第241話 移動中の馬車の中でございます! 3
「アイリス、なんで起きてたんだ?」
ガーベラさんが体を綺麗にしてから部屋に入ってきた。寝間着というより、いつでも動ける服装をしている。
私はがっつり薄緑色の寝間着なんだけど……。
「彼氏におやすみなさいって言ってみたかったんです」
これは本当。それになんだか先に寝ちゃうのってすごく勿体無い気がしたし。だからといってガーベラさんと何かしようと思ってたわけじゃない。
ち、ちょっとお風呂上がりで寝間着姿のガーベラさんを見て見たいなー……なんて考えた。
その代わり私も、寝間着姿とメイクしてない顔を見せているわけになるけど……でも寝間着はともかく、化粧なんていつもしてるかしてないかわからないぐらい薄くしかつけてないから変わらないと思う。
い、一応、年頃の女として、女性というのを捨てたくないからしてるの。
「そう、なんだ」
「はい!」
私がしたいことをしただけなのに、ガーベラさんが照れているようにみえる。男の人にとっては憧れの言葉だったりしたのかしら?
「じゃあ……えっと、おやすみ」
「おやすみなさい」
「ベッドの間に仕切りとかする?」
「? なぜですか?」
「い、いや、いいんだ」
ベッドは狭いけど確かに離れている。布団じゃないし、転がってガーベラさんの方に行ってしまうなんてこともないでしょう。もしどちらかの寝相が悪くても隙間に落ちるわね。
そうだ、寝る前に一言……ちょっと願望を言っちゃおうかしら。
「あの、ガーベラさん」
「ん?」
「いつか……い、一緒のベッドで眠れるようになりましょうね」
「……っ! お、おう」
ふーっ、言っちゃった。
でも愛しい異性と一緒に、肌を寄せ合って眠るのはちょっと憧れだったりする。エッチなことをした後の朝じゃなくて、毎日一緒に寝てるみたいな。
ロモンちゃんとリンネちゃんとほぼ毎日一緒に寝ているから、好きな人と寝るというのは済んでるけどね。異性とはまだだし……子供ができたら物心つくまで真ん中に置いて一緒に寝て……なんて。
「じゃあ……おやすみなさい。あっ、寝ている変なことは……まだダメですからね? 信用してますよ!」
「それは大丈夫、約束する。おやすみ」
ガーベラさんは向こうを向いてしまった。たしかに顔を見ながら眠るのはまだ恥ずかしいものね。
ちょっとドキドキして寝づらいかもしれないけれど、とりあえず眠れるように必死に勤めて眠った。
◆◆◆
「ニヤニヤ」
「ニヤニヤ」
【ゾーゾー】
朝ごはんを食べてる最中に3人がものすごくニヤニヤした顔……もはや言葉を口に出しながら私たちのことを見てる。いままで恋愛のことに関して色々話しても、首を傾げてばかりだったケル君まで。
本をたくさん読んだことによって恋愛を理解できるようになったのはいいけどねー、ほんと。
「先に言っておきますが、何もありませんでしたからね?」
「むぅ……ガーベラさん、アイリスの下着姿とか、せめて何か見たりしてないの?」
「してないよ」
【はぁ………】
「いやぁ……なんかごめん」
二人とケル君はなんなのかしら。そんなに私に早く大人の階段を上って欲しいのかな? 私だってこんなお互いに羞恥心がなかったらキスのひとつくらいしたいわよ。でも恥ずかしいんだもん。
私とガーベラさんの間に進展がないのが飽きたのか、ロモンちゃんとリンネちゃんは朝食を食べ終わるなり二人でチェスをして遊び始めた。
ケル君はというと、何故かガーベラさんのお膝の上に乗って本を読んでいる。ケル君ってガーベラさんにここまで懐いてたっけ? ロモンちゃんが時々寂しそうに二人のことを見るのもポイント。
「アイリスちゃんだけじゃなくてケルまで……」とかたまに呟いてる。
「お前さん方、ついたぞ!」
しばらくして。ついに依頼を受けた場所に到着した。
前にこういう依頼を受けな時より長く感じる。移動時間的にはあまり変わらないのだけれど。
「それじゃあこの馬車と俺は、近くの村にいるから……終わり次第そこへ集合してくれや。すまないが2日経っても帰ってこなかったら帰らせてもらう」
「わかりました!」
「ま、無事を祈るで」
そう言ってくるのは命を張る仕事だから仕方のないことよね。着きそうだとわかってから、私たちの装備も心も準備はしっかりとできている。いざ、突入。
「俺が先頭に……」
【オイラが先頭だゾ。前に立たれたら臭いがわかりにくくなるゾ】
「そ、そうか。じゃあ頼むよ」
前衛職であるガーベラさんだけど、ケル君にそう言われてしまっては先頭を譲る以外ない。私の一件でこの子の鼻がどれだけ優秀か知ってると思うし。
ケル君は一番進化した姿になる。やっぱりこの姿はかっこよくて好き。
「すごいかっこいいね、ケル」
【えっへんなんだゾ!】
お、ケル君褒められて嬉しそう。
さて、とりあえずそろそろ本格的に探索しなきゃね。
「じゃあ、私達も探知を」
【匂いはいま、見つけたからそれを辿っていくだけだゾ。みんなは探知しながやオイラについてきて欲しいんだゾ】
おお、今日のケル君はグイグイくる。ケル君にとっては進化してからの初戦闘。自身がBランク超越種なのに対し、敵がAランクだからいい戦いができそうでワクワクしてるのかしらね。
Bランク超越種という存在がいるからか、探知にFランクからDランクくらいの魔物はちょくちょく引っかかるけど、一匹も襲って来ようとはしない。
【ふふふ、臭いでわかるゾ……オイラにビビってるんだゾ】
「私が危なくなったら格上にも挑んだケル君とは大違いですね」
【えっへんなんだゾ!】
いくら頭が賢くなろうと、いくら成長しようと、褒められた時の照れ方は変わらない。むしろ大きくなった分、尻尾の振り幅とかが顕著にわかる。
「ケル、探知にはまだ映らないけど、どれくらいの遠さにいるかわかる?」
【んー、まだ少し遠いかもしれないゾ】
まだ森の中に入って10分だし、仕方ないかもしれないけどね。そのまま私たちは目的を探して進んで……さらに計30分が経とうとしていたその時、ケル君が足を止めた。
【だいぶ近いゾ。たぶん、あとちょっと移動するだけで大探知の範囲内にも入ってくるゾ】
「大探知の範囲内ギリギリって結構遠くだけど……そろそろ武器の準備とかはしといたほうがよさそうだね! ケルも鎧つけよ?」
【わかったゾ】
首輪につけていた球体から鎧が出てきて自動的にケル君に装着される。何度見てもこれもカッコいい。
「すごいアーティファクトを手に入れたものだな……」
「グラブアの後に出現した魔王軍幹部を騎士団長であるお父様と一緒に討伐したら、国から報酬としてもらったんです」
「ほんとにいいアーティファクトなんだよコレ! 装着してる生き物の身体に鎧が合わせてくれる」
【オイラも気に入ってるんだゾ]
そう話しているうちに、向こうからも近づいてきてるようで私たちの探知範囲内にも入った。
油断もしてないし用心はしてるけど、たぶん、簡単に勝ててしまうんじゃないかと思う。
ケル君がタイマンしたいっていうなら別だけど。
それでもいい感じの戦いが行われるかもしれない。
怪我したらすぐ私が治しちゃうしね!
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