第261話 私の成長と捜索の現状でございます!
「よしよし」
「ありがとうございます」
私は一番幼い姿でロモンちゃんの膝の上に乗せられ、頭を撫でてもらっている。一方で、ケル君はリンネちゃんから同じことをしてもらっている。あと10分したら交代ね。
「それにしても、ガーベラさんは一人でもうSランクの亜種くらいの魔物を倒せちゃうのかぁ」
「ケルと同じくらいの速さで強くなってってるよね!」
「アーティファクトの効果が気になるね」
【ゾー、じゃあオイラもあと2ヶ月くらいしたらSランク並みの強さになるんだゾ……】
「すごく楽しみだよ!」
私は撫でられている間に昨日、ガーベラさんと話した内容を、恋人同士としての専用の会話を除いてあらかた話した。やっぱり私の思い違いではなく、ガーベラさんは急速に強くなってる。私が特に親しい人はみんな成長が早くなる法則でもあるのかしら。
それよりも、現状、私は焦るべきなのよね。ロモンちゃんもリンネちゃんも同じように強くなっていってるのに、私が最後に新しい技を覚えたり大きくレベルが上がったりしたのはガーベラさんと付き合い始める前だもの。
彼氏ができたからって浮かれて、鍛錬が少し甘くなったのが原因だとしか思えない。正直、それは全く私らしくないわね。うん。ガーベラさんだって私と付き合ってるのにペースを落としてないんだし、オーニキス失踪の件が一段落したらハードな特訓をしたいところ。でも次は何を鍛えればいいのかしら? 魔流の気でできそうなこと増やせばいいかな。ケル君の魔法ごと身体に纏う技術は未完成だし……ちょっと皆に相談してみるか。
「御三方にお聞きしたいことがあるのですが」
「んー?」
「最近、私の成長スピードだけ著しく下がっているのです。そこで、魔法と格闘技術以外にもなにか鍛えなくてはと思うのですが」
【ゾー、ガーベラとオイラが強くなってるし、ロモンとリンネも追いついてきたから焦ってるんだね、アイリス】
「ケル君の言う通りですよ、図星です」
ロモンちゃんとリンネちゃんは同時に同じ方向へ首を傾ける。そのうち、リンネちゃんの方が早く何かを思いついたみたいに目をハッと見開いた。
「じゃあさ、ぼくと速さの特訓しようよ!」
「リンネちゃんやお父さんみたいな速さの特訓を? 私にできるのでしょうか……」
正直言ってこの二人の速さは人間離れしている。もし仮にSランク以上の魔物に絡み手や特殊な魔法を使ってこない脳筋の力バカがいたとしたら、リンネちゃんでも一方的に、それも無傷で倒すことができるでしょう。確かにあのスピードを体感してみたい気もするけどね。
「お姉ちゃんの言う通りだよ、私もそれがいいと思うな」
「そうですか?」
「うん。ゴーレムのままだと無理だと思うけど、人間の姿ならできるよきっと。アイリスちゃんは本気で戦う時、ゴーレムに戻って戦うよね?」
「はい」
「魔法も格闘技もどっちの姿でもできるから、ゴーレムの時の強みは防御力になるよね。人間の時の強みはゴーレムに比べて早いことでしょ?」
「じゃあ、人間体の時にも専用の強みがあるようにすればいいと言うことですか?」
「ちがうよ、違う違う」
そういうとロモンちゃんは撫でるのをやめて、両手で私のほっぺたをムニムニと突いてきた。
「アイリスちゃんってこんなに柔らかいのに、人間の姿でも防御力は私達やケルより高いよね」
「はい、ゴーレムの名残ですね」
「じゃあ逆に人の姿で、お姉ちゃんやお父さんみたいに高速移動できる技術と速さを身につけたら、ゴーレムの時でもある程度反映されるんじゃないかなって思うの」
「ああ、なるほど」
【素早く動いて強力な魔法を撃ちつつ高い防御力でダメージはまともに食らわず、近接されても格闘技で対処でき、仮に傷を負っても生きてる限り全快する……そんな感じになるんどゾ】
そんな高速で動く要塞みたいなことができるようになるのね。なるほど、それはいい考えかもしれない。もしかしたらもっと素早さを上げることにより、私の次の進化にも何か影響があるかもしれないし。魔法や格闘技、それ以外にも家事や炊事みたいなすでにできることをもっと強くするのもいいけど引き出しを多くするのもいいわよね。
「じゃあ次からの修行内容はそうしましょうかね」
「そしたらぼくの出番だね!」
「よろしくお願いします」
【ゾ、まだアイリスはオイラの魔法付き魔流の気も習得しきってないぞ。そっちもやるんだゾ。アイリスだけじゃなくてロモンとリンネもだゾ】
「あれ思ってたより難しいよー」
「そうだよー」
【ゾー?】
ケル君は天才肌だから割と難しいこともすんなりできちゃったのかもしれないわね。
交代の時間になったので、ちょっとだけロモンちゃんに抱きしめてもらってから私とケル君は相手を交代した。リンネちゃんにもご挨拶代わりにぎゅっとしてもらう。……これを欲求するのは甘えてるのもあるけれど、成長度チェックも兼ねてるの。やっぱり二人とも成長期だから前よりもさらに進んでたわ。来年には私の大人の姿の胸の大きさを越してしちゃうかもしれない。
昨日の服に関しての感想を聞かれたりもして、こんな感じで長い時間スキンシップし終えたあと鍛錬の前にするべきことを四人で相談し始めた。やはり新しいことを始める前に大きなことを済ませなきゃいけない。
「鍛錬内容が決まったのはいいけど、まだ鍛錬すべき時じゃないもんねー」
「まだ今日は朝だけど、やっぱりオーニキスさんは見つかってないのかな?」
「お城に行って様子を見てきましょうか」
「だね!」
私達は四人で揃ってお城へと向かった。朝といっても午前9時ごろなのでもう人はたくさんいる。
お城前にはいつも四人くらいはいる門兵さんが、その半分程度しかおらず、城内の忙しさを察せられた。とりあえず眠たそうな門兵の一人に私が声をかけてみる。
「あの……」
「あい?」
「たびたびオーニキスさんとお仕事を一緒にさせてもらった者ですが、あの、あれからオーニキスさんは発見されましたか?」
「ああ、騎士団長の娘さん達か。いやぁ……まだですよ」
「そうですか……」
何も状況は変わってない。今日で3日目だしもうそろそろやばいんじゃないかしら。
「あー……ん?」
「あ、お母さんだ!」
「ほんとだ!」
門兵さんと話してる最中、お城の方からひどく疲れた様子のお母さんが出てきた。私達をみるなり目を輝かせ、ものすごい勢いでこちらに向かってくる。
門兵さんは何も言わずに人一人が通れるくらいの小さな扉を開けお母さんを通した。お母さんは私とロモンちゃんとリンネちゃんをまとめて抱きしめる。
「はぁぁ……癒しぃ……」
「お母さん疲れてるね」
「うん、とっても疲れてるの」
多分お父さんもこんな感じなんだろうな。私達を抱きしめながらお母さんが言うには、これからさらに長期の捜索が始まりそうで、二人の着替えを家に取りに行こうとしたら私達にばったりと出会ったらしい。
「ここまで探しても見つからないとは、もしかして手がかりも薄いのですか?」
「……うん、そうなのよ。ハァ……みんなに会わなきゃ、本調子でないまま仕事に行くところだったわ。今は時間あるしもう少しこうさせてね……」
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