第206話 報酬がもらえるのでしょうか?

「おや、もう来ていたか」

「お久しぶりです、オーニキスさん」

「「お久しぶりです!」」

「うむ、久しぶりだね……色々と話はあると思うが、とりあえず中に入ろう」



 中に入ろうって言われてお城の中に入るってのもなかなかだよね。

 門兵の人たちに少し頭を下げつつ、私たち三人は何度目かしら、とりあえず城に入ることができたの。


 前に話をした時と同じ応接室に通され、メイドさんから紅茶を出される。匂いで紅茶が高級品ってことはわかるんだけど……これって誰にでも出してるのかな? それとも特別な客にだけ? 後者なら嬉しいな。



「あまり女性を待たせてはいけないな。……さて、今回の件について話をしようか。まずは常駐中にあった出来事を一通り話してもらえるかな?」



 私はオーニキスさんに騎士団に森に呼ばれてから任務が解かれるまでの日のことを全て話した。記憶が正しければ正確だと思う。

 それと、出会った謎の人物のこともね。会話含めて一通り全部。



「向こう側の報告にあった通りだ。その謎の男については少し気になるが……考古学者か何かだろうか。前みたいに似顔絵を描くことはできるか? 一応、顔を知っておきたい」

「できます、お任せください」



 私はあの男の人をしっかりと髪に写実した。あのイケメンは忘れなくてもなかなかできないから、正確さで言えばかなり高いと思う。



「こんな方でした」

「ほうほう、これはなかなかどうして、かなりの良い面をしている。これは取り上げずこちらで控えておこう」



 オーニキスさんは懐に紙をしまう。話はクィーンプリズンスパイダーのアルケニスと対峙した時のことに移る。



「仲魔の1匹が活躍したんだってね? アイリス以外の」

「はい! 私のケルが」

「聞いた話では、ノア団長の仲魔であるベスの実の息子だそうだが」

「はい、そうです!」

「封書で連れてきているなら見せてくれないかな?」

「わかりました……ケルっ」



 ロモンちゃんはケル君を封書から取り出した。またケル君ったら眠っちゃっている。



「ケル、起きて!」

【……もうご飯なのかゾ?】

「違うよ、ケル。顔を見てみたいって人がいてさ」

【そうなのかゾ! ……この人? なんだか権力を持ってそうな感じがするんだゾ】



 寝起きがいいのが救いよね。ケル君はオーニキスさんをみてすぐに偉い人だってわかっちゃったみたい。



「この子は……アイリスと同じで人の言葉が理解できるのか。……もしかして君は魔物に言葉を理解させる技術を持っているのかな?」

「ち、違います! この子達の頭が良すぎるだけなんです!」

「謙遜することはない。君は確かに優秀だ」


 

 ロモンちゃんは照れる。ロモンちゃんが嬉しがってると私も嬉しいな。

 ケル君は尻尾を揺らしながらオーニキスさんに話しかけている。



【ゾ、お偉いさん、なんて名前なんですかゾ? オイラ、まだ敬語が苦手だからうまく話せないかもしれないけど許して欲しいんだゾ】

「おお、全然かまわんよ。名前はオーニキスだ」

【オーニキスさん、よろしくなんだゾ! ところで昨日、亀の魔物の鍋でも食べたかゾ?】



 オーニキスさんが驚いた表情を浮かべる。私の前世の記憶、そうスッポン鍋というものがあったように、この世界でも一部の亀の肉は食べられるの。

 しかも超高級品。



「よくわかったね! 私は亀肉が大好きで、三日に一回はどこかしらの店で食べているのだよ。なるほど、その嗅覚で今回の魔王軍幹部を見つけ出したわけだ」

【ゾ!】



 オーニキスさんはケル君を撫でた。おそらく私たちにだけに念話で、この人すごく亀の臭いがする、と送ってくる。

 そりゃ三日に一回亀肉食べてりゃ、体臭が亀の臭いになっても仕方がないわよね。



「……ふむ、だいたい聞くことはこれくらいだろうか。三人とも日々強くなっていっているようで嬉しい。このまま精進していってくれ。ここからが本題。君たちへの今回の報酬についてだが」



 お父さんたちが困ってるからって理由が一番で、別に報酬目当てであの捜索兼討伐に参加したわけじゃないけれど、貰えるものはもらっておきたい。

 ロモンちゃんとリンネちゃんはゴクリと喉を鳴らした。



「先に言っておくが、これは私が用意したのではなく、この国自体が君たちに正当な報酬として支払うものだ。まずはこれ」



 オーニキスさんはものすごーくお洒落なスペーカウの袋から、お金が入っているであろう巾着を取り出し、どんっと机の上に置いた。



「500万ストンだ」

「ご、500万ストン!? そんなによろしいのですか?」



 ただの冒険者グループに払うにしてはかなりの大金。確かに私はすでに金持ちではあるけれど、金銭感覚は狂っているつもりはない。



「いや、そんなに驚かないでほしい、むしろ、ほぼ壊滅状態に陥った騎士団を完全回復させ、Sランクの超越種、しかも人化できる魔物の討伐に非常に貢献した報酬にしては酷く安い」



 そ、そんなものなのだろうか。

 確かにこの世界の経済の流通方法とかも勉強してるし、その観点から見たら安いのは納得だけど、私たちからしたらただできることをやっただけだからなぁ。



「例えば腕が無くなっていた騎士団員がいただろう? その腕を生やすのに500万ストンじゃ普通は足りん。そんな状態に近い者が数十人といたと聞く。億払っても良いくらいだ」



 そう、この世界の医療は非常に高価。いや、そりゃほかの物資と比較すると効果なのであって、ほとんど死の淵に立たされていても強力な僧侶や賢者が回復させると一瞬で元どおりになるから仕方ないのかもしれないけれど。

 覚えるのも普通は簡単じゃないし。

 ただ、一度覚えたらすごく楽な商売っていうのだけは私自身身を以て知っている。



「いえ、でもボランティアみたいなものですし気にしなくても」

「そうですよ! お父さんのお手伝いできたし…」

「それに、ダンジョンの情報も頂きました!」

「いや、こちらとしては正当な依頼として頼んでいる。生半可な報酬ではいけないのだよ。ダンジョンは前金みたいなものだ。……そう、だから500万ストンに加えて、これが正当な報酬なのだよ」

 


 そう言うと、オーニキスさんはマジックバックからその正当な報酬とやらを取り出した。

 それは一つの白い金縁の鎧。光の反射が虹色でとても綺麗だ。なんだか私のゴーレムの時の身体をさらに白くしたみたいでもある。



「よ、鎧ですか」

「そうだ。キャルホーリーの鎧という」

【ゾー、かっこいいんだゾ!】

「そうかい? そうだろう。そしてこの鎧はこの玉とセットでな。みてなさい」



 オーニキスさんは紫色の玉を、その鎧に卵にヒビを入れるような感じで押し付けた。

 すると、鎧が粒子となって消え、その粒子はすべて玉の中に吸い込まれてゆく。



「収納が簡単なんですね!」

「いやいやいや、それだけじゃない。重さをほとんど感じないし、魔法に対する耐性も上がる。しかも魔法の使用者の魔力の放出具合も良くする代物だ」

「も、もしかして、いえ、もしかしなくてもアーティファクトですか!?」

「その通り。そしてこれの真価はこれなのだよ」

【ゾゾっ?】



 オーニキスさん玉をケル君のひたいに押し当てる。その瞬間、ケル君の体に例の粒子がまとわりつき、一瞬のうちに鎧として再構築される。

 それは、完全に犬用にあしらわれたものだった。



「す、すごい!」

【ゾー! オイラでも着れたんだゾ!!】

「それとアイリス、一度、ゴーレムの姿になってくれないかな?」

【こうでしょうか?】



 オーニキスさんはケル君の鎧に玉を当て回収すると、今度は私にコツンと当ててきた。

 それは私の体にまとわりつき、鎧となる。



【か、勝手にサイズを調整するんですか……!】

「そういうことだ」

「い、いいんですか? ボク達がこんな貴重なものもらっちゃって」

「なに、使ってもらうのには一番だし、活躍に見合う報酬だと私自身思ってるよ。ぜひ、使ってくれたまえ」



 私とロモンちゃんとリンネちゃんは顔を見合わせる。これでパーティで所有するアーティファクトとしてはかなりの量になってしまった。



「「【ありがとうございます!】」」

「いやいや、だから御礼を言うのは私たちの方なんだよ。また、頼むかもしれないからね?」

「「はい!」」



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