第300話 ガーベラさんのお家から帰るのでございます!

〔ばぁや、彼氏作らないの? うん……____家の人間はお見合いで決められた人と結婚するのが決まりだっていうのは知ってるけど、学生の間は自由だよ? えー、ばぁやが彼氏作ろうとしたらすぐできるよ。ほら、中学も高校も道場も一緒のあの人なんかどうかな? えー、顔も性格もいいけどなんかちょっと考えられないって……?〕


〔 ____! あ、いや……その、おはよう。え? 彼氏!? ま、まさか恋人が……? あ、ああ、違うの、よかった。あのお嬢様とそういう話をね……。うん、____ならすぐできると思うよ。自信もってよ。俺だって……〕


〔 ____のいう通りだ。石の上にも三年。頑張ってきたから俺もここまでこれた。まさか優勝しちゃうなんてな。……でもなんでまだ俺は____に勝てないかな。とほほ……〕


〔危ないって! わかってる、お嬢様がまだ中にいるのはわかってるから! いくら_____でも女性の腕力じゃ流石に限界がある、ここは俺が行く。いいさ、____のため、いや、____の大事な人のためだったらたとえ火の中だって突っ込んでやる。いや、たとえじゃなくて、実際か。ここでまってて〕



◆◆◆



 ……前世の夢を見た。ここまでしっかりと見たのは久しぶりかもしれない。ここ最近はお嬢様と私らしき人物が呼んでいた女の子との他愛のない日常会話くらいのものしか見なかった。

 あの私にしては珍しい親しげな男の人は、それなりに出てくるのだけれど、相変わらず一体誰なのかしら。でも現れてくれると少し落ち着くの。夢の中では顔がぼやけてて誰どんな表情してるかわからないけれど……なんとなくガーベラさんに近い気がする。まさか……! いや、いやまさか、まさか。……その線もなくはないくらいに留めておこうかしらね。

 でも今回の夢の最後……燃える大きなお屋敷に私の友達の男の人が突っ込んでいってる。お嬢様を助けるとかなんとか言って。明らかに危ないのに。怖かった、あのシーン、とてもとても怖かった。なんとも言えない消失感があって、私の今までの全てを失ってしまいそうな、そんな感じがした。



「顔色が優れないけど、どうかしたの?」

「いえ……」



 ガーベラさんは彼より遅く起きた私に朝食を作ってくれていた。昨日のこともあって顔を合わせづらい、なんてことはなく私達は普通にお互い向かい合って朝食を食べている。一度して仕舞えば彼氏とのキスくらいなんてことない。確かに特別なものではあるけれど、今まで自分が臆病だっただけね。



「あの……とてもお上手ですね、目玉焼き」

「ああ、料理は得意だから。でもそれより自信があるのはパンとベーコンだよ。俺が作ったんだ」

「ほぅ、自家製ですか!」



 パンはともかくベーコンの自家製はかなりめんどくさいのに。一口頬張ってみたけれど、それはもう何とも言えないほど美味しいベーコンだった。もしかして私より料理が上手なのかしら、ガーベラさん。本来の約束であった次一緒に食べるディナーの時にその本来の実力が伺えるかしらね。……もし私より優ってたら……ふふふ、まさか私にこんなプライドがあったなんて。ちょっと新しい発見。



「なんか元気出たみたいでよかった」

「え? あ、ああ! そうですね。この朝食が美味しいからですよ。約束のディナーも楽しみにしてますからね」

「うん、当日は腕によりをかけて作るよ。アイリスのために」

「私のため……」

「……ん?」

「あ、いえ。お気になさらず」



 私のため、か。彼氏としては普通の一言なのに夢のあの火事のシーンのせいでどうも心に突っかかる。

 私は朝食を十分堪能してから食べ終え、着替えたりおめかししたりして外出の準備を整えた。と言っても双子の元に帰るだけだけど。ガーベラさんと一緒にいるのも本当に至福なのだけど、ダブルの美少女に囲まれてハスハスするのは至高だもの。



「むふー、昨日と今日にかけてガーベラさんにスッピンを見せてしまいました。まあ初めてではありませんが」

「……そんなに変わらなくない?」

「大差ないように見えるメイクをしているのです。ちゃんと見比べばそれなりに違いますよ」



 まっ、男性はそのような苦労知らないかもしれないけどね。それならそれでいいの、ガーベラさんはそのままの私を綺麗だとか可愛いって思ってくれてるわけだから。

 私は荷物を持ってこのお家と玄関に出る。近いうちに私だけここに引っ越すこともあり得るのよね。



「送っていくよ」

「いいですよ、ここから宿泊先まで往復したら1時間はあるじゃないですか」

「30分は一緒に話していけるってことだろう」

「そうですか? そこまで言うなら」



 こんな朝に二人で歩くなんて初めて。いつもお昼頃だったから。あちこちでお店が開店し、ちょうどこれから人が増えていきそうな時間帯を闊歩するのは悪くない。他愛もない話をしているうちにあっという間に私達の宿に着いた。



「着いたね。じゃあ、また」

「あ、ちょっと待ってください!」

「ん?」



 私は帰ろうとするガーベラさんを引き止めこちらに引っ張って寄せた。彼と私は身体が密着した状態になる。私は軽く抱きつき、そして少し背伸びをしてガーベラさんにキスをした。



「……!」

「ふふふ、もうガーベラさんとはキスなら何度しても良いですから。そのかわり、約束はぜーったいに守ってくださいね?」

「う、うん!」

「ではまた。明日、お城で」

「うん、お城で」



 またキスしてしまった。ここで躊躇して日にち開けたりしたらまたしばらくできなさそうな気がしたから、そうならないように防止策。単に甘えてるだけでもある。私は宿に入り私達の部屋へ直行した。



「ただいまです、皆さん」

「お姉ちゃん、アイリスちゃんが私のものじゃなくなったよぅ」

「もうガーベラさんのものなんだよ」

「あ、あの……」

「大人になったアイリスちゃんおかえり、ふふふふふ」

「階段登ったアイリスちゃんおかえり、へへへへへ」



 双子が見たこともないような悪戯なニヤケ顔をしてる。過去一番かもしれない。いつもの天使のような容姿はどこへやら、今は悪魔に見える。



【二人ともアイリスがそこでガーベラと接吻してるの見たんだゾ】

「っ……! そ、そうでしたか……!」

「チューってしてた!」

「アイリスちゃんからしてた!」



 くっ……そこまで頭が回らなかった。完全に浮ついてたわね。私からアタックしたところまで見られてるならもう弁明の余地もない。……弁明する必要もないかしらね。



「ね、道端でキスできるってことは、もう夜に……」

「わぁ……! わぁあああ!」

【ん? アイリスもう子供できるゾ?】

「できません! そこまでしてません! キスまでですよ!」

「えーっ、見送った時、アイリスちゃんからそんな雰囲気が悶々としてたよ!」

「ロモンが言うんだから間違いないよ」

「し、失敗したんですよ!」

「「えーーーーッ!」」



 今度は二人とも顎が外れんばかりに口を開いた。今日は二人とも変顔をする日なのかしら。せっかくの可憐な顔が……。



「なんでなの!」

「おかしいよ!」

【根性なしもいいところだゾ、見損なったゾ、ガーベラ】

「ま、まあ色々とありまして。そのかわり……あの、結婚のしっかりとした約束もしてきましたから。そこまで言わないであげてくだい」

「やっぱりアイリスちゃんの初キス、私達が貰ったのがダメだったのかな?」

「でもアイリスちゃんのほうからぼく達にねだったじゃない」

【アイリス、ゴーレム時代のはカウントしないとか無しだゾ?】

「そ、それは関係ないと思いますよっ!」



 それから、この日は一日中二人と一匹に私とガーベラさんの関係についていじられた。もうほじくるところなんてないんじゃないかって言いたくなるくらいいじられた。もし、近い将来二人に彼氏ができたらおちょくってやろうと私は固く心に決めた。



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