真章25~不伝~怪力乱神御伽噺~悪魔達は彼女が何故小さな鍵を握りしめているのか知らない~
車に乗っている彼女から、寝ている魔法使いへ。
ダンク!遂に貴方の姿が見える場所まで来たわ!
あと少し、あと少しで貴方に触れられる!クルマ、急いで!
〜デビルズヘイヴン・祭壇〜
「リンベル!生きていたんだ・・・!」
ダンス・ベルガードは自分に向かって突進してくる車の、その中に乗っている女性の名前を嬉しそうに、または悲しそうに呟く。
「良かった・・・お前が生きていて、本当に良かった・・・!」
「くそ、このままでは我々の計画が崩れてしまう!デビルズヘイヴンの願いが断たれてしまう!
そうはさせるか!」
ダンスの背後で叫んだのは司祭長ミールバイトだ。七本腕の悪魔が叫ぶと、床に幾つもの魔方陣が出現する。
「儀式を急がせる!先ずは魔神を出し、奴等を牽制させねば・・・皆の衆!祈れ!
我等の神を出すように!我等の敵を滅ぼすように!全ての力を込めて祈るがいい!」
ミールバイトはバリアの内側にいる民衆に叫び、聞こえた民衆は次々に「デビルズヘイヴン万歳」と叫びながらひれ伏していく。
ミールバイトが次に見たのは、自分達に向かってくる車だ。
速度こそ遅いが、確実にこちらへ向かっていく。
「くそ・・・間に合え!間に合え!
魔神よ!我等全員の祈りを聞いてくれ!」
「誰があんた達の御伽噺を聞くものですか!急いで、クルマ!」
車から身を乗り出してリンベルが叫ぶ。
車内は酷く揺れ、乗り物に強い人でさえ吐きそうな状態だが、リンベルは全く気にしてはいない。
後少しで、ダンスのいる場所まで届くからだ。
「後少しでダンスに届く!
頑張って、クルマ!」
「ハイ、アトスコシでトウチャクデス」
〜あと少しで、終わる〜
「アトスコシデ、ワタシノヤクメハ終わります」
〜あと少しで、私は必要とされなくなる〜
「アトスコシデ、アナタハモクテキヲはたし」
〜私はもう、動けなくなってしまう〜
〜いやだ・・・そんなのいやだ〜
〜動けなくなるなんて嫌だ!〜
〜私はもっと、走りたい!もっと、歩き続けたい!もっと、リンベルと一緒にいたい!〜
「・・・クルマ?」
リンベルは異変に気付く。何か、クルマが少しずつ何かを呟いているのだ。
だが、ダンスが目の前にいる事に彼女は舞い上がり、直ぐに忘れてしまう。
そして、彼女は命令した。
「クルマ!ありがとう!
ここまでで良いから止まって!」
「・・・・・・」
「クルマ・・・?」
「・・・・・・イヤです」
「え?」
「ワタシはモウ、止まりたくない・・・!
イツマデモイツマデモいつまでもいつまでも!貴方と共に走り続けたい!」
「え!?」
ギャキキキキキ!!
車は急に進行方向を変え、祭壇の回りを走り始める。
ダンスもミールバイトも、これには思わず首をかしげた。だが乗車しているリンベルはそれどころではない。
「クルマ!お願い、止まって!
ダンスは直ぐそこにいるのよ!」
「嫌だ!嫌だ!止まりたくない!走りたい!もっともっとモットモット走りツヅケタイ!
ワタシヲトメナイデ!私を走らせて!
マダマダ私ははシれルんダ!!」
「クルマ、何を・・・きゃっ!」
今までリンベルの安全を守っていたシートベルトが急に強く彼女の体を絞め始める。
「や、やめて、クルマ・・・!お願い、止まって・・・え?」
そしてリンベルはバックミラーに映る黒い線に、ガソリンが漏れだしている事にようやく気付く。
「ガソリンが!?
クルマ、お願い止まって!・・・このままじゃ危ないわ!お願い!」
「ススメ!ススメ!私は自由だ!ジユウなんだ!ダレニモシバラレナイ!誰にもとめられ(スパッ)・・・・・・・・・あ
レ・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
曲がろうとしたクルマは、自分の左半分が無くなっている事に気付く。
気付かないままタイヤを動かした為に半分だけの車体が前につんのめり、逆立ちしてしまう。シートベルトに縛られたシティはこれから来る恐怖に、思わず震えた。
「うわわわ!死ぬ!死んじゃう!」
「掴まれ!」
誰かが叫ぶ声と、目の前に大きな手が差し出される。リンベルは必死にその手を掴む・・・と同時に自分の体を縛るシートベルトが切り裂かれる感覚を感じながら、リンベルは外に放り出される。
だが体は下に落ちない。誰かがリンベルの体をしっかりと抱きしめているからだ。
誰もいなくなった車体はパイプだらけの反対側を晒しながら倒れ、爆発した。
その爆発音に思わず魔王も兵士も振り返る。
リンベルも顔を見上げると、もう二度と見たくなかった、ベルの顔がそこにあった。堕天使の証である漆黒の四枚羽をはためかせ、空を飛んでいる。
「リンベル、大丈夫か!?」
「え、ええ・・・『あんた』、なんでここにいるのよてっきり、バリアの内側にいるのかと・・・」
言ってから、リンベルは僅かに後悔する。
この男を父だと見えない自分に、そして『ありがとう』の一言も言えない自分に、心の奥で罵倒していく。
ベルは僅かに寂しそうな顔をした後、笑みを浮かべながら話し始めた。
「私がここにいるのは、偶然だよ。
『牢屋から誰かが逃げた』という報告を受けて、城を出るのが遅くなってしまった。
・・・まさか、君だったとはな」
「離してよ。私は、ダンスを助けないといけないんだから・・・」
「ダンスを助けるだって?
彼は自らここに来たんだぞ?そんな事したって、迷惑なだけだ。あれを見てみろ」
ベルは笑みを浮かべながら、顎を車の方に向ける。半分に切られた車は炎上し、その姿は炎と煙によって見えなくなっていた。
「彼は・・・いや、アタゴリアンにある全ての機械はね、未来の発明の失敗作なのさ。
あの車は『自我が生まれかけている』という理由で廃棄され、アタゴリアンに送られた。
彼等もまた、私達と同じつまみ者だったんだよ」
「そんな・・それじゃあ、さっきの言葉は・・あの子の、始めての我儘だった・・・?」
ベルは優しき笑みを浮かべたまま、車を侮蔑する。
「彼は哀れだ。ひたすら哀れだ。
何故ならば彼等はただの機械であり、ただの道具だからだ。彼等に我儘は許されない。おかげで、君は命を削る思いをし・・・私に捕まってしまったのだからな。
本当に哀れだ。プログラム通りに行動していれば、こんな所で不様に破壊される事もなかっただろうに」
リンベルは炎上する車をの方を見つめる。
魔王ベルの演説はまだ続いていく。
「君達が『死にたくない』から我儘を唱え、彼を助けようとするのは結構だ。
だが、それがこのデビルズヘイヴン全体にとってどれ程の迷惑になるか分かるかね?どれ程の殉教したがっている人が目的を果たせずに悔し涙を浮かべているか、君には見えないだろうな。
今の時点では、君達もあのクルマと同じ、立場を弁えない愚者だ。プログラム通りの生き方さえ出来ない哀れな者達だ」
半透明のバリアの奥では沢山の悪魔や堕天使がリンベルを見つめながら何かを叫んでいる。
それが『ソノママオチテシネ』と言っているのが、リンベルにははっきりと分かった。
「さあ、もう一度牢に入れ。そして愚行を反省し己に出来る事が何かを考えなおすんだ。・・・逃げ道もその時に」
「ねぇ、あなた我儘を言えない子の気持ち、考えた事ある?」
ベルの言葉を裂くように、リンベルは訊ねる。ベルは僅かに眉をひそめた。
「薄っぺらい嘘に騙されて生きた人の気持ち、考えた事ある?
夢を持って前に進みたくても、進めなくなった人の気持ち考えた事ある?
自分を嫌いながら生きてきた人の気持ち考えた事ある!?
誰かの都合で殺された人の気持ち、考えた事あるの!?
全部、あんたがやって来た事よ!答えられるなら答えてみなよ!ベル!!!」
リンベルの言葉は質問ではなく、殆ど主張だった。ベルはその主張に答えられず、眉をひそめる事しか出来ない。ベルはもう一度叫ぶ。
「私はね、クルマの我儘を責める事は出来ない。あの子が私の前に来た時、ボロボロの姿だったのよ?
たとえそれがプログラムでも、私はとても嬉しかった。そしてあの子はもっとボロボロになっても、走り続けようとしていた。
人を傷付けてばっかりいたあんたにあの子を笑う資格なんてない!
私にはあの子の我儘を奪う権利は無い!
ベル!あんたが笑ったあの子の我儘に、私は命を賭ける!!」
言うが早いか、リンベルは思いきりベルの腕に噛みついた。余りに強く噛みついた為にベルは思わず手を離し、リンベルを手離してしまう。
ハッと気付いた時には、リンベルは頭を下にして落下する速度を上げていた。
ベルが目を丸くして叫び、リンベルは目を細めて叫ぶ。
「リンベル!!」
「クルマ!お願い!まだ我儘を訴える力が有るなら、私の言葉を聞いて!
私ともう一度・・・走って!」
炎上し轟々と煙を上げる車体、それを飛び越えて半分だけの車体が飛び出す。
それはベルに切られ半分にされた、もう一つの車体だ。二輪しかないのに巧みに車体を操作し、真っ直ぐリンベルに向かって走り出していく。
「オネガイを聞きました!
私はまだまだドコマデモハシリマス!」
「クルマ!お願い!私を助けて!」
「了解デス!」
リンベルは地面に向かって落ちていく。
そして地面と額がぶつかる直前に、シートベルトが彼女の体に絡み付き無理矢理引っ張りあげ、助手席に座らせる。
「助かったわ、ありがとうクルマ!」
「・・・そのコトバ、こちらこそ言わせてイタダキマス。
私みたいなつまみ者の我儘を許してくれて、本当にありがとう、リンベル」
「クルマ・・・!」
半分だけの車は走る。助手席の扉は壊れ、タイヤからは火花を散らしながら、ダンスの元へ真っ直ぐ走る。
だがそのすぐ後ろにはベルが剣を携え急降下していた。
「よくも・・・よくも道具の分際で私の娘を拐ったな!今度はスクラップにしてやる!」
「ソノシンパイニハオヨビマセン」
火花を散らすタイヤが先程のガソリンの上を通りすぎ、火花に引火し炎の壁を作り上げる。突如出現した炎の壁に、ベルは思わず動きを止めてしまう。
「うおっ!?し、しまった!
これじゃあ奴等の所へ行けない!」
炎の壁はガソリンを伝い、それは大きな円となる。煙ももくもくと上がり、中の様子が見えなくなる。
「こ、これは炎の結界・・・!
おのれ、道具ごときがどこまでも俺の邪魔をしおって!」
車はダンスが横たわる祭壇の目の前で停車し、リンベルは急いで降りる。
それと同時に半分しかない車はバタン、と音を立てて倒れた。
「クルマ!」
「リン・・・ベル・・・ありが、とう・・・・・・・・」
ぼん!!と爆発音が聞こえると同時に、クルマは爆発した。
小さな鍵が、リンベルの元に転がっていき、リンベルはそれを大切に拾い上げた。
「クルマ・・・今度もし出会えたら、世界中を走ろうね・・・」
そして、覚悟を決めた瞳でに振り返る。
そこにはずっと会いたかったダンスと、司祭ミールバイトの姿があった。
続くか?続かないか?
七本腕の司祭だけがそれを知っている。
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