第268話 ガーベラさんとケル君でございます!
【見ててね!】
「はい、見てますよ」
「あの子がまた強くなったって本当?」
「ええ」
私たちはガーベラさんといっしょにケル君ができることになった行動のお披露目会をしている。
ちなみにガーベラさんとは偶然遭遇した。よく考えたらロモンちゃんもリンネちゃんもぜんぜんギルドに顔を出してないことに気がついて、冒険者においてコミュニティは大切だから少しでも訪ねるようにと促し、三人と一匹で向かったらそこにいた。しかもまだ今日の仕事を受けている様子はなかったから私達に付き合うように言ったの。……ケル君が。
ガーベラさんにプロポーズをするという宣言をされてから一週間、毎日会っているけどあれからそのことに関する話は一度しかしていない。それも私の確認程度のもの。ただ本気であることはわかったので良しとする。
ただ一週間というのは大きすぎた。ケル君が私たちの訓練に参加しての日数でもあるわけだけど、私たちの三ヶ月を一気に追いつくかもしれないような成長速度を見せていった。もともと犬の魔物だし、その上意欲もすごいから色々あってたのかも。
そしてこのお披露目会。ケル君は自分が強くなると見せたがる癖があるのよね。
【いくゾ……!】
ケル君は助走を付けずに一気にトップスピードになった。リルちゃんに近い動きになってる。
「残像が見える……」
「そうですか?」
「アイリスはもう目が慣れちゃってるんだね」
確かにそうなのかも。ケル君は30秒間も高速移動を続けると、急に立ち止まった。そして尻尾を振りながら私たちの方を振り返った。
【まだ見ててほしいんだゾ。スフェルオ!】
「いつの間に補助魔法を……」
【三ヶ月の間に補助魔法や補助魔法、アイリス達が覚えていた魔法は大体習得したんだゾ。なにも本をのんびり読んでたわけじゃないゾ。たぶん次進化したら回復魔法も補助魔法も追いつくゾ】
得意げにそう言うと、ケル君は自身の補助魔法によりさっきより格段に早く動き始めた。私がいなくなっても、ゆくゆくはケル君が攻撃役で、ロモンちゃんが回復役、リンネちゃんがオールマイティな立ち役でやっていくなんて考えていたけれど……得手不得手はあるものの、まさか全員がそのオールマイティになるかもしれないなんて。
【ふぅーっ。ふぅーっ……どうだゾ?】
「とても良いと思いますよ。日々強くなって行きますね! ただ息切れしているようなので、あまり無理はなさらないように……」
【ふぅ……息切れじゃないゾ、集中してるんだゾ】
「まだ何かするの、ケル?」
【ゾ!】
ケル君はオーラを全身にまとった。確か普段ならここから火属性や雷属性を付与させて攻撃力を増したり、風属性を付与して素早さの底上げをしたりするはず。その風属性による素早さの底上げかと思ったけれど、そうではないみたい。
【オイラのオーラは全員に見せたことあるはずだゾ】
「うん、頻繁に使うわけじゃないけどね」
【今まではオーラを魔法と属性付与の物理技と掛け合わせたの型にはめることでオーラに属性を付与してたんだゾ】
これがなかなか難しくて、私とロモンちゃんとリンネちゃんではまだできていない。だからたぶん、私たちができなければ他の誰にもできない。強いて言うならそろそろ私がもう少しでできそうかなっていうくらい。それでも魔物状態の時にしかうまくいかない。
「なかなか難しいんだよね、それ」
「できたら便利なんだろうけど、俺はやろうとは思わないな」
【もしかしたら人間には難しいのかもしれないんだゾ。惜しいのがアイリスくらいだし。……ただオイラは簡略化より先にこの纏うオーラの強化をしてしまったんだゾ】
「というと?」
【オイラのオーラに、属性ではなく、魔法を付与できるようになったんだゾ。さらに一度の発動で複数属性をつけられるようになったゾ】
「えっと、つまり……?」
【見たほうが早いゾ】
ケル君はまずふつうに魔力を浮き出したもの……オーラを全身にまとった。次にそのオーラを媒介にして背中から素早さが上がる補助魔法のスフェルオを唱えた。
魔法陣が背中に現れる。ただそれが消える気配がない。普通は魔法が発動すると魔法陣はすぐに消える。なのに、ケルくんの背中に現れたオーラに包まれてる魔法陣は消える気配がない。
さらにケル君のオーラが緑色に変わった。つまり風属性を付与したのね。
【今のオイラは、素早さ上昇魔法を自分にかけ、オーラを風属性にして直線的な速さを上げて、さらに素早さ上昇魔法をオーラに纏わせてる状態なんだゾ。こうなると……】
「こ、こうなると?」
【超早くなるゾ】
今目の前のケル君と喋ってると思ったら、後ろから声が聞こえた。残像どころじゃない、今度は私も姿を捉えることができなかった。ただ反応できていたのはリンネちゃんだけ。
「すごいねケル!」
【やっぱりリンネはふつうに追いつけるのかゾ】
「たぶんもうぼくと同じくらいだよ!」
【現時点でガッチガチに補助魔法をかけてやっとだゾ。さすがリンネなんだゾ】
なんだか二人とも生き物離れしてる気がする。今の特訓が一通り済んだら、ケル君みたいに私も別方向の強さを求めた方がいいのかもしれない。
ガーベラさんは驚いた様子でケル君をじっと見てるので、声をかけてみることにした。
「ガーベラさん、どうですかケル君は」
「会うたびに強くなってて怖いな。本当にBランクの魔物なの?」
「はい」
「今からでも相性次第でSランクに単身で勝てるかもしれないよ」
と、ダンジョンを一人でクリアできSランクの強さを持つであろうガーベラさんはコメントした。よくわかんないけどここにいる全員強いってことでいいのかしら。私ももっと頑張らなきゃ。『ケル君が戦力になるのはいつかな?』なんて思ってたら、追い越されちゃったわけだし。
【というわけでだゾ、ここでガーベラに用件があるんだゾ】
「な、なにかな?」
【オイラと戦うんだゾ。あ、もちろん本気じゃないよ?】
「つまり模擬戦をしてほしいと?」
【そうなんだゾ。ロモン達としてもいいけど、三人ともオイラにとって大事だから模擬戦の範疇だとしても実力が出しにくいんだゾ】
「気持ちはわかるよ。……わかった、付き合おう」
【恩にきるゾ!】
なんか始まった。ケル君がガーベラさんを呼んだのはそういうことだったのね。模擬戦の範疇という話だったのに、ガーベラさんは装備をフルに着込んでケル君は幼体化を解いた上に鎧を装備した。
「なんか模擬戦って雰囲気じゃないよ!」
「ま、まって、二人とも怪我するようなことしないでよ!」
「【どうせアイリスが治してくれる(ゾ)】」
「「「ええっ……」」」
【離れててね】
本当にやる気のようなので私たちは後ろに下がった。ケル君は先ほど見せてくれた新しいオーラを展開している。ガーベラさんは槍を構えた。
【いくゾ】
「……こいっ」
ケル君がとんでもない速さで動いた。ガーベラさんの後ろに回り込み、魔法を唱える。でもガーベラさんはそれをみることなく腕だけ動かして盾でそれを弾き飛ばした。
【このくらいはやるんだね】
「まあね」
【それじゃあもっと攻撃を続けるんだゾ】
ケル君はそういうと再びスピードを出し、ガーベラさんの周りをぐるぐると回り始めた。その状態から魔法を何連発も放っている。現れている魔法陣が連なって一本の線に見えるほど。
ただガーベラさんもそれを一発一発、しっかりと防いでいた。そしてしばらくすると彼は反撃を開始したの。
「ふっ!」
【おわっとと……ギリギリなんだゾ】
「流石にかわすか」
【いやいや、惜しかったゾ】
……それにしてもガーベラさんとケル君っていつ仲良くなったんだろ?
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次の投稿は12/24ですよー!
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