第144話 私、ピンチです。 3
「ガハッ…ゴホッ…ウグゥ」
痛い。
痛い痛い痛い。
生まれてこのかた味わったこともないような痛み。吐血もしてしまった。痛みで私自身本当に痛いのかなんなのかもうさっぱりわからない。
どうして?
逃げられるはずだったのに。
グラブアの背中から赤いフックのようなものが出てきて、それが私の下着を引っ掛けて失敗した。
あれも技の一つだと言うの?
「なるほど、内臓もいくつか潰して気絶させるつもりだったのに、骨が数本折れた程度で済んじゃったか。補助魔法でもかけたのかな? それにさっきまでの傷はほとんど治ってるね」
背中からフック…いえ、爪のようなものを生やしたまま、相手は私を観察する。
どう考えても形相含めてただの人間には見えない。
…それで…私は補助魔法は素早さと防御に1段階だけかけただけだった。それでも並みの補助魔法より効果あるのに、この威力。
どうしよう、この人の強さ、どう考えてもSランカーくらいある。何がBランクよ。
て言うかそもそも人間なのかしら。
「なるほどなかなか君の魔法は優秀らしい。うーん、まだ何かあったら不便なんだよね、こっちとしても」
「……」
ジリジリと相手は近づいてきた。
私は痛みを堪えながら後退りすることしかできない。
何が私なら切り抜けられる…よ、何がゴーレムになったら何もされない…よ。
油断した結果このザマじゃない。
私より格上なんて想定外。でもそんなの全く言い訳にならない。
「ふぅーん…どうするかなぁ…。これ以上抵抗されても困るしなぁ…」
「……………っ」
「あ、そうだ。アイリスちゃん、2つに絞らせてあげる」
指で2を表しながら、弱っている私の顔を覗きこんでくる。表情が怖い。いつの間にか背中から生えてた謎の赤い爪は消えているけれど、それでも人間とはかけ離れてる。
「今からアイリスちゃんの手足の自由を訊かなくするんだけど、魔法で拘束されるか手足を切断されるか、どっちがいい?」
魔法も使えるのか。いや、自分で魔法を開発したって言ってたっけ。私から見たら手足切断が良いのだろうけれど……でも……。
「いいねぇ、その恐怖に歪む表情! 美しい顔がより美しくなる…! わかってるよ、みんな魔法の方を選ぶんだ。手足切断は激痛だからね」
そう、私だって痛いのは嫌だ。
なるべく避けたい。だけれど逃げられる確率が上がるのは斬られる方。このまま痛みが麻痺してくれていって、1回回復魔法が使える状態になっちゃえば、いつでも体制を整えらる。
魔法の方だったら…この強さで、性に対してこの執着心なのだから、きっと拘束するための魔法もかなりの練度のはず。つまり一度やられてしまったら外すのは難しい。
どうしよう……。
「あれ、迷ってる? 普通だったら魔法の方で即決だよ? ……まあ魔法の方を選んでもらっても、ちょっと指を切断させてもらったり、足の腱を切断させてもらったりするんだけどさ。…とりあえず魔法でいいよね? 待つのも疲れたし、そもそもアイリスちゃん、今喋りにくいじゃないか。俺ったらおっちょこちょいだね」
どうやら相手の中で魔法の方に決まってしまったようだ。私は身を委ねるしかない。
「よし! これでアイリスちゃんは満足に身動き取れないね」
……突如、手足首に現れる冷たい感覚。
見てみれば、どうやら闇氷魔法で拘束されてるみたいだ。よりによって溶けない闇氷……そもそも普通の人間は闇氷魔法なんて使えないはず。
ますますこの人がなんなのかわかんなくなってきた。
「あと口も」
そう言うなり私の顎を無理やり掴んで口をこじ開けてくると、手で覆った。瞬間、口の中…特に舌が口に張り付いたみたい。舌を使えないということは、魔法が使いにくくなると言うこと。
まだ私には念話があるけれど、それも痛みを無視して集中しないと無理。
「うんうん、いいねぇ。まだ下着が残ってるけど胸をさらけ出して、口も手足も拘束されて、そして腹は激痛が走ってるときた。……でもね、これからが本番だよ?」
ろくに立てずに地面へとへたれこんでいる私に、しゃがみこんで高さを合わせた相手は、さっきみたいにまた胸を弄ってくる。
そしてそのまま顔も近づけてきた。
精一杯の犯行で、首を動かしてグラブアの口付けを受けないようにする。
「べろりん」
しかし、キスじゃなかった。私の顎から耳下までにかけてを舐められたの。頬に生暖かいような嫌な感覚が起こる。
「うん、美味しい。さてさて…」
グラブアは一旦私から顔を離すと、じっくりと眺めてきた。気持ち悪い、とても不快。
「次は何をもらおうかな? いっそこの下着とっちゃって、可愛いのを出す?」
「………っ」
ついに裸にするつもりなのかな。
男の人に裸を晒したくない。なんて、そんなことよりもっと酷い目にこれから合わされる。
それくらいで根をあげてたら反撃の機会ができない。
「いいね、その涙目。君みたいなウブだけど気は強めな女の子が絶望しかけている姿を見るのは、本当にゾクゾクすよ!」
どうしようもないド変態だ。
私が抱きかけていた、少々の信頼の念はどこへやら。
人を疑うような性格だと思ってたけれど、甘かったのね。そしてその甘さがこれを招いた。
「まだ服を剥いで胸を揉んだだけだからね。根をあげないでよ? ……君が一番してほしくないことはなんだろうね、まだ普通に話してたときに訊いておけばよかったよ」
何もせずにただ見ることをもう2分くらい続けている。
この人の変態嗜好の中で私はどうなっているんだろう。そしてそれを実現させられちゃうんだろうか。
「うーん、よし! とりあえず犯そう!」
何がよし、なのか。
本格的にやばくなってしまった。
手足を氷で拘束され、声も出せない。骨折している痛みで魔流系の技を繰り出すのも難しいでしょう。
「アイリスちゃんは生娘だよね? まあそんなの見てたらわかるんだけど」
再び彼は座り込み、私のスカートをめくって中を覗く。
「案外可愛いの履いてるんだね」
「…………」
これで下着は全部見られてしまったか。
まあ、恥ずかしくて仕方はないけれど、もうそんなの気にしようがない。
「優しくしてほしい? それとも乱暴にしてほしい?」
私の目を見てくる。その怖くて黒い目でじっと。
答えない。答える気力もない。とにかくひたすら考えるのは、痛みと羞恥心と恥ずかしさ、そして逃げること。
「どっちか言ってよ」
「………」
自分で口を塞いで置いて何か言ってとはこれまた鬼畜なことを__________
「言えっつってんだろーがよっ」
飛んでくる拳。強打の音とともに私の頬は痛みを感じた。だいぶ手加減してるみたいでらあるけれど、痛い。
いや…….もう嫌……。
「あ、そういえば口も凍らせたんだよね。忘れてたよ。ごめんね。……じゃあもう一回訊くけど、ズタボロになるくらい乱暴にシちゃっていいよね?」
「…………!?」
グラブアは私の顎を再び掴み、無理やり頷かせた。
…もう言っていることもやっていることもめちゃくちゃ。
「うんっ! よし決定だ」
……キスは奪われなかったけど、今度はもっと大切なもの失うはめになるなんて。なんでこうなったの? 嫌だよ。…誰か……誰か助けて……っ。
「アイリスちゃん……!!? お前、そこで何をしている!」
グラブアが私のパンツを脱がそうとしたそのとき、裏路地の入り口から、一度だけ仕事を一緒にした彼の、声が聞こえた。
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