第320話 ギルドへ顔出しでございます!

 就任式・任命式が終わってから、王様達は会議に入った。もちろん、魔王軍が偵察用の魔物を送ってきたため。タペペドンの死体は早急に回収され、今は検査をしている最中。あの魔物が見ていた内容を魔王に直接送っているのか、それとも魔王の元に戻ってからやっと情報が届くのか。そこらのことも判明させなければならないわね。前者だとしたら手遅れ。ガーベラさんや私たちの情報は掴まれていることになる。

 私は今、ガーベラさんのお屋敷の中に一人でいる。今日は彼と一緒に過ごす予定だったのだけれど、彼は会議に参加させられてるから。何週間か前に渡された合鍵を使って、屋敷の中で待っててと言われたのでその通りにしている。お風呂も先にもらってしまった。夕飯は打ち上げのパーティーで済ませたし、あとはもうガーベラさんと寝るだけ……。

 なんだかこうして彼氏を待っているって、とっても彼女らしいことしてる気分になる。待たされている立場だけど、ワクワクするわ。



「ただいま」

「……! おかえりなさい!」



 屋敷の扉が開き、ガーベラさんが帰ってきた。私は思わず玄関まで飛び出してきてしまう。非常に疲れていた様子のガーベラさんだったけれど、私を見て微笑んでくれた。



「ごめん、だいぶ待たせたね」

「いえいえ! ガーベラさんは勇者です。忙しいのは当然なのです。これからお風呂に入って、すぐ床につきますか?」

「んー……小腹が空いてるし、こう……明るいところに居たい気分というか……そうだ、あそこに行かない?」

「あそことは、ギルドですか?」

「そうそう」



 疲れているからこそ、明るい場所でテンションを上げたいということかしら。私に甘えてきてくれても良かったのだけれど。

 まあでも、あそこならお酒も飲めるし、食事も注文できる。営業時間も朝まで。それに修行やイベントの準備が忙しかったためもう三週間は行ってない。みんなに顔見せするという意味でも行った方がいいかしら。

 ……ただ、ガーベラさんは今は外出を控えた方がいいと思うわ。今日は魔王軍の一端と接触があったわけだし、それに勇者として知れ渡ったから一般の方から声をかけられるかもしれない。下手に動かないのが一番よね、やっぱり。



「今日、魔王軍の襲撃があったばかりです。また別の日にしませんか?」

「そう言うと思ってね、王様にこんなものを貰ってきたんだ」



 ガーベラさんはスペーカウの袋からスカーフのような布を数枚取り出した。明らかになにかしらの効果が込められているのがわかる。



「これは……?」

「帰り際にもらったんだ。どこかに身につけると視認されなくなったり、視認できても目立たなくなる布だよ。俺たちの名が知れ渡ることを悟って王様は前々から準備してくれていたらしい。行動を縛ってストレスをためないようにするためだってさ。リンネちゃんとロモンちゃんの分もあるよ」

「な、なるほど」


 

 かなりの高級品に見えるけど、四枚も頂いてよかったのかしら。王様は私たちのことを全力でサポートするつもりだと言ってるし構わないのかしらね。ガーベラさんは私に三枚、その布を手渡してきた。双子には私から渡しておく。

 ちなみにこの布、騎士団長クラスになればだいたいみんな持っているらしいわ。お父さんとお母さんが日中堂々とデートする時もあると言っていて驚いた記憶があるけど、こういうことだったのね。



「そういうことでしたら、私、お化粧直ししてきますね」

「じゃあ俺は軽く風呂に入ってくるよ。出かけるならそれからの方がいいだろう」

「そうですね」



 それぞれ身嗜みを整えて、出かける準備が整った。前に住んでいた場所よりギルドはそこそこ遠くなってしまっている。となると道中は軽い、夜のデートになると言える。お父さんやおじいさんにバレたら怒られてしまいそうね。

 私はさっそく王様から頂いたものをスカーフとして身につけ、ガーベラさんはどこにつけるか迷ったあげく腕に巻きつけた。柄も色も一緒なのでわざわざ合わせたように見える。

 私とガーベラさんは屋敷を出てからお互いの手を握る。こうやってするのも昔よりは慣れたもの。やろうと思えばいつでも、どこでも手を繋げるくらいには気軽になった。

 夜道を二人で並んで歩き、だいたい20分ほど。長くお世話になったギルドへと到着した。相変わらず中は騒がしい。そして、私やガーベラさんの名前がかなりの頻度で話題に挙がっているみたい。私達はゆっくりとその扉を開いた。



「ん!? おい、アイリスちゃんとガーベラじゃねぇか!」

「噂をすればなんとやらだねぇ」

「かなり久しぶりだな!」

「あ、ああ、みんな久しぶり!」



 彼らは入ってきた私達のもとへ一気に集まってきた。ほとんどみんな見知った顔ばかり。三週間じゃそうそう環境なんて変わらないだろうけれどそれでもなんだか安心するわ。



「いやー、ここ最近付き合いが悪いなとは思ってたけど、まさか三週間も空くとはな」

「ギルドマスター! お久しぶりです」

「ははは、なにより意外なのはガーベラが勇者だったことだな。もちろん、四人揃ってSランクに上がったのも驚いたが」



 私達はみんなに勧められるまま席についた。全員から注目されている。何か話したいことがあってうずうずしてるみたい。近くにいる人から口々に質問を投げかけてきた。



「勇者になってみてどうだい!?」

「……なんとも。まあ大変ではあるよ」

「おいおい、壇上で言ってた彼女ってアイリスちゃんのことなんだろ、おいおい」

「今日は手を繋いで来てたもんね。ラブラブですな」

「もうそこまで進んでるのかぁ」

「その通り、あれはアイリスのことだ」

「「ふぅ〜〜!」」



 そのほかにも、修行は大変じゃないかとか騎士団長達はどんな人たちだとか、魔王軍と戦うのは怖くないのかだとか。食事を頼む暇もないくらいの質問責め。特に多かったのが昼間に貴族の方々がした質問への追従かしら。賢者の石のこととか、前世のこととか。あとはなんで魔物がいることが分かったのか……とかも訊かれたわ。



「おいおい、お前ら、ただでさえアイリスとガーベラは城に勤めてて大変なんだぞ! そんな質問しまくったら可哀想じゃねぇか」

「いやぁ、でもギルマスさ、伝説の存在が知り合いとなるとねぇ?」

「よく考えたらアイリスちゃんからしてそもそも伝説的だしなー。伝説カップルだよなー」

「たしかに」

「……ったく。ところで王様からなんかいいもんもらったりしてねーか? あの王様太っ腹だからなぁ」

「ギルドマスターも質問してんじゃんか!」

「おっと! だがな、気になるんだよ……ってのも、実はな?」



 ギルドマスターによるとなんと、このギルドからSランクの冒険者が一気に多数排出されたため(私たちのこと)、今度表彰されて、建物を新しく国のお金で建て替えてもらえるらしい。そこまで聞くとたしかに太っ腹だわ。王様、どこからお金を出してるのかしら。



「そんなことが……」

「だからガーベラやアイリス、あの双子もいいもんもらってんじゃねーかなーって、そう考えたわけよ」

「まぁまぁですよね、それは」

「うん、勇者として必要な分とかね」



 実際、お屋敷とかアーティファクトとかいろいろなものを貰ってる。四人揃ってね。そりゃあ、ガーベラさんは勇者で、私は賢者の石で、ロモンちゃんとリンネちゃんは名家の娘だからと理由づけはできるけれど。太っ腹なのはたしか。



「俺、今日の任命式は前の方で見れたんだけどよ、いいもん装備してたもんなー、ガーベラって……ん?」

「どうかされました?」

「いや……ちょっと雰囲気変わったやつが来たなと」



 ギルドマスターは入り口の方を向いている。たしかに、そこだけ空気が違う。魔物が来たというわけではないから、魔王軍ではないのでしょうけれど。こんな時間に依頼者かしら? でも、昔の私じゃあるまいし。

 ギルドの扉が開かれ、「失礼する」と言いながら一人の男性が入ってきた。どこかで見覚えのあるその人。こんな時間なのに全身鎧で固めてる。……うーん、どこで見たのだったかしらね。ほとんどの人は知ってるみたい。ギルドマスターが応対するために私たちの元を離れ、彼に近づいた。



「おいおい、『鉄壁のアイア』じゃねーか。なんでこんなところに。移籍希望か?」

「さ、酒臭い……。あなたがここのギルドマスターか?」

「もちろんだとも。で、用はなんだい」

「私はここによく、かの勇者が入り浸っていると聞いてやってきた。会わせていただきたい……と言いたいが、もうそこにいるようだな」



 ガーベラさんに用事ね。もしかして童話か何かで勇者に幼い頃から憧れていて、直接話してみたかったとかかしら。隣にいるジエダちゃんが「うわぁ、本物だ……」と言っていたのであの男の人が何者か聞いてみることにした。



「アイリスさん知らないんですか? 彼はSランクの冒険者、巨盾使いの戦士、鉄壁のアイアですよ。ほら、あの蟹の魔物が現れた時も討伐に参加していた……」

「ああー、あの方ですか」



 通りでやけに見覚えがあると思ったわ。何回か見てるんだもの、当然よね。

 指名されたガーベラさんは立ち上がり、私の隣から離れてギルドマスターの隣で止まった。



「俺に用ですか?」

「うん、本物の勇者ガーベラのようだな」

「そりゃあ……まあ……」

「ではお願いしたいことがある。この私と戦ってくれないか。いや、この私に勇者としての実力を示してくれ」




#####


次の投稿は1/13です!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る