第128話 まだまだ働くのでございます! 4
【見た目の年齢も近いしさー】
ああ、なるほど。どうやらロモンちゃんとリンネちゃんは私とこのガーベラさんの間に変なことを期待してるみたいだ。
そんな優しく扱われたくらいでホイホイ人を好きになる私ではない。
【…御言葉ですが、あの程度で惚れたりしませんので】
確かにイケメンで優しくて、実力もこれからバリバリ付いて行くだろうと予測できる有望な方だけれども、それとこれとは別なの。
「アイリスちゃんかわいいねー」
「からかうの楽しいねー」
ああ、ひどいっ。
やっぱり楽しんでたのね、私の反応を見て!
ロモンちゃんとリルちゃんだって男性経験ない癖に……いえ、そういえば誕生日に告白されてたっけ。
「……? もう少しで標的のところまでつくけど」
私たちの話の流れに乗れない(念話で個別で話してたから当たり前だけど)ガーベラさんは、頭にはてなマークを浮かべながらそう報告してくれた。
男性は私たち女の子の会話は分からなくていいし、知らなくていいの。
◆◆◆
「いたね」
視力を高めているリンネちゃんがメタルリゴロゴマンティスを見つけたみたい。
こんな暗い中でも見つけられるの。
「すごい視力だ。……でも人で目視できるくらい近くにいるなら、そろそろ向こうも気がつくはずだ。用心して」
ガーベラさんが背中からランスを取り出した。
見た所、一般的なランスで、一級品であるというわけではなさそうだ。正直武器だけだとCランクまで単独で上がってこれたという事実は確認できない。
牛歩で息を潜めてゆっくりとメタルリゴロゴマンティスに向かって歩き続けるの。
ま、私達3人だけならすでに襲い掛かってるんだけどね。
「……いた」
普通の視力の私達でも普通に影がわかるくらいに、メタルリゴロゴマンティスまで近づいた。
やっぱり大きい。大きさはゴーレムの時の私と同じくらいかしら。
「まずは俺が攻撃を仕掛けるよ」
小声で彼はそういう。
まあ実力は気になるし、ここは何もせずに見ておいてあげよう。
ガーベラさんが槍を構え……メタルリゴロゴマンティスが私達に気がつき、こちらを振り向いてきたその刹那、素早く得物を振るう。
「『砲突』!」
槍使いに知り合いがいないからよくわかんないけど、見た感じかなり威力の高い一撃。
なんとなく、ガーベラさんのランクと同じ冒険者では習得不可能であるというのだけはわかる。
『キシェーッ!?』
振り向きざまに槍で突かれたメタルリゴロゴマンティスは驚き、そしてダメージに呻く。
ガーベラさんはこいつの足を1本ほど持っていったようだ。Bランクの上のメタル系の魔物の足を、不意打ちだったとしても千切れるなんてやっぱり強い。それも性能が低めの槍で。
ダメージによる怯みから一瞬で回復したメタルリゴロゴマンティスは後退するかと思いきや、ガーベラさんの首に向かって素早い鎌での攻撃を繰り出した。
「ふっ!」
しかしそれはもっと素早いリンネちゃんによって簡単きに弾かれてしまう。
このレベルまで育ってきた魔物だ。
さすがに判断力が付いている。
私達との接近戦が不利だと感じたのか、羽根を広げて飛ぶように後退。
すぐさまリゴロゴを放ってきた。
あの程度のリゴロゴも、リンネちゃんなら技で弾き返せるけど……。
「ね、ね、ロモン! 盾試してみて!」
「うん!」
ロモンちゃんは盾を取り出し、前衛に立つ。
普通なら魔物使い自身が前衛に立つなんてことありえないんだけどね。
すでにMPは注いでいたのか、銀色だった盾のボディがテントウムシの身体のような朱色に変わっている。
ロモンちゃんはコロナの盾をリゴロゴに向かってかざした。
素早く展開される赤くて透明で、電子的な膜。
それは私達4人を容易く包み込み、膜と衝突したリゴロゴの巨岩弾は、砕けつつも若干溶けてゆく。
「これは…っ!?」
「ふふふ、アーティファクトです! この間私達3人でダンジョンに行って手に入れたんですよー!」
ロモンちゃんがガーベラさんの驚嘆によるつぶやきに嬉しそうに答えた。
一方、何十発かのリゴロゴを撃ち終えたメタルリゴロゴマンティスは、どうやら私達の相手だと完全に不利だと考えたみたいで、羽根を広げて逃げる準備をしている。
「逃がしませんよ?」
私は杖剣の切っ先を獲物にめがけた。
そして唱えるリシャイム。
何でもかんでもあっという間に破壊してしまう威力を持つ光の弾は鉄の身体をもったカマキリを一瞬で蒸発させてしまった。
あ、素材がもったいないから、消滅させたのは急所だけね!
「これで終わりですね」
「今回もあっという間だったね!」
「なっ……」
さらにガーベラさんが唖然としている。
まあそんなことはどうでもいいの。
「どうです? まだ時間はありますし、近辺の魔物を根絶やしにしてから帰るというのは。公道の近くに出る魔物は迷惑ですからね」
「うん、じゃあそうしよっか!」
そういうわけで私達は呆然とするガーベラさんを無理やり連れて、ここら一体の魔物を根絶やしにする狩りを……もとい、小金稼ぎを始めたの。
これでこの大食い姉妹の胃袋を一旦満タンにできるくらいのお金を確保できるばいいんだけど。
◆◆◆
いやぁ、大量大量。
一食分は稼げたんじゃないかしら?
公道の近くの定期的な魔物の排除が近かったためかな、ザクザク魔物を狩ることができた。
「どうやら俺は不要だったようだな」
馬車に戻ってくるなり、少ししょんぼりとした表情でガーベラさんがそう言った。この人いい人だし、少しフォロー入れてあげないとかわいそうかな。
「いえ、ガーベラさんも相当な実力がありますから。お一人で短期間でこのランクまでこれたことに納得がいきました」
逆にこちらからもいってしまえば、この人1人で無傷とはいかなかったかもしれないけど、メタルリゴロゴマンティスは倒せたと思うの。
……確実に来年までにはBランクに行ってることでしょう。
このメンバー、あのマンティスからみたらオーバーだったんじゃないかな? 本当だったらAランクの魔物討伐でも良かったかも知れないくらいだし。
「はは、君にそう言ってもらえるとなんだか嬉しいよ」
苦笑いだかはにかんだのかよくわからない表情を浮かべららた。うーん、もう少し励ます言葉を送れないかな。
そうだ。この人ならあそこも問題ないかも!
「武器に悩みがありませんか?」
「武器? ああ…実はね。冒険者始めてから全く買い換えてないんだよ」
この人も冒険者始めてまだ数ヶ月。
そう年内に何度も何度も変えたりは、急激に強くなった時以外は普通はしない。私達みたいに。
でもこの人の場合はその私達と同じような感じなわけだから、いい武器を手に入れてもらわなきゃ。
「実は私、いいところ知ってるんです! ヨービスという名のお店でして。すこし厳しい、実力主義のドワーフのおじいさんの鍛冶屋なんですけどね? 私たちがいま使ってる武器もそこのなんですよ」
私は杖剣を見せる。
ガーベラさんはそれをみて、目を見開いた。
「これはさっきの……本当にいい武器みたいだね」
「ええ。値段はウン千万単位ですが、もはやアーティファクトの一歩手前くらいの出来ですよ。Bランクの仕事をこのまま続けていれば自ずとお金は貯まるはずです」
「そうか……ヨービスね、覚えておく」
今度は苦笑い風の笑みではなく、しっかりと笑ってくれた。やっぱりこの人かっこいいなぁ…。
ま、付き合うとか好きになるのとは別よ。
……だから双子ちゃん達はニヤニヤしないでね。
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