第191話 ケル君は天才なのでございます!
私が言葉を教え始めてから8日が経った。
毎日訪れてはいるけど、お父さん達の方には大きな問題はなく、調査を続けて居るみたいで何の変哲もない。いや、一つ問題があるとすればずっとこの任務についてるから疲労が目立ってきたことかしら。
とは言ったものの、部隊の大半の人間は王都に転移魔法陣を置いており、そうでないものも同じ部隊中に居る人に帰らせてもらっていて、順番を決めてそれぞれ3日に1回は代わる代わる帰ってるらしい。
だからこんな1ヶ月近くも森中に、1人の半魔半人を探すために在中できてるんだって。
かくいうお父さんもちゃんと時間があるときは帰ってるらしい。2、3回くらい居ない日があったし。
動きが全くないから、そろそろ撤収なんじゃないかって、ちょっとその部隊でも偉い方の人から聞いたしね。
なんにせよ、一刻も早くその蜘蛛の魔物の半魔半人が見つかるといいんだけど。
「それにしてもさ、アイリスちゃん。ここのところずーっとケルに休まず言葉と魔法を教えてきたけど、疲れたりしてない?」
「大丈夫ですよ、問題ありません」
朝早く、ロモンちゃんがそう言って心配してきた。ぶっちゃけそれを心配する必要もそろそろなくなると思う。
だって、ケル君ってば。
「ね、ケル? ケルは疲れてないの?」
【オイラは楽しいからいいんだゾ!】
「ならいいんだけどね。それにしてもすごいよね、本当にたった数日でこんなに言葉を覚えちゃった……」
「ええ、天才というやつですよ、やはり。光魔法も目標まですでにマスターしてしまいましたしね」
そう、言葉を覚えてしまい、私たちの言語を完全に理解するようになったの。
途中から文字を把握して、本を1匹でほぼ全て読めるようになってからの成長速度が恐ろしかった。
そもそも、本を読んで自分で学習するために文字を先に覚えてしまうという選択も只者ではなかったし、加えて今までの勉強で、言葉というものはどう発言するかも覚えていた。
だから本で読んで知った単語や文法は人が話しても理解でき、自身も念話に影響させることができるだなんてことも可能。
それだけじゃ済まない。さらに人の言葉を理解できるようになってから魔法の習得が一段と早くなった。
彼自身、物事を理解する力が高まったとか言い始めてるし。
今までが人間でも大天才と呼ばれてしまうくらいに恐ろしいくらいの速さで魔法を習得していたけれど…ね、今はさらに早いの。
光上級魔法を二つともこの8日間(言葉を覚えるのに4日間集中していたから、実質のこりの4日間)で覚えきってしまったことが何よりの証拠。
そして昨日から、リンネちゃんも身体を使った技や戦闘技術を教え始めてる。
【オイラ天才……? うーん、そう言われてもピンとこないんだぞ。まだ、アイリス達の方が強いゾ】
「いえいえ、ケル君を天才と言わなかったら他に何を天才と言えばいいのか!」
「そうだよ! ぼく、昨日からケルに教えてるけどさ、本当に飲み込み早いもん。……昨日だけでどのくらい特技を習得したかわかんないくらい」
実際、リンネちゃんが昨日、体の動きを教えてから(対人用の徒手武術とかは私もかなり協力する)、一気にケル君の特技が増えたらしい。
犬の魔物に魔物使いが教えるべき技の初歩は全て一度教えられただけで習得してしまった。
「昔、寝ていただけのケルとはすごい違いだけど……ううん、よく考えたら、たしかに昔からすごかったもんね。一回教えただけで行儀とかは理解してさ」
【ゾー、3人からそんなに褒められたら嬉しくなるゾ! でも、褒めるんだったら、たくさんオイラを撫でるんだゾ!】
「いいよー、よしよし」
でも子供っぽくて可愛いところは何も変わってない。自分のすごさを驕ってもいない。
こんな偉い子、他にどこにいるっていうのかしら!
「本当に、ケル君はすごいですね!」
「あ、アイリスちゃん。アイリスちゃんもトゥーンゴーレムくらいの大きさになってよ」
「はい?」
「いいから、早く早く」
唐突にロモンちゃんからそう言われた。リンネちゃんもにっこりしてる。
何が何やらわからないけれど、私はこの姿(18歳の大人)から直接、ゴーレムの幼体化をした。
すると、二人にグイッと抱き寄せられた。
「えへへ……二人ともすごいよっ! ありがとね、私の仲魔で居てくれて!」
「ぼくからも、ロモンの仲魔でいてくれてありがとね」
「いいのかなぁ…本当に。実はアイリスちゃんがすごすぎたから、ケルで自分の魔物使いとしての飼育の実力を確認しようと思ったんだけど……」
「ははは、それはできなかったねっ。二人ともすごすぎるんだよ」
「うん、ほんとに」
なでなでよしよし、ぎゅーってされた。
一瞬、自分の実力がわからないことにまた悔やんでるのかと思ったけど、そうではないらしい。
本当に嬉しがってるみたいだね。
【ゾー、ロモンは魔物使いとして優秀なんだゾ。オイラが保証するんだゾ!】
「んふふ、ありがとう」
「たくさんギュってしたね! ……そろそろ、練習しよっか。今日から体術だけをメインで教えられるはずだよね」
【よろしくなんだゾ!】
私達はお互いに離れ、それぞれ準備をしようとした。
その時、リンネちゃんのスペーカウの袋が赤く光る。いや、正確にはお父さんから預けられたあの連絡する玉が赤く光っているの。
「これって……!!」
「来て欲しい時に光らせるって言ってたよね? お父さんたちに何かあったのかな!?」
「ピンチであるとは限りませんが……急いだほうが良いでしょう」
【ゾ、準備したら早く行くんだゾ!】
私達はさらに急いで必要最低限の準備をして、お父さんたちが居るところに転移した。
今回はケル君も封書ではなくそのまま。
「お父さん、何があったの!」
「大丈夫っ!?」
私達が転移魔法陣を敷いた場所に、すでにお父さんが立っていた。いつも通りこの人は異常に強いから、無傷だけど、もしかしたら他の隊員さんとかが大怪我に……。
「ああ、来てくれたか。いや……その、なんだ、すまない。緊急事態ではないんだ」
あ、なんだ、そうなのか。
それならそれでよかったけど。
「はぁ……そうなんだ、びっくりした!」
「ごめんなぁリンネ、ロモン、アイリスちゃんにケル。でも呼ばなくてはならない用事だったからな」
「いいよ全然! それで、何かな?」
お父さんはさらにまた申し訳なさそうにしながら、話を続ける。
「あーっと、な、上から命令があってな。なかなか見つからないから助っ人として3人を呼んで、隊員達と同じペースで常駐させろと」
「なんだそんなこと! いいよ、全然!」
「いいのか? 3日に1回くらいしか宿に帰れないんだぞ」
「別にお金に余裕あるから仕事とかしてなかったし、どうしても家にいたいとかそういうわけじゃないしね!」
「お父さんのお役に立てるならば、全くもってかまいません」
【オイラも協力するんだゾ!】
ここでもケル君の特訓はできるだろうし、何か買い物とかしたかったなら、移動先をここにしているリンネちゃんが行けばいいしね。
「そっか……すまないな」
「「その代わりお父さん、ほらほら!」」
双子はお父さんに向かって手を広げながら、ぴょんぴょんと跳ねている。お父さんは嬉しそうに笑いながら、二人を抱きしめたの。
後ろで隊員の人たちも微笑ましく見てるわね。
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