第226話 調査局の動き
その頃。調査局もまた、突然の地震の影響で職員たちは混乱していた。
だが、普段から妖や呪詛に対処している彼らは、すぐに冷静さを取り戻し。
「施設内の封印に異常はありません!」
「周辺の寺社仏閣も異常なし!」
「破損した封印や壊れた塚がほかにないか、現地に行ってる連中に確認しろ!いますぐだ!」
「連絡は使鬼か式を使え!」
この地震に端を発し、発生する可能性がある霊的な災害を未然に防ぐため、動き出していた。
とはいえその慌ただしさは普段のものと比べ物にならないのだが。
そんなせわしない様子を、ジョンは目を丸くして眺めている。
「み、皆さん、随分と冷静なのですね」
「まぁ、地震に見舞われるのは慣れていますから。それより、ジョンさんは大丈夫です?」
「日本が地震大国であることは聞いていましたが、これほど大きいものが来るとは思いませんでしたよ」
「今回の規模は珍しい部類に入ります。普段なら、もう少し弱い揺れなんですが、今回は少し……いや、かなり大きかったですね」
ここしばらく、これほどの規模の地震に見舞われたことがない。
おまけに、前震のようなものすら感じなかったうえに。
――霊力が揺れるような、何かの揺らぎのようなものを感じたような……?
光が自身が起きる前に感じ取った違和感めいたものについて疑問を覚え、考えを巡らせる。
「まさかっ!」
光は何かに気づいたのか、突如、オフィスの外が見える窓へと向かっていく。
ジョンもそのあとに続き、窓を覗き込む。
「こ、これは……」
「な、なんということだ……」
窓の外に広がる光景に、二人は驚愕の声をあげる。
二人の視界には、異様としか言えない光景が広がっていた。
分厚い雲に覆われた空には、紫色の光で描かれた魔法陣が脈打つように明滅を繰り返している。
まるで、これから何かが誕生しようとしているようだ。
「な、なんなんだ。あれは……」
「あれは、悪魔の召喚陣……だが、いくらなんでも早すぎる!」
光の言葉に、ジョンが絶句の声をあげる。
いずれ、その魔法陣が浮かび上がることは予測できていたようだが、その予測をはるかに上回っていたらしい。
「こうなる前にどうにか動きたかったんですが、どうやら遅かったようです!」
「ということは、あれが」
「えぇ。『明けの明星』を、堕天使ルシフェルを現世に再臨させるために必要となる魔法陣です!」
同時にその魔法陣が出現したということは、相手の準備がすべて整ったことを意味している。
「いくらあのアプリの登録者数が一万人を超えているとはいえ、必要となる霊力がたまるにはまだ時間がかかるはず」
「ここにきて急にアプリの使用者が増えたということでしょうか?」
「あるいは、バフォメット自身の魔力を使用して、無理やり召喚を行ったか。いや、この際、何があったかというプロセスは問題ではありません」
この結果が導かれるまでにどのような経路を辿ったかを推察することは、無駄なことであるかのような言い方である。
だが、ジョンの言葉はまさにその通り。
過程がどうであれ、自分たちの目の前には『明けの明星』を呼び出すための魔法陣がすでに展開されている。
これがゆるぎない事実であることに変わりはない。
「とにかく、すぐに行動を起こさなければ」
事態を早急に収束させなければ、現世が壊滅してしまう。
ジョンは一刻も早く動くことを提案してくるが、光には今からでも間に合うのか、不安があった。
「しかし、いまからでも間に合うんですか?」
「まだ魔法陣が脈打っているうちは大丈夫でしょう。まだかの堕天使が降臨する気配はありません。降臨する前に、彼が降り立つ目印となるあの魔法陣を破壊することができれば、ですが」
「急いで人員を集めます」
とにかく対策があるのならば、その方法にかけるしかない。
光はそう考えたのか、紙とボールペンを取り出し、即席の
「それと、先ほど連絡してきた学生にも連絡を」
「わかっています」
忘れているかもしれないという気遣いからか、ジョンが護にも連絡をしてほしいと伝えると、光は即答し、使鬼を窓の外に投げた。
その瞬間、式紙は烏へと姿を変え、どこかへと飛んでいく。
「これで、彼の父親に連絡が行く。そうなれば、自然と彼にも連絡がいくはずです」
「なるほど」
「では、私たちも準備を始めましょう」
式紙が土御門神社の方向へ飛んでいったことを見届けた光はジョンに声をかけ、準備室へと足を運んだ。
ジョンも光の後ろに続き、廊下に出たが。
「各機関との調整ができていないし、どうやって突入するんだ?……ここは陣頭指揮を局長に取ってもらって……いや、最悪、内閣府から解体を命じられてしまう可能性だって……」
準備室へと向かう道中で光のつぶやきを聞いてしまった。
警視庁第二課と連携し、脱税容疑の証拠押収に同行し、そのどさくさに紛れ、今回の事件にかかわる呪物を捜索、押収する。
これが本来計画していた流れだったのだが、急な魔法陣の出現により、それができなくなった。
事態が急転することを予期していないわけではなかったが、それでも突入するためには相応の理由が必要になる。
これからその理由をどうするか、考えなければならないのだ。
――ただ協力を求めるだけの私と違い、彼女をはじめとしたここの職員たちの苦労はひとしおだろうな……どうか、この事件が何事もなく収束せんことを
まるで他人事のような態度ではあるが、実際、自分は協力をお願いしているだけにすぎない。
日本の政府機関に個人的なつながりがあるわけでもなければ、単独で祖国の部隊を動かすことができるような権力も持っていないため、どうしても祈ることしかできないのだった。
だが、ジョンの祈りもむなしく、事態はより深刻で、大きな展開を迎えることとなる……。
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