてるのよね。それに、魔物の記憶を入れるのなら、やっぱり元は魔物だった存在の方がいい気がするわ。




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次の投稿は1/27です!


近況報告等でも連絡しましたが、1/22(水)の午後7時に私の新作を投稿します! 三年ぶりの新作、是非ご覧ください!

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