第157話 破滅蟹との決着でございます!
【じ…っじゅうじゅう魔方陣!?】
ロモンちゃんが驚いたような声を私の中で発した。私自身も十重魔方陣というとんでもないものに心底驚いているわ。……威力が凝縮されるこの技術で10重なんてやったら、とんでもないことになる…!
【お母さんすごい……。アイリスちゃん、私たちも行くよ!】
【は、はい!】
私は魔流の気で新しく手を二つ作り上げる。そして総計四本の腕をグラブアに向けた。
…本気を出せば私だって重ねることはできないし、得意な魔法に限るけれど5個くらい一人で魔方陣を作ることができる。そして今はロモンちゃんもいるわけで。
【リシャイム!】
私達は光の上級単発魔法を唱えた。現れる魔方陣は四本の手と頭からの5つ、と、ロモンちゃんが魔人融体してくれて出した分の3つ。総計8つの魔方陣。
【……なにか、まずい気がする…! クッ!】
グラブアは私達をみて何かに気がついたのか、巨大なハサミを盾のように自分の前に身構えた。凍っている分防御力も倍増…だなんてことになってる可能性もある。
【はああああああああ!】
【ああああああああ!】
発射される、十枚重ねの最上級炎魔法と、八連射の上級光魔法。
お母さん達が放った炎はまるで極太のレーザーのようにまっすぐにグラブアをめがける。
私達が放った光はグラブアの足の節目をピンポイントで狙って行く。
【はぁ…はぁ…うぐおおおおお】
ついにお母さん達のレーザーがグラブアのハサミと接触した。さすがはグラブアと言いたいところ。あれだけの破壊力をもつ魔法相手に重ねたハサミで持ちこたえている。
しかし、次に来るのは私達の光魔法。
それは狙い通り足の節目に被弾、炸裂した。
【うぁ!? ぐっおおあああああ!?】
ガクン、とグラブアの体勢が崩れる。
私は考えて魔法を当てた…足の崩れる順番を考えて。
グラブアの前脚が千切れかけた。もう支えられるはずもない。彼は自分の重みで少し前のめりになる。
前のめりになるということはお母さんのレーザーに自分の体重を押し付けるということ。
【んなああああっ】
ぴしり、と周囲に聞こえるような大きな音。
蟹のハサミに大きな亀裂が入る。
そして、そんな間にも前から2番目の2即の節目にまた被弾。また態勢を前に崩した。
その瞬間、ついにグラブアの右鋏が岩石でも爆破したような破壊音を鳴り立て、粉々に砕け散った。
【う、嘘だろ!? この俺の身体が!?】
驚くグラブア。でもそんなこと御構い無しにお母さんの最高威力の最上級炎魔法はグラブアの左鋏を破壊せんとすべく放たれ続けている。
そのタイミングで光魔法が、また1組の脚に被弾した。今度は千切ることは成功しなかったけれど、踏ん張っていた力を抜けさせることに成功。
その力が抜けたと同時にハサミに再び亀裂が入る。
【ちくしょう…】
そして、左鋏も破裂。
ついにレーザーは本体へと襲撃を始める。そしてまたそれと同時に私の光魔法が最後の1組に被弾。
また千切るには至らなかったけれども、変な方向に捻じ曲がる。あんなので歩けるはずもない。
【ぎゃ……がああああああああ!】
避けることもできなくなり、身体が倒れて顔にモロにレーザーが被弾し始めるグラブアは絶叫し始めた。
間もないうちに、彼の身体本体にも亀裂が見え始める。
【……いぎ…あう…ぐぅ……! うあああああ!】
一つ咆哮したと思ったら同時にグラブアの姿が消えた。
レーザーはスカされ、遠く後ろにある山まで飛んで行き、山頂を破壊。
グラブアの姿が見えなくなったベスさんとお母さんは十重魔方陣を解除した。
【……どこに行ったのかしら?】
【ワカラナイ】
煙でよく周りが見えない。…私はとりあえず探知をした。人型のグラブアと全く同じ反応。
ああ、つまり人間になってあのレーザーをスカしたのね。危ないことをする……もし上手くいかなかったら即死だっただろうに。
グラブアの反応はゆるりゆるりと歩き始めた。
私に向かって。
【サッキマデ イナカッタ ニンゲン ノ ニオイ ガ スル。……コイツカ】
お母さん達も気が付いたみたいね。
煙の中でよく見えないけど探知はよく効いてる…でもおかしいな、この状態で逃げずに私の方まで向かって来るって一体どういうことなんだろう……。
【あ、あれ? アイリスちゃん、敵の反応が消えたよ!?】
本当だ、グラブアの反応が探知から消えてしまった…!?
【ナンダイ、コレハ。……ウミ ノ ニオイ?】
ベスさんが海の匂いを感知した。
つまり、グラブアあの例の泡の壁とやらを展開したわけね。これを使用して逃げようってわけ。でもそうはいかない……。
【アイリス、アブナイ!】
【え?】
ベスさんがそう、唸り声とともに叫んだ。
私は真横を振り向く。そこには、あの盾剣を深く握り込み、私に向かって飛びかかって来るボロボロになった人間のグラブアの姿が。
「アイリス、アイリスちゃん! 君は、君だけは生かしておけないぃ…っ! 極至種である君は、必ず他の幹部の、魔王様の害となる! そう戦ってやっぱり確信した! ここで死んでくれぇぇぇっ!」
やばい、完全に油断していた。
まさか逃げずに私を執着して狙って来るなんて。やばい、今は魔人融体したまま…。私にとっての致命傷は、ロモンちゃんにとっては即死に至る。
どうしよう、どうすればいい?
どうすればロモンちゃんだけでも…。
「うぉぉぉあああああっ! ぬぅぅん!!」
そんな力のこもった声が聞こえた。と、同時に私の視界に新しく槍が入り込んでくる。
その槍はグラブアの脇腹を捉え、そのまま突き刺さる勢いで軽く吹っ飛ばした。
「ぬぅあああっ」
私からグラブアの攻撃はそれ、彼は地面に転がった。
しかし彼は素早く立ち上がると、盾剣を再び握り直し、また私に飛びかかってくる。
そんなグラブアと私の間に割り込んだ一人の影。
「いい加減にしろよ、ストーカー野郎」
「お前はっ!?」
【ガーベラさん!?】
ガーベラさんはそのまま空中にいるグラブアの振り下ろしてくる手をタイミングよく掴むと、足を払い、投げ飛ばした。そして素早く腕をひねり、頭を抑え、制圧をしてしまう。
グラブアの方がステータスが高いはずであり、たぶん、そのぶんはアーティファクトの籠手に頼ったんでしょうけれど、それにしても中々華麗な柔術さばきだったわ。
「くそっ…くそぉぉ…また、またお前が俺の邪魔をするのか!? やはり、遊ばずに、あの時にお前を殺しておけば……人も呼ばれなかったしこうもならなかったんだ…!」
「後悔先に立たずというやつ、だな。そもそもアイリスに手出しをすること自体間違っていたんだ」
……これで終わり?
ロマンちゃんは私の中から抜け、自分の身体へと戻っていった。どうやらお母さんもそうらしい。
「……あ、あの……」
倒した後の余韻がここら全体に流れる中、一人の兵士が私に話しかけてきた。
なんだというんだろう。
【どうかされましたか?】
「あ、アイリスさんですよね? あの、俺、前の幹部を倒した時にもいたんスけど…」
【ああ、そうでしたか。ご苦労様です】
なるほど、ただの兵士なのに2回も幹部と相見えるとは中々忙しい兵士さんだ。……ん? いや、よく考えたら私達はただの冒険者であるわけだから、私達の方が忙しいのかな?
「えっと、魔王軍の幹部とお聞きしまして、とりあえずまえのあの蛇を無力化した時と同じ準備を我々、してるんスけど…」
なんと準備がいい。
もしかしたら前も対応してくれたあの国のお偉いさん…オーニキスさんだったかな、あの人が手配してくれたのかもしれない。
【ありがとうございます…! では、よろしくお願いします。私も氷漬けにできるように準備しますので】
「了解です!」
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次の投稿は7/15です!
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魔王軍幹部
・名前:グラブア (破滅蟹グランルインクラブ超越種の半魔半人)
・扱う武器:単純かつ絶大な破壊力がある盾剣。振るわれた剣先、勢いがつけられた盾の部分に触れた物は破壊される(アーティファクト)。
・特徴
+とんでもない硬さの甲羅とハサミと脚(関節以外)を持つ。アダマントにも匹敵する。
+単純なステータスであれば魔王軍幹部最強。
+独自で魔法を開発できるほどの高い知能を持つ。
+脱皮をすることにより、HPとMPを全回復することができる。半日に一度のみ。
+ほとんどの時間を半魔半人状態でいるため、体の一部のみを魔物に戻すなどの高等技術が可能になった。
+一時的に身体能力を高める特技はあるが、基本的に使わない。
ほぼ全ての攻撃の威力を無効・あるいは半減でき、振るわれるハサミは全てのものを破壊する。その姿はまるで戦闘要塞。
相性にもよるが数値上ならば幹部最強であり、また実はトップレベルの常識人。さらにフレンドリーな性格のためほとんどの幹部と仲が良かったりする。その上、蟹の魔物であるのにずば抜けてる頭脳を持っているため、魔王からの信頼は深かった。
雷魔法が嫌いな理由は、勇者に倒された方法として、体の節目に得物を刺され、それを媒体にして直接体内に最上級雷魔法を叩き込まれたことがトラウマになっているからで、弱点属性は本来は無い。
復活してからしばらくは武器を探すのに集中していたため、被害にあった女性はアイリス一人。
結果的にはアイリスの一部的な恐怖心以外の絶望は集められなかった。
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