第139話 ケル君を預かるのでございます!

 お母さんからケル君を仲魔にしないかという提案を承諾してから1週間が経った。

 お母さんはまた私達の宿を訪れている。



「今日はね、ケルをロモンに完全に渡しちゃう前に、3人に慣れさせておこうと思ってね。2日間だけ預かってくれないかしら?」



 そう言いながらケル君のだと思われる封書を渡してくる。だけれど私ならともかくロモンちゃんとリンネちゃんはケル君のことよく分かってるよね?



「いいよ! だけどケルも私達もお互いのことよく知ってると思うけど……?」

「今まではここにおじいちゃんもガーナちゃんも居たからね。環境に相違があるわ。主な世話はずっとおじいちゃんがやってきたわけだし」

「なるほど、環境が少しでも違うからってことだね」

「リンネ、その通り!」



 なるほど、お母さんなりの考え方がきちんとあったわね。少しでも環境が違えば、たしかにその『少し』がケル君にとってのストレスになっちゃうかもしれないし。



「そういうわけだから、2日間お願いね。その後のケルの様子次第でケルの仲魔移行をする時期を考えるわ」

「うん、分かったよ!」



 お母さんからロモンちゃんに、ケル君の封書が渡される。お母さんが手をかざすと、本が光だし、中から気持ちよさそうに眠っているケル君が出現した。



「じゃね、ママはまだお仕事あるから」

「行ってらっしゃいお母さん!」

「頑張ってね!」

「可愛い愛娘達にそう言われたんだから、お母さんすごく頑張っちゃう!」



 二人に応援されたことで顔は嬉しそうなものの、本当に忙しそうにこの部屋から出て行いった。

 やっぱり御国のお抱えの仕事って大変なのねー。

 お母さんとお父さんの場合、お金が欲しいから仕事してるというより、国に奉仕されてる感じだもんね。

 お給金は高そうだけど。



「ケルがここに来るのって初めてだっけ?」

「そうだったと思う。ケルの寝顔を見ていると癒されるねぇ」

「そうですね」



 リンネちゃんの意見には激しく同意できる。

 これがゴブリンとかだったら可愛いと感じて居たかどうか怪しいもの。



「グァ……ワフゥ……ワン!」


 

 ケル君が目を覚ました。

 念話を切ってる状態だと、普通に犬みたいな鳴き声するのは知らなかった…わけじゃないけど聞いたのは初めて。

 やっぱり普通に犬よね。



【おはよう、ケル!】

【ゾ! …オハヨウナンダゾ、ロモン、リンネ、アイリス!】



 お鼻をクンクンさせながら元気一杯に念話を送ってくれる。変に生意気じゃなくてこういう風に正直なのも愛着がわくわ。



【お母さんからお話は聞いてる?】

【キイテルンダゾ! イマ、オイラハ レンシューキカン ナンダゾ! ロモン ノ ナカマにナルタメノ!】



 どうやらしっかりと話はしてたみたいだ。



【じゃあ私達の仲魔になることは…】

【オイラカラモ ゼヒ オネガイシマスナンダゾ! オウチ デ オヒルネ モ ワルクナイケレド、ヤッパリ ムカシノ オカアサンミタイニ、ボウケンシタインダゾ!】

【そっかぁ!】



 たしかに生まれてこのかた全然戦ったこととか無さそうだものね。仲魔になってくれるのは大歓迎だけど、戦闘ができるようになるまでしばらく時間がかかりそう。

 とは言ったものの私が居れば片言も抜けるし、魔法も武術も私が使えるだけ覚えさせることができるんだけどね。

 

 

【ソレデソレデ! キョウハ ナニヲ スルンダゾ?】



 尻尾をフリフリさせながら、期待に満ち溢れた目でこちらを見てくる。



【あー、まだ決めてないや】

【一緒に寝てあげる…っていうのも、普段と変わらないしねぇ。ケルは何かしたいことある?】

【オイラハ トリアエズ イロイロミテミタインダゾ!】



 色々見てみたいという要望。

 たしかにこの街に来たばっかりのロモンちゃん達は新鮮を毎日全身で感じ取っていたっけ。



「じゃあどうする? 街の中案内する?」

「うーん、街じゃなくて城下町周辺にしない? そうしたらケルにゴブリンくらいの相手なら戦わせることできるかも!」



 たしかにケル君は冒険を求めているよね。

 ロモンちゃんのその意見が最善かなぁ…。

 だとしたら一つ、ロモンちゃんを成長させるためにあることを試してみてもいいかも。



「ということは外に出て軽く魔物を狩るんですか? 今日は」

「そういうことでしょ? ロモン」

「うん!」



 全部普通に言葉で話しているから内容がわからないであろうケル君は首を傾げながらも尻尾を振ったりして喜んでいる。自分のことで考えてもらえてるのが嬉しいんだろうか。



【ケル! 今日は街から外に出て、魔物を倒したり城壁周辺をお散歩しようと思うんだけど、どうかな?】

【オオォ! ワカッタンダゾ! ……デモ オイラ、ムラ二 ゴブリン ガ オソッテキタ トキカラ、アマリ ステータス ガ カワッテ イナインダゾ…】



 急にシュンとして耳をヘタレさせた。

 自分の弱さに落ち込んでるのかぁ…まだ何もしてないから、これからなのにね。



【大丈夫! 少しずつ教えながらやっていくし、危なくならないようにぼく達が援護するから】

【ホントナンダゾ? メイワクニ ナラナイノ?】

【ならないよ! もう私達それなりに強いもん!】



 えっへん、と胸を張るロモンちゃんとリンネちゃん。

 よし、そろそろ私の考えてるプランをひっそりと提案してみますか。



「なら、私は今回はついていかなくても良さそうですね」

「「えっ…ええ!? アイリスちゃん着いてきてくれないの!?」」



 声を揃えてそう言われても。

 まあ今まで私がいっしょにいることが当たり前だったから。



「はい。これはロモンちゃんを育てるためでもあります」

「……どういうこと?」

「今までロモンちゃんは私を育ててくれました__________」



 私は説明をした。

 自分という存在を客観的にみて、ロモンちゃんにとってどう影響するかを。 


 突然、言葉がわかる…人間並の思考ができるゴーレムが現れる。たしかに運命の出会いなんだけれど、魔物を育てる…ということに関しては楽すぎるのよね。

 さらに私は夜中に一人で修行に行って、経験値貯めて進化したわけだから、ロモンちゃんが育てたということにはならないの。

 そして私の『教授』の効果によって魔法もお勉強も並大抵じゃないくらいできるようになった。

 もう魔物に対する知識だけなら、博士号とか持っていてもおかしくないくらいある。

 でも、それでも私のせいで実践経験が浅いのよね。

 


「そ…そっか、たしかに私、アイリスちゃんに頼りっぱなしだったかも…」

「そうです。仲魔なので頼ってくれて全然構わないしむしろ嬉しいのですが、『魔物を教育する』という魔物使いとしての実践経験が乏しいと思われます。なのでケル君は_____私は非効率的なものが嫌いなので、戦い方や魔法、知識などは教えますが_____ロモンちゃんが主となって育ててください」

「……うん、わかったよ!」



 とは言ってもケル君もだいぶおじいさんによって調教済みなんだけどね。これから成長してくには難易度をどんどん上げてくタイプのほうがいいでしょう。

 そのうち1からできるようになってもらわなくてわ。



「じゃあアイリスちゃんはどうするの? 今日は」

「お散歩にでも行きますよ。暇ですし」

「そうするんだ」



 本当にギルドに遊びに行くかお散歩くらいしかできない自分が悲しい。なにかもっとそれらしい趣味とか見つけないとね。



「では、別々に行動しましょう。ケル君にはいい感じに説明しておいてください」

「「うん!」」.



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