第180話 その日の夜のギルドでございます!

 私はこーっそりとお部屋を抜け出し、ギルドへと来た。

 そういえば、夜の街にでてギルドで談笑するという行為が私の数少ない楽しみの一つなのかしらね…既に。


 無論、今の人生での1番の楽しみはロモンちゃんとリンネちゃんと過ごし、お風呂とかで育ってる最中のその身体を舐め回すように観察することですけどね。うひひひ。



「こんばんわ」

「んおー! アイリスちゃん来たの! こっちこっち」



 呼ばれたから白い鎧の女騎士さんの左隣に座らせてもらう。右隣はジエダちゃん。

 今日はやけにニコニコしてる。



「何か良いことありました?」

「アイリスさんわかります? 私、新しく呪文覚えることができたんですよっ!」

「ほう、どんな魔法ですか?」

「回復のエキスパートのアイリスさんには自慢にはなりませんけど、中級回復魔法を両方を覚えました! これから上級に挑戦するつもりです!」



 ジエダちゃんって今まで攻撃魔法しか覚えてない典型的な魔法使いだったっけ。

 中級回復魔法でも、今後の活動はすごく楽になるはず。

 


「それは便利ですね…パーティのお誘いが増えそうです」

「はい、それも狙ってます。もし弟が怪我したりしてもすぐに治して上げられますしね!」

「ふふ、そうですね。このまま回復上級魔法のお勉強、頑張ってくださいね」

「はい!」



 私もそろそろ新しい魔法でも覚えようかしら。

 実は私は回復魔法と補助魔法、そして属性魔法の3種こそ網羅しているけれど、それ以外は爆発魔法だけ。

 

 これだけじゃなくて、世の中にはまだたくさん魔法があるからね。実際自力で編み出してる人もいるし。私が爆発魔法の上級を自分で作り出したみたいに。

 

 

「……ああ!! アイリスがいるじゃないか、さて、今日も奢ってやろうかね」

「今日もよろしいのですか……?」



 いくら私に回復してもらい助かったとは言っても、こうなんども奢られるのは悪い気がしてくる。

 


「遠慮しないで。いままで奢ったぶん合わせても、回復屋に下半身くっつけてもらったときの代金には少しも及ばないんだからさ」

「そうですか…? それならお言葉に甘えて今日はパンケーキとこのワインをお願いします」

「おー、お酒飲むのかい!」

「ええ、アルコール少ないものですが」



 酔うのはなかなか楽しい。私はあんまり飲めないと言っても一杯くらいなら気分が良くなるしたまに飲む。今日はそんな気分なの。

 でも私は未成年……あれ?

 この世界の未成年の基準だと私は全然セーフなのに何気にしてるのかしらね。


 

「こんばんわー」

「ガーベラまで来たぞー」



 すっかりガーベラさんも夜のギルドに来るようになったわね。初めて会った時なんて友達少なそうだったのに、今じゃ、実力を買われてパーティのお誘いとか結構来るみたい。



「ガーベラ、ここへ来いよ!」

「ええ、行きます!」



 戦士の冒険者の人に呼ばれてその隣に行くガーベラさん。私から3人分離れた場所に座った。

 目が合う。

 つい私は逸らしてしまう。

 向こうも同じように。



「んーガーベラ、武器と盾、新調したか?」

「ええ、前々から鍛冶屋に頼んでいたものがつい3日前にできまして。ここ3日間馴染ませて今日、依頼をこなすのに使ってみたんですよ」

「ほぉう…随分立派だねぇ…。てことはあそこのドワーフのおっさんのとこか」



 私が紹介したのよね。

 蟹と戦ってる時は貰ったスペアを使い潰してたけど、ついに完成したんだ。

 んー、さぞいい効果を付与して貰ったんだろうな。訊いちゃおっと。



「どんな効果をもってるのですか?」

「ああなんでも、壊れたりしても自己修復するらしい」



 私にはすっかりタメ口のガーベラさんが返答してくれた。……ん? ちょっとまってよ。



「なにぃ! そんな効果を持つ魔物がいるのか!?」

「相当レアな魔物のようで、ダンジョンで手に入れたお金はほとんど使っちゃったのですが、いい買い物した自覚はありますね」



 自己回復する効果を持ったレアな魔物…って私のことじゃないかな? いや、でもそうとは限らない。他にも自己回復する魔物は高ランクに沢山いる。

 武具に付与されるかどうかは別として。

 そうだ、私とは限らない。



「いいなー、俺も欲しいなー、そんな武器ー! 下手なアーティファクトよりいいじゃーん」

「俺もお気に入りで、枕元に盾を置いて寝たりしました…。さすがに槍は危ないのでしませんでしたが」

「いい武器手に入ると添い寝しちゃうのわかるわー。でも男だろー、槍も一緒に寝てあげなー」



 はははは、と、楽しそうに笑いあっているの他所に、私は…つい、その使われた素材が私の体であることを妄想し、ガーベラさんと一緒に寝ているという光景を考えてしまった。

 恥ずかしい…。いまの妄想は忘れてしまおう。

 そもそも、私は女の子と寝たい。


 でも武器を主に使う人が武器を愛するというのは大切よね。リンネちゃんも度々、自分の剣に頬ずりしようとするし。実際にしてほっぺた切っちゃうことあるし。

 その都度私が完璧に治すけど。



「そういえば、いらない効果まで着いたんですよ」

「どんな?」

「回復呪文の効果が上がるとか。俺、回復魔法覚えてないんだけどな……」



 ……!?

 まって、もうどう考えても…。



「どうしたんですか、アイリスさん。いきなり立ち上がって」

「え、ええ、あああ、い、いや、そ、その、外の空気吸って来ますます!」

「ますます…?」



◆◆◆



「はぁ…はぁ…」



 まさかふとした妄想が現実になってしまうなんて。思わずギルドを抜け出して来てしまった。まだパンケーキ食べてないのに。

 ……家に忘れものしたから戻ってたっていえば自然かしら。


 ぅ…それにしても、私の体を使った武器とガーベラさんが添い寝…。うわぁ…。どうしよう、もうあの人と顔を合わせられない。いくら手元を離れてるとはいえ、私の身体…うぅ。



「……アイリス?」

「ひゃいっ!」



 声をかけられた方を向くと、ガーベラさんが居た。

 心配と申し訳なさを兼ね備えたような表情を浮かべている。



「な、ななな…なんだすか?」

「いや…その、ごめんね」



 ガーベラさんは軽く頭を下げる。

 それはもうものすごく礼儀正しく。



「……え、どうして謝って…?」

「回復魔法を極めてるアイリスの前で、回復魔法を高める効果を要らないって言ったから…怒ったんじゃないの?」

「え、えーっと…」

「だから顔を赤くしていきなり立ち去ったんだって、誤って連れ戻しに来いと言われちゃってさ。確かに考えてなかった。本当にごめん」



 もう一度ガーベラさんは謝る。

 なんだか勘違いで真剣に謝るこの人を見てると、すでにアイテムと化した自分の体の扱いに照れるだなんて恥ずかしいことしたって思う。

 


「違いますよガーベラさん」

「そうなのか?」

「ええ、鍛冶屋さんの使った魔物の素材とは、私の手のことでしょう」

「それは本当!?」

「おそらくは。えっと…あの、私って男の人と話すのは大丈夫なんですけど、身体を触れられるのは得意じゃなくて。自分の身体が……使われてるとわかって、つい」



 あの蟹との出来事を覚えているガーベラさんは、なるほど、と一言言うとまた謝ってきた。

 


「あ、あの、もうそれは私の身体自体ではないですし、ガーベラさんはなにも気にせず使ってくださいね? 遠慮とかされると逆にわるい気がします。元はと言えば勝手に変な考えを起こして照れてしまった私が悪いのです! 魔物なのに……男の人に照れるだなんて」

「いや……とんでもな……い。アイリスは立派な…お、女_子じゃ__か。だって__なに…か_いい___」



 ボソボソとなにか喋ってるけど上手く聞き取れない。

 まだワイン飲んでないんだけど、酔いも回ってきたのかしら。



「すいません……聞き取れなかったのでもう一度お願いします」

「ごめん……こっちの話だよ」



 何言ってるかわからなかったけど、この人のことだし誠実なこと言ってるんでしょう。

 とりあえず私達はギルドに戻った。

 ……しかしどうやら何人か女の人がガーベラさんの跡をつけてきていたみたいで、話の内容を暴露されてしまったの。


 ……ガーベラさんは冒険者のみなさんからなぜか攻め立てられ、羨まし(?)がられ。


 私は体のパーツを何人かから求められるも、身体を千切ってるから痛みを感じるってことにしてお願いを断った。

 千切ってるって表現が生々しくて良かったみたいで、元からみんな仲がいいってこともあって、簡単に引き下がってくれたの。

 そのあとはいつも通り、御礼の奢りで楽しんだ。


 ……なんだか疲れた私は、アルコールがはいってることもあってか、帰ったらすんなりと眠りにつけた。


 

######


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