第248話 おじいさんの提案でございます!

「お父さん!?」

「お、義父さん!?」

「おじいちゃんだね」

「どうしたんだろうね」



 私以外も見えたらしい。こちらに汗をかきながらダッシュしてくるジーゼフおじいさんが。老人にしてはかなり早い速度で走っている。やっぱりステータスも高いのかも。



「じ、ジーゼフ元総騎士団長!? なぜここに!」

「ふぅ、間に合ったか」



 息を切らしてるけどへばっている様子はない。いつも通り背筋も真っ直ぐなままね。でも慌てていることには変わりないか。



「いやー、城からここまで近くて助かったわい。お陰で追いついた」

「お父さん……どうかしたの?」

「ああノア。今回の討伐に向かうのは少し待ってほしいんじゃよ」

「それはどう言う意味でしょうか、ジーゼフ様?」


 

 何か訳があると言うよりは、提案があるって感じがする。追加の報告をジーゼフさんがしに来た訳じゃないというのは彼の雰囲気でわかる。その提案を伝えるために走ってきたのね。

 


「まあ、まずは言わなければならないことがある」

「というと?」

「ワシは現役を退いていたが、つい先ほど、国王から直々に許可をもらい復帰した」

「ほんとですか、義父さん!?」

「嘘はつかんぞ」



 さらりと言ってるけど、これって多分すごいことなのよね? うん、村を襲って来たゴブリンを退治する程度でも魔法も魔物も使っちゃいけなかったおじいさんが現役復帰するんだものね。

 でも許可が出たのもわかる。魔王軍幹部が復活して来ているから戦力が必要だものね。



「そうでしたか、これはこのご時期に心強い限りです、元総騎士団長!」

「あ、総騎士団長も復帰したからよろしくな」

「おおお!」



 そういえばこの国の政治について勉強した時、総騎士団長って役職があると知った。騎士団長は数人いて、それを全て統括するのが総騎士団長。政治に口を出せる大臣と同じくらいかそれよりちょっと上の地位らしい。大臣より上かもしれないなんて、冒険者がいる実力主義のこの世界らしいわね。

 それで確か、しばらく空席だったはずだけど。



「そういう訳じゃから、よろしくな。しばらく空席だったようだからスムーズにいったわい」

「総騎士団長様以上の方が現れなかったのですよ!」

「彼のいう通り、私とノアと二人で統括しているようなものでしたから」

「聞いておる。ご苦労じゃったな。あ、呼び方はめんどくさいから目上の呼び方じゃなくて良いぞ。普通に『おとうさん』とか『おじいちゃん』でいいからな、ノアとグライドに関しては」



 おじいさんが実際戦っているところを見たことがないから程度に関してはなんとも言えないけれど、頼りになることは変わりない。戦っているところを見て見たいけれど、今走って来たのってもしかして……。



「それで本題なんじゃが、その討伐、ワシが行こうと思ってな」

「そういうことでしたか!」

「んー、でもおじいちゃん暫く活動してなかったんでしょ? ぼくとロモンなんて戦ってるところ一度も見たことないし、いきなり魔王軍幹部で大丈夫なの?」



 その懸念はある。ブランクっていうのはなかなか怖いものだから。でも私たち以外の大人はみんなそんなことは一切心配してないみたいね、本人も含めて。



「リンネ、おじいちゃんは本当に強いんだぞ」

「そうそう、私とパパが二人がかりで挑んでも絶対かなわないくらい。多分、今でもね」

「それほど伝説的なお方なのです!」



 たしかにケル君に対するあの研究の熱心さと、持ち主以外に数人が登録して使うことができる封書を開発してるところを見るとまだまだ現役って感じはする。流石にお父さんとお母さん二人がかりで勝てないというのは信じられないけれど。



「そういうことならわかりました! オーニキス様にジーゼフ様が向かってくれると報告しておきます! ですがお孫さん達は連れて行ってくださいね? 魔王軍幹部を封印する第一人者ですから」

「たしか血を抜き取って闇氷魔法で溶けない氷漬けにするんじゃったかな? たしかにそんな芸当できるのはアイリスちゃんぐらいじゃろうな。解毒不可な特殊な猛毒も解毒できるようじゃし」



 あれ、もしかして褒められてる? えへへ、照れますな。どっちみち付いて行くつもりだったし問題はない。この後予定はない計画だったしやる気もある。でも内容によってはまたガーベラさんに数日間会えなくなるなぁ……。別に会えないのが寂しいとかそういうわけじゃ……いや、正直ちょっと寂しい。



「ところで、今すぐだったりするの?」

「あ、はい! できれば今日中に向かってほしいとのことで」

「大丈夫、私たちはいつでも準備できてるよ!」

「流石ね! じゃあお父さん、ロモンとリンネとアイリスちゃんとケルをお願い」

「任せなさい。最悪でもサナトスファビドの時のようには絶対ならん。あと、ワシも準備はできておる」



 いつ何があってもいいように準備するのはこの一家の共通点なのかも。備えあれば憂いなしってやっぱりいいわよね。……私もこんなことになるならもう一回くらいガーベラさんとデートをしておけばよかった。



「あ、アイリスちゃん」

「はい」

「私の方から、あそこのギルドマスター経由で彼氏君にアイリスちゃんが仕事に出かけたって言っておくから、安心してね」

「ありがとうございます……」

「じゃあ、さっそく向かおうかの。案内してくれ」

「承知しました!」



 どうやらその被害にあった村まで転移魔法陣を引いている人が城の関係者に居たようで、お母さん達を呼びにきた兵士さんに連れられて城の前で待っているその人の元へ。

 近くで見てみるとの人はかなり汗を垂らし、今すぐにでも現場に駆けつけたいのがわかった。故郷なのかもしれない。

 


「それでは私はオーニキス様に報告を! 貴方はしっかりと彼らを送り届けるように。では……」



 忙しそうに立ち去ろうとする兵士の肩をおじいさんは掴んだ引き止める。



「必要な説明はしてから去りなさい。場所はどこなんじゃ?」

「ああ、すいません! 場所はロードサイト村という村です。この者の故郷ですね」

「ふむ……火山が近くにあり、また、独特の薔薇の花が有名な場所じゃな。ところでどのように魔王軍幹部がいると判明したんじゃ?」

「村人にその魔王軍幹部が接触して、王国の要人を呼び出すように脅迫したそうで」



 それはなんとも怪しい。私たちこれから自分で罠にかかりに行くようなものじゃないかしら。かといって魔王軍幹部をほっておくと必ず酷いことになるし……行かないわけにはいかないけど。



「それは……ふむ、ワシで正解だったかもしれんな。確実に罠じゃろうて」

「ええ、貴方様ほどの強者はおりませんので」

「はっはっは、それは言い過ぎじゃよ。しかしそうなると、ワシ一人で行った方がいいかもしれんな?」



 でも私としては、ブランク明けのおじいさん一人だけで行かせるのも物凄く心配。それはロモンちゃんとリンネちゃんも同じようで、二人はほっぺたを膨らませておじいさんに抗議した。



「だったら久しぶりだっていうおじいちゃんを連れてく方が私たち的には心配だよ!」

「ぼく達なら心配しないで! アイリスちゃんがいるし、強力なアーティファクトも持ってる……それにいま捕獲している魔王軍幹部は全員ぼく達が関わってるんだ!」

「ふむぅ……絶対ワシの側から離れるんじゃないぞ?」

「「うん!!」」



 ロモンちゃんのリンネちゃんは力強く頷いた。

 よし、早く向かおう。こうしてる間にも被害者が出ているかもしれない。


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