第37話 街を見て回るのでございます
「えーっ!? 本当にアイリスちゃんは食べなくて良いの?」
ロモンちゃんは、夕飯を食べるために来た飯屋の前で、私にそう訊いてきた。
私は食べなくても良いんだ。
お金の無駄遣いをさせるわけにはいかないからね。
【はい、私は基本、食事はひつようありませんので】
「だめ? 食べようよー、いっしょに…ね?」
リンネちゃんが私の腕にしがみつき、首をかしげてくるのが可愛らしいが、ダメなものはダメ。
私の食費は浮かせないとね。
【いいえ、お金は大切です。私が食べなければおよそ550ストンも節約できます。魔物である私より、お二人には……】
「いいもん、お金よりアイリスちゃんの方が大切だもん! アイリスちゃんは私達の家族だよ!」
「そうだよ、それにアイリスちゃんは今日初めて城下町に来たんだし、食べるべきだよ」
ぐぬぬ……お金より大切だとか、家族だとか言われるとなぁ……。
嬉しくて涙が出そう。
しょうがない、今日だけ……今日だけね?
【……そこまで言われるのなら仕方ありませんね。今回だけですよ?】
「うん!」
「さ、入ろ入ろ」
二人に手を引かれ、私達が入ったお店は、主に女性が多い。
料理もオシャレで、内装も花や目に優しく光る魔法で灯した明かりが実に女性の心をくすぐってるって言える。
私も女だし、こういう店は好きだ。
じつに二人らしい趣味の店をチョイスしたものだね。
「何名様でしょうか?」
この店のスタッフであろう女性が、私達の元に寄ってきて、人数を訊いてきた。
ここら辺は日本と同じなんだね。
もっとも、その女性のナプキンを巻いてる頭からはまるでコアラのような耳が見えてるんだけど___。
「二人です! あの…仲魔は一緒に食事できますか?」
リンネちゃんは手でチョキを作り、顔の横に添え、私が一緒に食事できるか訊いている。
「それでしたら、こちらへどうぞ〜」
そう、コアラ耳のスタッフの後についていくと、この世界の言葉で『仲魔席』と書かれたプレートが下げられている席に案内された。
「ではごゆっくり」
コアラ耳のスタッフはメニューを置いて行ってしまった。
「何食べようかぁ…」
「うーん……アイリスちゃんは何食べたい?」
【そうですね……】
私は小石視点を駆使し、他の客が食べている料理を見てみる。
ダークエルフの女の人が食べている、煮込みハンバーグみたいな料理は…うーん、今の気分じゃないな。
小金持ちそうなおばあさんが食べている、麺物…いや、違うなぁ…。
ビキニアーマーの女の人が食べているのは……おっ! 丸い生地の上に野菜や薄切り肉がちりばめられた料理だ。ピザに似てるんだ。
これにしよう。
確か、この世界ではランパスというらしい。
シーフードのランパスにしようかな。
【私はシーフードのランパスにしようと思います】
「あ! ランパスか、いいね。じゃあぼくはチーズのランパスにしようかな」
「それじゃあ私はトマトのランパスにしよっと。ねぇ、3分の1ずつにして3人で分けない?」
「ぼくはそのつもりだったよ?」
【私もです】
メニューが決まったから、私達は店員さんを呼んで注文をした。
だいたい15分くらいして、私達全員のランパスは届く。
この店はどうやら最初から食べやすい大きさに切ってあるタイプみたいで、ピザカッターならぬランパスカッターはついてなかった。
それぞれのランパスを3人で分け合う。
「「いっただっきまーす!」」
【いただきます】
私はシーフードのランパスを一枚口の中に入れた。
魚介類の海の風味が口の中に広がって美味しい。
「うーん……やっぱりアイリスちゃんのご飯の方が美味しいかも……」
「そだね、確かに美味しいんだけどね…アイリスちゃんの料理はやっぱり、お店より美味しんだね」
そう言ってくれるのは本当に嬉しい。
料理を作る甲斐があるってものだよ。
【…それでは明日からは私がいつも通り、私がお作りしましょうか? あの宿には簡易的ですが部屋に台所もありますし】
「うん! お願いできるかな?」
「わぁい!」
その後、私達はものの8分ほどでランパスを食べ終わった。
私もこの娘達に感化されて、食べるのが速くなったんだ。
3人分の代金1760ストンを払い、この小洒落たお店を出た。
本当は帰りに買い物をしたかったんだけど、夕方の5時半には市場はだいたいしまっちゃう。
冒険の店とギルドは1日中やってるらしいんだけどね。
今は6時半。
諦めた方がいいね。
ちなみに、この世界には『鮮度が落ちる』とか『腐る』とかっていう心配はいらない。
それもこれも、あの例の袋のおかげ。
容量が見た目よりも多い上に、入れた物の時間が止まるというおかしい性能のくせに、一家に一袋、冷蔵庫感覚であるんだ。
スペーカウという、家畜の魔物の皮で作られてるんだよ。
ゆえに、この世界には干物や塩漬けとかいう食文化がない……と、思いきやそんなことはない。
ハムやベーコンはあるからね。
なんせ、そのスペーカウの家畜化に成功したのが今から30年前の事らしく、その前にはちゃんと塩漬けとかがあったんだって。
スペーカウの皮により、物の流通がより盛んになったことを、この世界の近代歴史書曰く、『第3次ロジスティック革命』って言うらしい。
つまりはウォルクおじいさんは、私と孫達に冷蔵庫をプレゼントしたみたいなものなんだよ。
そうこうしているうちに、宿屋『花の香』に戻ってきた。
そしてお風呂に入る。
宿のお風呂は広かったから、私達3人で入っても少し窮屈になる程度なんだ。
脱衣所でなんのためらいもなく服を脱ぎ捨てる二人。
いつ見ても、歳相応の少し痩せ型であり、そのスベスベの肌のお身体は、とてもおふつくしいです。
眼福、眼福。
「ふぃ〜…気持ち良い。明日からお仕事、がんばろーね!」
「そうだねぇ…まずはランクを上げて、受けられる依頼をふやしたいねぇ……ね、アイリスちゃん」
お風呂がいい感じに狭く、密着しているお二人の身体がスベスベで、触れ心地がとても良いのです。
おじいさんの家の時は、一人一人、バスタブにはローテーションで入ってたから…。
こう、今なら太ももとか、お尻とか揉んでも気づかれないんじゃ_____。
「ねぇ、アイリスちゃん? 聞いてた?」
【ひゃいっ!? あ、いえ。申し訳ございません】
「あはは、『ひゃいっ!?』だってー。可愛い」
危ない危ない。
危うくパーティ内セクシャルハラスメントをするところだった。
冒険者の間でたびたび問題になるんだって。
誘惑に負けてはいけない。
難しいかもしれないけれど、誘惑に負けてはいけない。
お風呂から上がった後は、部屋を暗くして眠るんだ。
だけど______。
【あの、なんで二人とも真ん中にベットを寄せているんですか?】
「だってアイリスちゃんと一緒に寝たいし…」
「そう、ぼく達どっちもアイリスちゃんと寝たいの。だから、ほら…アイリスちゃんは私達の真ん中に来て!」
そう言って、リンネちゃんは幼体化した私のサイズの隙間をロモンちゃんとの間に開け、そこを手で叩く。
私がメスでよかった。
男だったら、こんな状況は耐えられるはずがない。
【はぁ…仕方ないですね】
「できる限り毎日、一緒に寝ようね」
「お風呂もねー」
私は手を肩まであげ、肩をすぼめ、やれやれと言いたげなポーズをとった。
内心、とても嬉しいです。
寝てる間にあんなことやこんなこと………いや、それは流石にいけない。
私は二人の美少女の間に滑り込んだ。
「ふふ、おやすみ」
「おやすみ、お姉ちゃん、アイリスちゃん」
【おやすみなさいませ】
私はゆっくりと、瞼を閉じた。
◆◆◆
午後10時半。
私はベットから二人を起こさないように出て、自分の袋をひっつかんで身支度をする。
私達は10時にベットに入った。
この双子はどちらも20分で寝てしまうことは把握している。
ちなみに起きる時間は朝の7時。
だから、私は6時40分あたりに起きて、ベットに再度、潜り込んでおけばいい。
私は鍵をあけ、部屋から出た。
そして、『魔流の気』鍵穴に流し込むように使い、鍵を外側からしめる。
最近では、『魔流の気』を実態化できるようになったおかげで、こんな事もできるんだ。
そして、宿屋もすでに戸締りをしているから、私は部屋と同じように、この宿屋の入り口の戸を開け、外側から閉めた。
【特技『隠密』を習得しました!】
正直助かる。
今からすることは、ばれないことは必須だからね。
いくら夜だと言っても、城下町の門前や城前などの要所に見張りが居るし、ギルドや冒険の店は1日中やっている。
つまり、本来ならば魔物である私が城内から出ることはできないし、仮に出れたとしても入ることができない。
だから私は……空を飛んで行こうと思う。
実は、幼体化のまま、手の大きさだけをリトルリペアゴーレムのままにできるんだ。
それに『手腕完全操作』の効果は自分の目で見える範囲で、重力とか関係なく自由に手を操作できる。
つまりは、私は自分を掴んで、空を飛べば良いんだよ。
なにせ、自分を掴んでるんだから、ずっと見ていることにもなるしね。
そしたら、目的地にも早く着く。
『手腕完全操作』はMP消費しないしね。
でも、飛ぶ場所が問題なんだよ。
あんまり街中では飛べないもの。
ゆえに私は城下町を囲んでいる壁の真下まで行き、その影の下で身体のみを幼体化させ、空を飛んだ。
難なく外に出られた私は、空を飛んだまま店主さんに教えてもらった森まで向かう。
おおよそ、10分程度でついた。
本来ならば馬車で30分程、歩きで1時間はかかかるらしいんだけどね。
空だから障害物がなかったってのと、スフェアラで素早さを上げたことが要因かな。
それに、空から地上を見てたわけだから、森の中を散策しなくても例の天の道のダンジョンを、探知で見つけることができた。
私はその入り口付近に降り立った。
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