第193話 幅広いケル君の鍛錬でございます!

「今日からお仕事ですね!」

「いや、明日からだ。今日はとりあえず待機しててくれ」



 朝起きて、お父さんに起きたことを報告しつつ仕事は何をすればいいのか訊いたら、そのような返事が返ってきた。

 なるほど、確かに来た翌日早々に森の中に入って勝手があまりわからないまま、敵と遭遇しても危ないものね。


 

「では何をすればよろしいですか?」

「ケルの鍛錬をしてたんだろ? 普通にそのまま続ければいい。ああそうだ、午後になったら新兵の何人かが暇になると思うから、ケルに相手させてみなさい」

「うん、わかった!」


 

 そう言って忙しいお父さんは自分の部隊の一部を引き連れて森の中に入っていった。

 女隊員さん達曰く、今回のおかげでほとんどの団員が探知を習得することができ、小部隊のリーダーを任せられるくらいに実力がある人達は大探知に昇華させられたのだとか。

 まあ、これだけ森の中を探してればそうなるわよね。



「よーし、じゃあケル、いっくよー!」

【頑張って覚えるんダゾ!】

「私は見学しようかな」

「では私も」



 リンネちゃんが教え、私とロモンちゃんがそれを見る。

 広い場所にやって来た私達。早速鍛錬が始まった。



「ケルはすごいからね、一昨日だけで基本の技は全部覚えちゃったよね!」

【あれで全部なのかゾ?】

「うん、基本的に5つだけ…だよね、ロモン」

「そうだよ」


 

 犬の魔物の、体技系特技は主に5つ。

 牙を使った攻撃、同様に爪、体当たり、後ろ足での蹴り、歩法。

 牙の攻撃と爪の攻撃は派生が多いのが特徴ね。

 私の炎拳とか、属性攻撃ができたりする。というか、そのうち技のほとんどがこれになるわね。体技を極めるなら。



「よし、じゃあ今日から属性攻撃を覚えよう! 炎爪とか」

【了解したゾ! どんな感じなんだゾ?】

「えーっとね、魔流の気を上手く扱えるケルなら簡単だと思うけど、こうやって武器や腕に自分の魔力やMPを流し込んで……」

【なるほゾ。おお、できたゾ!】

「え? ええっ!? ほんとだっ!」



 やり方を教えられただけで習得…したの?

 いや、確かにこの間も習得早かったけどさ、試してみてすらいないじゃない。



「え、じゃあもう今日は何教えよう……」

【技の二段階目とか、リンネの剣技を爪でできないかとか、色々あるんだゾ】

「あ、うん。そうだね」



 ついには自分で自分の練習メニューまで決めてしまった。確実に言葉を覚えた時から頭が良くなってるわよね? たしかに昨日は寝る前に本も読んでたし…。



「じゃあ、二段階目以降の初歩の技を練習がてら、お姉ちゃんと模擬戦みたいなことしたら? そしたら早く覚えられるかもよ!」

【おお、良いんだゾ! やるゾ! リンネは、技なら本気で来て欲しいんだゾ!】

「え、でも当たったら……」

【どうせアイリスが回復してくれるんダゾ。ほらほら!】



 こうしてリンネちゃんとケル君のかなり激しい鍛錬が始まった。ケル君って、前は寝坊助さんだったし、魔法から覚え始めたからてっきり体を動かすのが苦手かと思ってたけど、そんなことはないみたい。

 ……いや、そもそもダンジョンで魔法で空中に飛び上がって敵の魔法を回避するなんて荒技をやってのけたんだし、運動神経もいいのかも。


 本人は半魔半人化するつもりないって言ってたけど、もしなったら、きっと頭が良くて運動神経もあり、キュートな顔をしてる男の子とないうパーフェクトな存在になるに違いない。

 


◆◆◆



「ふぅーっ。 よし、ここまでね!」

【ありがとうなんだゾ、リンネ】



 お昼ご飯を食べ終え、さらに1時間が経ったところで二人は鍛錬をやめた。リンネちゃんは本気で教えてたから汗ダクダク。

 まだ第二次成長期だけど色っぽくてエロい……。じゃなくて、とりあえず早くシャワー浴びて来させないと風邪引いちゃう。



「思ったよりケル、動けるね! 途中でボクの、補助魔法と腕輪の効果がない状態の本気の速さもやってみたんだけど、回避しようとしてたし」

【ゾー、やっぱりリンネは速すぎなんだゾ。でもだいたい身体を動かすコツは掴んだんだゾ!】



 さすがに特技を成長させることはできなかったけど、属性の特技なら、すでに両前脚と牙から属性攻撃を、魔流の気を纏いながら同時にできるもの。

 ケル君のあの姿は、なんだかとても強そうだった。

 少なくともDランクとは思えない。


 ケル君曰く、そのうち全身から技を出せるようになりたいらしい。私は拳と装備した剣からだけだけど、ケル君はすでにいろんな箇所からできるし夢じゃないかも。



「お姉ちゃん、シャワー浴びて着替えてきなよ。汗すごいよ、風邪引くよ」

「うん、そうだね。じゃあ行ってくる」



 リンネちゃんはシャワーを浴びに行った。

 ケルが疲れたように舌を出してハアハアしながら、幼体化してロモンちゃんに抱きかかえるように催促した。



「よしよし。ケルはすごいねっ」

【ありがとだゾ。でもまだまだなんだゾ!】

「でも、さっきなんて『魔物使い用・犬の魔物に技を教える手引書』を自分で読んで技を使って見てたじゃん」

【それは、えっへんなんだゾ! 皆んなが教えてくれるからできるんだゾ】



 ああ、かわいい。

 この子はどうしてこんなに優秀なのかしらねぇ。



【オイラ、一休みしたら今度はグライドが言っていた新兵の人達と手合わせをお願いして見たいんだゾ】

「ま、まだ練習するの?」

【ゾッゾッゾ、リンネはいわば身内だゾ。手の内を互いに知ってたんダゾ。でも、新兵さん達は違う。今のうちに手合わせしておさらいするんだゾ!】

「す、すごい強さを求める精神だね。 いいよ、お願いしてみよっか!」

【ありがとなんだゾ!】



 そんなわけでお父さんのアドバイス通りに、午前上がりをした新兵さん達のもとへ。

 彼らは一箇所で集まって、練習用の木の剣をもって打ち合いをしていた。

 なるほど、まだ新人だから午後になったら終わらせて、こうやって鍛錬させてるわけね。



「あのー、すいません」

「あ、はい! なんスか!」

「お父さんからお話は聞いてますか? もしかしたら訓練に付き合ってもらうかもしれないって」

「ああ、はいっ! 団長から聞いてますっス! …やるっスカ?」

「お願いできますか?」

「いいっスよ!」

「やるんだね、もちろんっ!」




 快く受け入れてくれたわね。

 それぞれ剣を振るうのをやめ、整列した。



「さ、誰とやるっスか?」

【オイラ、Dランクの魔物なんだゾ! だから、それ以上の強さがある人が良いんだゾ!】

「えっと、普通に話しても言葉は通じるんだよね? ケル君、騎士団のメンバーは全員Dランクくらいなら一人で倒せるのよ?」

【じゃあCランクくらいの人がいいんだゾ! オイラ、一匹でCランクの魔物倒せるんだゾ!】



 ケル君がそう言うと、新兵さん達は相談し始めた。

 ちょっと盗み聞きした内容としては、Cランクを倒せる人は二人いて(かなり才能がある二人らしい)、そのどちらが適任かっていう事みたいね。

 しばらくして一人決まったみたい。



「じゃあ、オイラが行かせてもらうっス!」

【ゾ、よろしくなんだゾ】

「じゃあまずやっちゃいけないこと決めなきゃね」



 かくして体験相手もルールも決めた。

 お互いにあまり大きなダメージを与えてはならず、武器は練習用の木刀のみ。技の威力は必ず抑え、魔法を使える場合は初級で、というルール。



「お願いしますっス」

【ゾ!】



 ケル君は幼体化を解き、成長した姿を現した。

 


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