第221話 双種蜥蜴のダンジョンのお宝でございます!

「どうしたの、ケル」

「何かあった?」



 私たちに待ってと声をかけたケル君はちょっと真面目な顔をしている。



【聞いて欲しいんだゾ】

「うん、言って?」

【実はオイラ……この姿でのレベルが止まったみたいなんだゾ】



 それってつまりレベルが限界まで来たってことよね? レベルが限界まで来たってことは……進化するってこと!!



「ケル、やったね! 進化だよ!」

「わーっ、すごいすごい! 最近進化したばっかりなのに!」

「おめでとうございます、ケル君!」


 

 よく考えたらここ最近の活躍っぷりと魔王軍幹部とケル君一匹の戦果をみても善戦していたこと、そして今回のダンジョンのボスの分の経験値が入ったならレベルに限界が来るのは当たり前かもしれない。

 しかしケル君は褒められたり嬉しいことがあったらいつも尻尾がちぎれるんじゃないかってくらい振り回すのに、今は神妙な顔つきをしてる。



【そうだゾ。オイラもとーっても嬉しいんだゾ。でもみんな忘れてることがあるんだゾ】

「忘れてること?」

【ジーゼフ……おじいちゃんに、オイラのこの第二進化形態を見せるって言ってたじゃないかゾ! 新種だからみせなきゃって!」

「「「あああああああああっ!!?」」」



 今回ばっかりはロモンちゃんとリンネちゃんの双子に混じって私も一緒に叫んでしまった。

 すっかり忘れてた。いや、言い訳するとしたら案外忙しすぎたってのもあるからだけど。



「どーしよ、すっかり忘れてたぁ」

「おじいちゃん、ごめんなさいっ」

【それに進化したら魔法のランクも上がる可能性が大きいんだゾ。今のうちに今覚えてるものを全部最上級から一個前にしておきたいんだゾ】

「そっかそっか、そうだよね……!」

「次の満月まであとどのくらいか把握してますか?」



 強制的に進化しなければならない日が来るまでの間にケル君を強化しつつ、お爺さんにみせなければならない。

 明日とかなったら技の方を諦め、村に行っちゃった方がいいと思うのだけれど……。



「それは大丈夫、あと2週間はある!」

「良かった……じゃあ技の方はなんとか間に合うものがありそうだね!」

【違うゾ、リンネ。間に合うものがあるんじゃなくて、全部間に合わせるんだゾ!】

「お、いったなぁ! じゃあ明日からロモンと一緒にビシビシ鍛えるからね!」

【よろしくゾ!】



 普通なら2週間で火、水、風、土、雷、氷、光、闇の属性のうちすでに最終段階から一つ手前のものを除いて4つ以上を全部高めた上で、体術の技の方も上げるだなんて無茶もいいところだけど、ケル君ならできてしまうだろうという安心感がある。

 


「では私も本腰を入れてビッシビッシと教えて……」

【それはダメなんだゾ】

「え?」

【まさか2週間もオイラにかまけて彼氏を放っておくつもりかゾ? たしかにアイリスの技の成長速度や練度が上がりやすくなる特技は便利だけれど、オイラに構うのは隔日程度にすべきだゾ】

「えぇ……」

「あははは、大丈夫だよアイリスちゃん!」

「ケルの言う通りだよアイリスちゃん!」



 まさかまだ子供であるケル君からそんなこと言われるとは思わなかった。たしかに彼氏は大切にすべきかもしれないけれど、今のところ私にとって仲間の方が大事……いや、でもやっぱりあの人には愛想は尽かれたくないし、言う通りにすべきなのかな?

 ここは引き下がらないとケル君に怒られてしまいそうだし、その通りにしておこうかな。



「と、とりあえず承知しました。隔日にしておきます一応」

【それでいいんだゾ。アイリスは人のために頑張りすぎなんだゾ! 彼氏ができたんだから、尽くす対象は彼氏にも向けてあげるべきなんだゾ】

「おおー、ケルってばいうねー!」

「私たちも同じような気持ちだよ、アイリスちゃん」



 本を読むようになってから、普段の言動ですら知的になっていっているから困る。それにロモンちゃんとリンネちゃんは私が付き合ってることに全面賛成だから肯定しかしないし。

 実はこっそり彼と会うのは週二程度に抑えて、そういう予定を組んだから仕方ないっていう程でケル君の練習に付き合うと思ったけれどそれも許されないみたい。



「そ、そうですね」

【さて、それはそうとしてお宝だゾ、お宝! 何があるかな】



 すでに私の魔法によって厚い氷の壁に覆われていたけれてしまったはずだけど、たしかあと二匹がいた場所の真下にあったはず。

 実際にその通りで、ケル君が自慢の鼻をクンクンさせて探し当ててくれた。

 氷を解除し、さっそくそれを掘り出した。



【おほーっ! お宝はいつ見ても興奮するんだゾ! さっそく開けてよ、ね、ねっ!】

「今あけるから待っててよ! それっ!」



 リンネちゃんが宝箱の蓋を開けた。中には金銀財宝、宝石、それらに加えミスリルやアルティメタルを使った軽い装飾品などが入っていた。

 でもなんとなくでわかったけれど、アーティファクトはその中には混じっていないようだった。



「むむ、アーティファクトは無しだね……」

「そんなことはないよロモン! あのリザードマンが持っていた剣がそこに残ってるでしょ? あれはアーティファクトだと、ぼくはみている!」

「私も薄々そんな気はしてました。まあ、鎧は違うみたいですが」

「そうなんだ、やったね!」



 どうやらサイズも細身だし、リンネちゃんの両手剣の片方として使えるかもしれない。にしてもアーティファクトと鍔迫り合いしても刃こぼれはなかったことになる私の身体で作った武器、やっぱりすごいわね。

 えっへん。



【ゾ……クンクン。まだなにかあるみたいだゾ】

「え、なにが?」

【野菜……じゃないな、植物的な感じの臭いがするゾ。その宝箱の中身を探って欲しいんだゾ】

「……んー? わかったけど……」



 リンネちゃんは宝箱の中を探る。お宝を傷つけないように丁寧にね。そして結婚指輪を収めている箱のようなものを見つけた。



【それ、それだゾ】

「植物の……アーティファクト?」

「なのかなぁ。開けてみよう」



 小箱を開けると、中からちょっと発芽している桃の種程度の大きさのなにかが現れる。何かの植物であることは間違いない。



「なんだろこれ」

「これってさ、隠し部屋にあったあの植木鉢で育ててみろってことだよね?」

「うん、きっとそうだよ」



 これだけ高級そうな箱に包まれていたんだから、さぞなにかしらの効果があるものなんでしょうけどね。

 何か強力な毒とかだったらどうすればいいのかしら。あ、私なら解毒できるからなにも問題ないんだった。



「とりあえず帰ったら図書館で調べたりしてみよっか」

「その前にあのアーティファクトをまた鑑定してもらわないとね!」



 お宝を見つけてそれを鑑定してもらう時ってなかなかワクワクするのよね。



【アイリス、またお宝でオイラ達お金持ちになったゾ?】

「そうですね、前回で手に入れたお金も、貯金に回していない分すら使いきれてないですし」

「魔物もお宝もたーくさん売ったからね!」

「豪遊したくてもする当てなんてないしね」



 お洋服だって結局は高いやつといっても一着数万ストン以内だから、お金が数億ストンある、私たちにとっては大きな問題じゃないし。

 豪遊ねぇ……私には似合わないかな。ロモンちゃんとリンネちゃんが宝石で身を包んで、ドレスを着て優雅に過ごしてるところは見てみたいけど。



「よし、使い道は後で考えるとして、今はまずダンジョンから出よう! 忘れ物はないね?」

「ないよー!」

「大丈夫です!」



 ごちゃごちゃ考えるのはあとね、

 あと。とりあえずダンジョンクリアのお祝いとして二人に本気喰いしてもらうためにお店を予約しなきゃ。



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