第80話 騎士団と爆発と

「剣術騎士団、到着した……」



 グライド率いる剣術騎士団がモンゾニ村に到着した。

 村の役人や村長がそれを迎えた。ロモンの姿も見える。



「おお…騎士団長のグライド様ですか…! モンゾニ村の村長です」

「……Sランクの魔物が出たと聞きました。状況の報告をお願いします」



 この騎士団の団員の一人が、村長らにそう問う。

 彼らは自分らが知っている限りのことを、その場で全て話した。



「……そんなことが」

「はい。我々よりこの娘の方が多くを知っているかと」

「…お父さん」



 ロモンは前に出る。



「ロモン……」

「い…今、起こってることを……全部言う…言います」

「……ああ」



 ロモンはより詳しく、その魔物に会った経緯などを全てを話した。

 団員やその他大人達は黙って聞いている。


 グライドは一見、落ち着いた様子でその話を聞いていた。

 ロモンが話し終わると、彼は村長に問う。



「……村長、娘達はどこに?」

「こちらです、ついてきてください」



 騎士団達は、村の者らの案内によりサナトスファビドの呪毒に犯された娘達が寝かせられている場所に移動した。


 その場所に入るなり、十数名の10代前半から20代に満たないような娘達の身体に不気味な模様が現れ痛みに魘されている様子を見た騎士団達は唖然とする。

 彼らの一番の驚きは、良く見知っているリンネという娘が、その中に混じっていることだ。


 先程、団員達はサナトスファビドがどういう魔物かをロモンから説明されたばかりだった。



「だ…団長の娘さ…」

「おい、言うな」



 若い団員が言いかけたのを、中年の団員が小声で止める。みんな、何を言っていいかわからない。

 団長になんと声をかけたら良いかわからないのだ。


 

「村長、一番最初にこの毒に犯された娘は…幾日経ちましたか?」

「は…はい、1週間程でしょうか。見たこともない病気でしたので村の方で色々とその間に治療を試みてました。しかしどんどんと被害者は増えていって…」

「それでうちの娘が来て初めて魔物の仕業だとわかった…と」

「ええ、そうです。お二人にはこの村に魔物がよく出没するようになったのでそれを狩るようにお願いして来ていただきました。……今思うと、その魔物が、その村に降りてきていた魔物を退けていたのでしょうかね」



 村長からそんな話を聞いたグライドは、次に痛みに疲れて眠っているリンネの元まで来た。

 その毒の様子を見るために自分の娘を見ようという魂胆もあるが、やっぱり一番はリンネ自身の様子を見たいのだ。


 リンネの真横にグライドは立ち、寝ている娘の腹を軽くはだけさせ模様の広がり具合を見る。

 そして脈を測ったり、呼吸の有無、額に手を当て熱が無いかを確認した。


 そして優しく、軽く手を握ってやる。



「リンネ……。なあロモン、やっぱりリンネは……」

「うん…助からない……けど、ヤダ…やっぱりやだよ、お姉ちゃんっ…!」



 ロモンはまた、涙を流し、魘されながら眠っているリンネの手を強く握る。

 そんなロモンの頭を一度撫でてから、グライドは団員達の元へ戻った。


 団員の一人が声をかける。



「団長……………その……よろしいのですか?」

「……………仕事に私情を挟むわけにはいかない。たとえ娘であろうと…。今すべき事は、村の住民達を避難させサナトスファビドを探し出す事だ」


 

 皆はその言葉に黙る。

 被害者の親、本人がそう言っているのだから、それ以上の事を言うものはいない。



「では_________」



 グライドの指揮のもと、皆が仕事に取り掛かろうとした、その時だ。

 大きな爆発音と共に地面が軽く揺れた。



「な…なんだ!?」

「何事だ?」



 その場に居た者は、眠っている者を含まず全員、突然の爆発音と揺れに驚いた。

 たった一人、ロモンを除いて。



「お…お父さん、今の!」

「なんだロモン! 今の爆発が何かわかるのか!?」

「うん…多分、アイリスちゃんだと思う…!」

「アイリス…ちゃん…?」



 グライドは辺りをキョロキョロと見始め、そして何かに気が付いた。



「ロモン、そういえばアイリスちゃんは…」

「アイリスちゃんは……今、1匹でサナトスファビドと闘ってて…私達を逃がすために…! 今のは多分、アイリスちゃんの技か魔法だと思う」



 それを聞いていた、魔物の大会を見ていた団員達は確かに爆発魔法を使っていたと話し合う。



「じゃあ…アイリスちゃんが居る場所に今、敵がいる可能性が高い…と?」

「そ、そうだ…。ごめんなさいお父さん、先に大事な事言わなくて……」

「まあ…だかこうして気づけただけ良い。ならば早急に向かわなければ……!」



 グライドは団員達の方を振り向き、彼らに指示を出し始めた。



「いいか、皆。私は今から単独でサナトスファビドと娘の仲魔を見に行く。私ならばすぐに現場まで迎えるだろうし、サナトスファビドと遭遇したとしても逃げ切れるか、相手はできるはずだ。皆を連れて行くと被害が増える」

「「はっ!」」

「私が行っている間に国に増援を頼み、村の者を避難させる事…! 良いな」

「「はっ!」」

「では_________」



 グライドは身を翻し、物凄いスピードで外に出て、そのままアイリスが居るはずであろう場所へと向かった。



◆◆◆



「この辺りのはずだが……」



 爆発音が聞こえ、ロモン達がサナトスファビドと遭遇したというあたりまでグライドは来た。

 足を止め、探知を使いつつあたりを探る。



「……ここだな…」



 グライドの目の前には大きなクレーターが広がっており、未だに煙や砂埃が上がっている。

 爆発が起きた事は間違いなかった。



「サナトスファビドの反応は……ないな。Dランク…アイリスちゃんは…ある!」



 アイリスの反応はクレーターの真ん中からあった。

 グライドはそこに駆けつける。


 煙や塵のせいで視界は悪かったが、しっかりと見えた。

 力尽きたように横たわる、良く見知った無傷のゴーレムが。

 


◆◆◆



「ぜえ…はぁ…まじかよ…」



 Sランクの魔物のサナトスファビドであり、元魔王軍幹部、ギフトはアイリスの自爆をした場所から離れた場所で地べたに座り込んでいた。



「ゴーレムがあそこまで食いさがるとはなぁ……。まさか、魔力をわざと暴発させるなんてなぁ。オレに脱皮があって良かった。久しぶりに戦闘らしい戦闘をした気がするぜ」



 ギフトは自分の身体に傷が付いていないか確認をする。

 彼は無傷であった。



「しっかし…あのゴーレムは魔王軍に誘った方が良かったのかねぇ…。……やっぱ無理だな、ありゃ…意思が固い。つーか…やっぱりただのリトルゴーレムじゃねーんだよなぁ……。オレと同じ超越種かぁ…? まあ、そうだろうな」



 しばらくその場で息を整えてから、ギフトはサナトスファビドの姿に戻った。



『(さて、これからどうすっかな)』



 先程の場所からとりあえず、離れようとサナトスファビドは移動する。

 彼の技の1つ、『究極隠密』を展開しながら。



『(……少女の絶望がタりねーな……)』



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