第309話 ガーベラさんの試合本番でございます!
「……強いな」
「ええ~、途方もなくね~」
「底の知れなさだけで言ったら総騎士団長と同じくらいか、それ以上……!」
ナイトさんとは初対面のお三方も、すぐにその強さを直感で悟ったみたい。そういえば私たち、ナイトさんがすごくて強い人だっていうのは知ってるけどどんな戦い方をするかまでは把握してないのよね。剣で戦うことはなんとなくわかるんだけど、ついでに今日見せてもらえたりしないかな。
「ナイトさん、僕、ナイトさんの実力が見たいな。どのくらい強いのかちゃんとね」
「オーケィ、いいでしょう。お見せしますよ」
「それじゃあガーベラくんの後にみせてもらおうかな!」
おお、王様も同じようなこと考えていたみたい。でも誰と戦うことになるのかしら。おじいさんかな? SSランクの極至種とまともに戦えそうな人なんてあの人しか思いつかないし。
王様はナイトさんを下がらせ、ガーベラさんを自分の前に来るように言った。ガーベラさんは一瞬私の手を握ってから、表情を覚悟を決めたようなものに変え王様の元へ向かっていく。
「よし、じゃあガーベラくん、心の準備はいいかい?」
「はい」
「相手はランスロットくんがするよ! ランスロットくんはこの国一番の槍の使い手にして僕の自慢の部下! 手を抜いたりしちゃダメだよ? 本気で挑んでね」
「承知しています」
「じゃあランスロットくんもこっち来て!」
壁際にもたれかかっていたランスロットさんも、力強く一歩足を踏み出した。その表情はさっきのガーベラさん以上に真剣そのもの。彼も手加減する気は一切ないのでしょう。……怪我は私がいればいくらでも、どうとでもなるから、是非ともガーベラさんと本気でぶつかり合ってほしい。
「二人とも、装備品も本気出しちゃってね! 自分が持っているものの中で一番いいのを装備するんだ。それじゃ、二人とも……よいしょ。この中で着替えてね」
王様はドアがついた箱のようなものを高級そうなスペーカウの袋から取り出した。簡易的な更衣室なのかしら。ガーベラさんとランスロットさんはその中に入る。五分後、二人ともその更衣室の中から出てきた。もちろんフル装備。アーティファクトも惜しみなく使う。
ガーベラさんが今まで手に入れたアーティファクトは三つ。怪力になる籠手と、行動予測が冴えて魔力の蓄積もできる鎧、そして白色と金色が目立つ槍。槍はどんな効果か聞くのすっかり忘れてて知らないのよね。今回で確認できるといいけど。そして盾や鉄履は私の身体で作ったもの。未だに照れる。
一方でランスロットさんは全身アーティファクトでできているようだった。ただ、盾はないから盾を装備するタイプの人じゃないみたい。
「準備できたね! さっそく始めちゃおうか。勝敗は基本的に降参か気絶ね! あと重傷を負ったら審査して止めるよ。審査員は騎士団長全員ね。いい?」
「わかりました」
「構いませんぜ、王様」
「じゃあ、勝負開始!」
王様のその言葉とともに二人は自分の手に持っているものを構えた。ピリピリとした空気が漂う。
……でも、二人とも動こうとしない。なんらかの一定以上のレベルに達した達人同士は維持すると、しばらく動かなくなることがあるけれど、まさにそれが起きている。実力がSランク同士の戦いだし、こうなるのも仕方ない。
「お姉ちゃん、どっち先動くと思う?」
「ガーベラさんじゃないかなぁ」
「あ、やっぱり? 私もそんな気がしてた」
実は私もそう予想している。……いや、たった今、その予想が現実になった。ガーベラさんがランスロットさんに向かって一歩足を踏み出したの。
ただ、先に攻撃をしたのはランスロットさんだった。間合いに入った瞬間、槍の先端がガーベラさんの頬をかすめた。ものすごいスピードで。リンネちゃんを見慣れてなかったらまず攻撃したことすら分からなかったと思う。ただ、かすめたということはガーベラさんもそれを回避したということ。……なんだか、攻撃される前に避けていたような気がする。
無論、先手を回避できたガーベラさんには大きな攻撃のチャンスが生まれたわけで。ガーベラさんはランスロットさんに向かってその白い槍を打ち込んだ。しかしランスロットさんは槍の柄を盾にして、直撃を免れる。
直撃を免れたのはいいけれど、怪力になるアーティファクトを装備しているガーベラさんの攻撃をそのように受けて無事であるはずがない。案の定、ランスロットさんは後方にかなりの距離を吹き飛ばされた。ガーベラさんはその隙を逃さぬよう、間合いの外から再び槍を振るう。その槍は水色に発光していた。放たれたのはビーム。前に一緒に仕事をした時に見せてくれたあの技だ。
ランスロットさんはビームを素早く回転させながら打ち、軌道をそらした。お母さんの方に飛んで行ったけど、それはお父さんが撃ち落とした。そこで、ガーベラさんとランスロットさんの手が一旦止まる。
「様子見はこんなものか」
「……そうですね」
「悪いな、グライド」
「気にしないでくれ」
「じゃあ、お互い本気出すか。……久々に楽しめそうだ」
「はい、よろしくお願いします」
「はは、礼儀正しいね」
ランスロットさんは、自分の頭の上で槍をぐるぐる回してから、深く深く構え直した。対するガーベラさんは腰を落とし、防御の面を際立たせるような体制をとった。
先ほどとは変わってランスロットさんの方から仕掛ける。一瞬で間合いが詰められ、私でもギリギリ見えないほどの突きがガーベラさんを襲う。でもやっぱりガーベラさんはその攻撃が繰り出される前に行動していた。なんと、槍先を蹴り飛ばして弾いたの。そこからカウンター気味に槍を突き返す。
……その交わりから、激しい攻防が始まった。ランスロットさんが突き、ガーベラさんがそれを事前にわかっていたかのように弾いたり躱したりする。ガーベラさんが突き、ランスロットさんはその軌道を逸らす。
ランスロットさんが純粋に槍だけの技術で戦っているのに対し、ガーベラさんは自分の持っている技術を全て使っているような感じ。ただ、得物が槍なだけで。槍の技術自体はランスロットさんに軍配があがるようだけれど、魔法なしの打ち合いの総合的な強さはどちらもほぼ同じに見える。
「へぇ……ここまでやるんだ、ガーベラくん。まだ十八歳でしょ? すごいね」
「そりゃ、ワシの孫娘の婿候補じゃからの。このくらいでなければ孫はやれますまい」
「あれ、いつのまにジーゼフいたの?」
「物陰で見えなかっただけで、この部屋に最初からいましたぞ、王様」
「そっか」
私も正直驚いている。カタナ込みで私もあそこまでやれるかしら。リンネちゃんなら余裕であの戦いについてこれそうだけど。
いつのまにか魔法なしの実力の測り合いは終わったのか、ガーベラさんとランスロットさんの二人とも距離をとった。どうやら次のステージに進むよう。
「……ははは、いい、いいね。本当に素晴らしい。じゃあ、これはどうかな?」
槍を自分の体の周りで回していたランスロットさんは、やがて刃先を上空に突きあげたまま動きを止めた。衝撃波のようなものが上へ放たれる。
「サミダレ」
上を見ると、そこには槍のように尖った巨大な圧力が渦巻いていた。そしてランスロットさんが技名を唱えた瞬間、その圧力群はまるで雨のようにガーベラさんに向かって降り注ぐ。
一発一発が大きく、そして無数。槍の雨なんて生易しいものでなく、どちらかといえば槍のように先を削った丸太が絶え間なく落ちてきているような感じ。それも追尾機能も付いてて。
そんな圧力の一つが地面に当たった。地面はその形に大きくえぐれる。……騎士団長の技。もしまともに食らったら今の私(ゴーレム状態)でもそれなりのダメージを負ってしまうでしょう。ガーベラさんはどうするのかしら。
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