第246話 一家団欒でございます!

「なに!? アイリスちゃんに彼氏ができただと!?」



 ロモンちゃんとリンネちゃんの相手をしていたお父さんが今更反応をしてきた。今の迫力にいつぞやのおじいさんに似たものを感じる。気がつけば一瞬で台所まで入り込んできていた。無駄にそのスピードを使わなくていいのに。



「誰だ、どこの馬の骨だ!」

「ちょっとパパったら落ち着いて……」

「これが落ち着いて居られるか! アイリスちゃんはもう娘も同然! 彼氏ができたとしたら気になるのは当然だ!」



 やっぱりこのパターンですか。家族だと考えてくれるのは心の底から嬉しいけど、またおじいさんの時みたいにしっかり説明しないといけないのかと思うと少し厄介。

 仕方がないのでしっかりと私から説明しようと、料理の手を止めたその時、お母さんが私をかばうように前に出てきた。

 


「パーパ、アイリスちゃんはリンネ達みたいな、やっと冒険者になれる年齢の14歳じゃないの。半魔半人だから明確な年齢なんてないけど、一応世間的には18歳となってるのよ?」

「確かにそうだが」

「18歳のころ私達はどうしてた?」

「正式に付き合って3年目だな」

「たった二年後には?」

「結婚してリンネとロモンが……」

「ね? つまりそういうこと」



 たった3回の問答だけでお母さんはお父さんを黙らせてしまった。普通にすごい。お父さんは豆鉄砲でも撃たれたような顔をして呆然と立っている。



「し、しかし……どんな奴かは……」

「安心して。アイリスちゃんにとって、とーってもいい人だから。私も会った事あるし、パパにも金髪の槍使いの話はしたはずだけど?」

「ああ、そいつか……」

「ついでに、まさかだとは思うけど……アナタ、付き合いたての頃にお父さんに苦労させられたの忘れてないわよね? 同じことするつもり?」

「ぐぬ……」



 一体どれだけの重荷を背負わされたのか。お父さんはもう、ぐうの音も出ない感じ。その様子は豆鉄砲どころか雷に撃たれ終わったあとのような。



「ふふ、大丈夫よ。アナタを選んだ私が、あの子ならアイリスちゃんを幸せにできるって言ってるの。ね、なんの心配もいらないでしょ?」

「ママ……」

「パパっ…」



 お父さんとお母さんは抱きつき会った。それはもう熱々に。その様子を私だけでなく、リビングで料理を待っていた全員が覗いてる。



「いーなー。ボクもラブラブできる相手がほしーなー」

「だよねー」

【そういえばママも、つがい用の封書の中でパパとあんな感じなのかゾ?】

【エッ、ソ、ソレハ……ヒミツダョ……】



 思い思いにふけっている中、今の声を聞いていたのか、お母さんに抱きついたままのお父さんがロモンちゃんとリンネちゃんの方を猛スピードでふり向いた。



「リンネとロモンにはまだはやい!」

「こーら、私とパパがお父さんに内緒で付き合ってたのはいくつから?」

「14歳……」

「何も早くないでしょ? そう、だから二人もいい人見つけてよね。ほら、村にいたヘマ君とタイト君なんかどうかしら?」

「「なんでヘマ(タイト)の名前が出てくるのっ!?」」



 見事に息ぴったりに否定した。少し頬を赤らめて。その様子をしっかり見ていたお父さんはとても寂しそうな顔をする。もちろん抱き合ったまま。



「あの反応……そうか……」

「ふふふ、若いっていいわよね。私たちは見守るしかないのよ」

「そう……だな……。だが、まだママも十分若いじゃないか」

「えへへ、よくそう言われるけど、やっぱりパパにそう言われるのが一番嬉しいわ」



 あー、本格的に惚気始めちゃったよ。

 話の主役だったはずの私は続きは聞きながらも、もうお料理を再開している。邪魔するわけにもいかないし、仕方ないからこのまま作ってしまおう。



◆◆◆



「本当にごめんね、アイリスちゃん!」

「いえ、いいのです」



 こんもりと机の上に並ぶとんでもない量の料理。軽く50人前はあるように見える。あ、ガーベラさんくらいが食べる量で50人前であって、私で換算したら多分100人前はある。この七割は私がつくった。

 普段から週一感覚で大量に作るから大変だなんてことはなかったけど。



「ところで彼氏さんにはもう手料理は食べさせたのかしら?」

「ええ、まあ」

「キスもまだだって聞いたけど、案外進んでるのね」



 確かにキスより先に手料理というのも珍しいかも知れない。ところでロモンとリンネちゃんは食前の挨拶をしてからもうすでに半端じゃないスピードで食べ始めてるんだけど。ま、平常運転よね。

 やっぱりこの速度と多さでテーブルマナーが完璧なの、とても不思議。



「二人とも、うちの食欲娘達に食い尽くされてしまうぞ。早く食べないか」

「あらあら……やっぱりいい食べっぷりね。私の胃の大きさとお父さんの食べる速さを引き継いでて嬉しいわ」



 そう言いながらお母さんも二人に負けないぐらいごっそりと料理を取り皿に盛り付ける。

 お父さんはお父さんでとんでもないスピードで食べてる。

 ちなみに私100人前のうちで、私が1人分、お父さんが6人分、残りを3人で食べる計算。ケル君とベスさんには犬の魔物に合わせたものを別途用意してある。



「そういえばケルが進化したわけだけど、あとでお母さんも様子を見ていい?」

「もぐもぐもぐもぐ……ん? あ、ケルね! いいよ!」

「さっき触ってみたらすごく暖かかったぞ。干し終えたばかりの洗濯物みたいだった」

「へぇ……どれ……」

【今食べてる最中なんだゾ!】

「あらー、ごめんねー」



 こうして雑談している間にも料理はどんどん無くなって行く。50人前じゃ足りなかったかしら? いや、それは流石にないわね、多分。



◆◆◆



「ふー、ごちそうさま」

「洗い物は全て私がやっておこう。ママはケルの様子を見て」

「ありがとパパ」



 1時間で見事に完食。それぞれお腹をさすって満足そうな顔をしてる。美味しかったなら私も満足なの。

 そしてお父さんは自分の速さを生かして食器を回収し、専用のアイテムを使いながら洗う。始めから終わりまで3分。



「ロモンとケル、こっちおいで」

「うん!」

「さて洗い終わった。リンネ、おいで! 剣の訓練をつけよう」

「わーい!」



 ロモンちゃん、リンネちゃん、お母さんの3人のお腹がぷっくりふくれたまま、それぞれやるべきことをやり始める。

 私はロモンちゃんの方に参加することにした。



「じゃあケル、台の上に乗ってね」

【 ゾ 】


 

 ケル君は大人しく台に乗り、お母さんはステータスを見た。ところどころで感嘆の声を上げてゆく。



「よくまあ、こんな短期間にケルをこれだけ育てたわね……! ふごい、本当に凄いわよ!」

「えへへ、そもそもケルの頭がすごくいいし、お姉ちゃんとアイリスちゃんが手伝ってくれたからだよ。私だけじゃ無理だもん」

「試しに魔物と戦わせてみたりした?」

「うん、ケルがAランクの魔物と自分から戦いに行ったけど、ほとんど圧倒してたよ。空飛んで戦ったりしたから」

「なにそれ! 詳しく聞かせて?」



 おじいさんと同じようにお母さんも興味津々で、ステータスで見れないところをロモンちゃんに聞いてゆく。

 ついでに私からも、たくさん本を読ませてしまったあまりに子供っぽさがなくなってきており、非常に知的になっているなどと進言した。

 お母さんとベスさんはずっと嬉しそうで……直接褒められているロモンちゃんはもちろん、間接的に褒められまくっているケル君も嬉しそうに照れていた。



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