第86話 目覚めたのでございます!!
私は人相描きをしつつ、直接戦った者として、得た情報をめいいっぱい伝えた。サナトスファビドの載っている図鑑を開きながら。
「なるほどな。それでそのサナトスファビドが直接、自分から魔王の元幹部だと言ったのかね?」
【はい。彼はギフトと名乗っておりました。半魔半人の時は、かなり身軽な格好を_____あ、こんな感じです】
私は丁度、描き終わった絵をオーニキス様に見せる。
「ふぅむ。こういう見た目なのか…どれ。上から5冊目の本を取ってくれ」
「はい」
メイドさんが、薄すぎず、かと言って薄くなくはない本を積み上がった塔から抜き出した。
それを彼女は、机の上に置く。
「ご苦労。ロモンちゃん、アイリス、この本は竜魔王を倒した勇者の仲間が記した記録だ。魔王の幹部の名や特徴、討伐した方法が書かれている」
へぇ、そんな本があるんだ。
「まあ、これはその複本だが…。厳重に保管されているため、手続きをしない限り普段はこの複本でさえ見ることはできない。私ですら触るのも初めてだ。………もしこれに、ギフトという者の名が載っていたら、アイリス、君の情報が本物だということになるが…」
オーニキス様はその大切な本を開いた。
埃の匂いがする…ような気がする。
ロモンちゃんがクシャミをした。オーニキス様も本のページをめくるのを一旦止め、鼻をかむ。
「やはり古いな…。さて…」
無言でパラパラとその本をめくる。
様々な記録があるみたい。
一人の幹部についてだいたい3ページくらいで記されてる。写実付きで。
しばらくして、オーニキス様はふと、手を止めた。
私とロモンちゃんはその手が止まったページを覗き込む。
『ギフト:蛇の魔物の半魔半人』そう、書いてある。
「……ふむ。この絵を見る限りでは、やはりアイリスの情報は正しいのか…」
ギフトについて書かれてるページには、ギフトの姿が書かれていた。顔だけだけど。
半魔半人だとしても、顔は個体でちがう。
だけど、私の描いた絵と全く同じ顔だ。
「困ったな。これは本当に魔王の仲間が復活したということになる…」
オーニキス様がそう言うと、その場にいた私達以外の人は、不安そうな表情になっていた。
「まさか、アイリスは前にこの本を見たことがある…などは考えれないよな? 不可能に近いが」
「は…はい」
【記憶は定かではありませんが、私はまだ産まれてから1年経っておりません。この街に来たのも1ヶ月位前ですし、時間的にも不可能です】
「うむ…。困ったな…。しかし、蘇ってしまったものは仕方がない……か」
オーニキス様は私の写実を手に取り、それをギフトのことが書いてあるページに挟めると、本を閉じた。
「……アイリスだけが、この者の呪毒というのを治せるという話も聞いているよ。君達が通っているギルドのマスターにも、既に被害者を複数人治療したことも聞いた」
【ええ、その通りです】
オーニキス様は、「ハァ」と、一つ溜息をついてから、立ち上がった。
「とりあえず、情報提供、感謝する。……もしかしたら…いや、確実に君達の力を借りる時が来るだろうな。今、モンゾニ村に居る誰かが毒に犯されたりした場合」
【それは百も承知ですよ。呼び出されたら行きます】
「わ…私もです!」
私とロモンちゃんも立ち上がった。
「…もしかしたら、この者の他に魔王や魔王の幹部が復活してる…などという最悪の事態を懸念し、私はこれから王に報告する。君達は今日は帰りなさい」
「は、はい」
【それでは】
オーニキス様がこの部屋を出て行こうとするので、私達もそれにつられて部屋を出た。
そのまま、出た先の廊下で彼とは別れ、付き添いの兵士の一人に連れられて、私達は城からも出る。
門前で兵士さんに一礼すると、敬礼仕返してくれた。
「さ、帰ろうか、アイリスちゃん」
【はい】
私とロモンちゃんはお屋敷に戻ってきた。
「お腹減ったよ。…でも私、お腹痛いんだけど、どうしよう」
【そうですね。私は昼食作りましょう。ロモンちゃんはお手洗いに行ってきて下さいね?】
ロモンちゃんは顔を赤らめつつ、お花を摘みに行ってしまった。
お昼ご飯を作るため、リビングに行く。
ソファに誰か横たわっていた。
ロモンちゃんと同じ水色の髪…リンネちゃんだった。
顔がそっくりだから、一瞬、ロモンちゃんがトイレから瞬間移動してきたのかと思った。ビックリした。
そんなことより、リンネちゃん…意識を取り戻したんだね!
「あ、アイリスちゃん…! え、えーっと…おはよう。えへへ」
【リンネちゃん…!】
私は幼体化して、リンネちゃんのもとに駆け寄る。
そして、ベットに横になってるリンネちゃんに軽く抱きつくの。
「うん…と、心配かけてごめんね?」
【いえ…いえ、大丈夫です】
「えへ…。ぼくもアイリスちゃんに助けられちゃったよ。本当、死んじゃうかと思った」
そう、ハニカミながら、私の頭を撫でてくれる。
【どこか、痛むところなどはありませんか?】
「ん、大丈夫! ……毒にかかったばっかりの時は死ぬほど痛かったけどね。もう、大丈夫だから」
リンネちゃんは身体を起こして、私をギュッと抱っこしてくれた。その時、ロモンちゃんがトイレから戻ってきた。
「ふぅ…。やっぱり胃腸薬飲んだ方がいいかな、アイリスちゃん…。アイリスちゃん…ふぇっ!?」
ロモンちゃんはリンネちゃんを見て固まった。
きっと、ロモンちゃんもリンネちゃんに向かってくるだろうと予想し、リンネちゃんから脱出する。
「ああ…えと、おはよう。心配かけてごめんね」
「あ…あう…お姉ちゃん…! お姉ちゃんっ!」
案の定、ロモンちゃんはものすごいスピードでリンネちゃんの元に駆け寄り、優しく抱きついた。
目から大量に涙も流し始める。
「お姉ちゃん! ……っお姉ちゃんっ…!!」
「ん…ロモンも、私を治してくれてありがとね」
「ありぇ? お姉ちゃん寝てたんじゃないにょ? なんで私達が治したって知ってるの?」
「ん? やあ、目を閉じてて…痛かったから身体動かせなかっただけで、意識はあったんだよ? 治してもらってから先のことは知らないけど」
「しょ…しょうなんだっ…!」
その後、私とロモンちゃんはリンネちゃんに寄り添いながら、リンネちゃんが寝込んでいる間にあった出来事を話した。
「へぇ…。じゃあ今は、お父さん達が村に。……それに、あのサナトスファビドは魔王の部下だったんだね」
「そういうこと」
「なんだか大変な事になってるね。しかも毒を治せるのはアイリスちゃんだけなんでしょ?」
「うん」
「やっぱりアイリスちゃんってすごいね」
私はお昼ご飯を作る事にした。
リンネちゃんもお腹が減ったらしい。とりあえず、胃に優しい物を作る事にした。
お昼ご飯を食べ終わった頃に、お母さんは帰ってきた。
お母さんもリンネちゃんを見るなり、目に涙を浮かべて抱きつく。
リンネちゃんは少し嬉しそうな、困惑した顔を浮かべながらこう言った。
「みんな、ありがとね。ぼく、もうダメかと思ったよ。本当に。1回でも恋したかったとか…いろいろと考えてて…」
「リンネ…まだ、恋愛は早いわっ!」
「あ…うん」
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