二幕

一場 信頼


「バッカじゃねーの?!」

 僕は言い放った。


 アルフォンスがジェロイを呼んで来るまでの間、僕はオッサンにウロマルドの戦い方を聴いていたのだ。


 けれど、それはまるで漫画みたいな話だった。

 片手剣で馬の首を跳ねたり、三本束ねて撃った矢で三人仕留めたりするのだ。


 何が出来る限り協力したいだよ!

 完全に心を折りに来ているとしか思えない!


 オッサンは僕の敵なのかっ!


 一日二日で、いや、一年あったって、僕と周りの実力差は埋まらない。


 そんなことは当たり前だ。

 僕は超人じゃないし、むしろ体格的にはハンデすら背負っている。


 時間の無い僕に出来ることは、訓練を一つ二つに絞って、ひたすらそれだけを反復練習。

 それを本番で成功させることだけだ。


 ゼランを倒す為に、レイピアのカッコイイ抜き方と、最後の突きだけを一日に十時間も毎日繰り返した。


 それしか出来ないけど、その場では失敗しないようにしただけ。


 格闘ゲームで難しい技のコマンドを毎日練習して、その技だけなら今日はミスせずに出せるよって状態。


 明日やれって言われたら、もう今日くらい上手く出来るか分からないって、そんな不安定な代物だ。


 たった数日でフェンシングの達人になった訳じゃないし、身体が急に強くなった訳じゃない。

 相手の知らない武器の、知らない技を、相手のミスの間にねじ込んだだけ。



「よく知ってる相手を選んで、

 そいつより強い人の指導を受けていて、

 相手に圧倒的に不利な武器を使わせて、

 観客を全て味方に付けて、

 演技で相手の冷静な判断力を奪って、

 唯一出来る技を何とか命中させて、

 それでもギリギリの勝利だった。


 それが、今日の試合だよ?!」


 無様すぎるでしょ? 姑息の極みだよ。


 僕が戦うのは、何もしなくても殺されるから、せめてジタバタくらいはしようっていう極限状態だからだ。


 こんな泣き言をいっても、状況は好転しない。意味なんて無い。それは解っている。


 でも、泣き言くらい言わなきゃ、気分転換も出来ない。

 頑張るから、愚痴くらい言わせてって心境。


 だのにオッサンは、何故か僕のダサい告白を興味深げに聴いて、感心した素振りさえ見せている。


「お前は弱い。戦士としては話にならない。軍の一般的な訓練にすら、まともに付いて来れはしないだろう」


「知ってるよぉ……」


 僕は半ベソをかいた。

 まさか、トドメを刺しに来るとは!?



「だが、今の話しを聴く限り、その勝利に偶然の要素が一つも無い。全て、実力で成し遂げた事だ。

 軍を率いていた身としては、圧倒的な戦力差を運に頼らずに覆す事を、称賛せずにはおれん」


 シナリオ通りという意味では、確かに偶然の介入する余地は無かったし、失敗もしなかった。


「そ、そうかな……?」


「自分達より小数の戦力を駆逐するより、多数の戦力を実力でねじ伏せる方が、遥かに功績が大きい。それは優れた将による所業だ」


 なんか、照れるな……。


 一般の人々が僕のやり方を、そう好意的に捉えてくれるとは思えない。

 でもオッサンの場合は、ウロマルドの部族に苦汁を舐めさせられた経験があるから、尚更そう感じるのかもしれないな――。



 黙り込んだ僕に、オッサンが問い掛ける。


「どうかしたのか?」


「いや、そうやって褒めてくれる人を、最近亡くしちゃって……」


 やっぱり、褒められると大分違う。

 そういう意味でも、僕の成功は皆の力添えによる所が大きい。


 そして失敗は、独断による暴走に起因している。


「人の意見って大切だよね」

 なので、最後の大詰め前に皆に相談しようって気になった。


「自分を卑下する必要は無い。時間一杯、よく考えることだ。


 とても、頭が良さそうには見えないが」


「一言多いよ?」


 もし僕が賢かったら、今頃100番辺りをウロウロしていたと思うし、王様とこんなにバチバチやりあってない。

 無茶が出来ちゃうのは、馬鹿の効用なんじゃない?


 つか、見た目の話なら身体の本来の持ち主の問題じゃね?



 そんな感じで大分話し込んだ頃、アルフォンスとジェロイが到着した。


「いやはや、お待たせ致しました。ジェロイ氏がなかなか見付からず、途方に暮れてしまいましたよ」


 行き違いでもあったのだろうか?


 いくら広いコロシアム内とはいえ、二人が行き来できる場所は限られているだろうに。



「どうせ、アルフォンスがボーッとしてたんだろ?」


 コイツ、怠け者だからな。


「一生懸命探しましたとも! 勇者様に対するこの献身、評価されてしかるべきですよ!」


 抗議するアルフォンスを、ジェロイがフォローする。


「ウロマルドについて色々調べようと思って、歩き回っていたんだ……。特に、収穫は無かったけど」


 どうやらジェロイは、僕が気絶してからずっと、情報収集をしてくれていたらしい。


「おい、アルフォンス。これが本当の献身だぞ?」


 寝ている人間の鼻に、藁を突っ込んでいた奴とは訳が違うな。



「ありがとう、ジェロイ。でも、ウロマルドについては詳しい人がいたから大丈夫」


 僕に促されて、ジェロイはオッサンに視線を向ける。

 囚人に知られるのが看守的に気まずいのか、オッサンはジェロイから顔を背けたけれど、この明かりの中ではあまり意味が無いな。


「その人は……?」


「僕の協力者の看守のオッサン。ジェロイもオッサンも信用出来る仲間だから、お互い警戒しないで」


 オッサンが立ち上がり、ジェロイに近づいた。

 大人の方から歩み寄ろうって態度だ。


「よろしく頼む」

 言って手を差し出す。


 ジェロイが後ずさりをした。彼には元々、人見知りっぽい所はあるけど……。


「どうかした?」


 僕がジェロイに聞くと、代わりにオッサンが答えた。


「彼は恐らく、我が国が侵攻した敵国の少年兵だ。捕虜にされ、戦争終結後そのままコロシアムに収監されたのだろう」


 ジェロイは犯罪者じゃなくて、敗戦奴隷だったのか。



「……ヴィレオン将軍?」


 ジェロイが本人に確認するように呟いた。

 初めて聞いたけど、それがオッサンの名前かな?


「ジェロイ、知ってるの?」


 軍を率いていた将軍なら、敵国の兵士が知っていても当然か。


「俺は任を解かれてから七年が経つ。君が戦場に参加したのはここ数年だろう。面識は無いと思うのだが?」


 オッサンの疑問にジェロイが答える。


「有名だよ。当時のフォメルス将軍の隊より、ヴィレオン将軍の指揮する隊がずっと恐ろしかったって」


 そうなの? オッサン、そんな凄い人だったの?

 なんか、舐めた口を利いてゴメンよ。


「買い被りだな。フォメルスは戦術、戦略の方はともかく、雰囲気を作るのは抜群に上手かった。俺は奴よりも長く戦地にいた分、経験で勝っただけだ。功績に大差は無い」


 オッサンはそうやって謙遜して見せるが、解任後も敵国で語り草になるくらい驚異的な存在だったのは事実だ。


 同時に、フォメルスよりもオッサンの方が歳は十以上も上に見える。

 フォメルス王が将軍だった頃は若僧だったろうから、やはり彼もかなりの傑物と言わざるを得ない。


 その若僧の方が、より敵国に恐れられたオッサンを差し置いて最高司令官だったらしい。

 フォメルス王は前王と懇意だったって言うから、家柄の差が大きかったのかもしれないな。



「故国にとっての敵将であった俺を、嫌悪するのは仕方がない」


 オッサンが引っ込めようとした手を、ジェロイが握る。


「いや、直接の恨みは無いよ。歴史的な人物に会って驚いただけだ」


 やっぱり、良い子じゃん。

 オッサンもジェロイも、実に頼もしい味方だ。



「うん、今は僕の顔を立てて、皆には協力して欲しい」


 二人の和解に僕がよしよしと頷いていると、アルフォンスが僕を見下ろしながらぼやいた。


「そんな上から目線で、勇者様は一体何様のつもりですか?」


 え? その、勇者様だけど……。

 何故、一番頼りにならない奴に水を刺されなくてはならないのか。


「それで、僕が何をしているのかを皆に話しておきたいんだけど、いいかな?」


 僕はオッサンに確認する。

 その話の中心はティアンの事になるからだ。


「任せる」

 オッサンは了解してくれた。その信頼感が嬉しい。


 僕はアルフォンスとジェロイに向き合った。



「僕はコロシアムに投獄されて、最初の選抜試合直後から、上位ランカーの部屋に匿ってもらっているんだけど」


「それがどうかしたのですか?」


 フォメルス王のヒントでゼランはすぐに気付いたのに、アルフォンスは興味なさげと言うか。


「其処には七年前、父王殺しという濡れ衣を着せられた、お姫様が監禁されているんだ」


 僕はティアンと出会ってからの事と、それによって芽生えた覚悟について、初めて二人に話して聞かせた。





  『顔合わせ』▶︎

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます