真章21~不伝~怪力乱神御伽噺~真実の欠片、デビルズヘイヴン編
〜魔神の供物から、リンベルへ〜
リンベルよ、俺は君に謝らなければならない。
俺は君を助ける事が出来なかった。
俺は君が苦しんでいる間、悪魔の罠に嵌まってしまったのだ。
罠に嵌まった俺に抵抗は許されない。
ベルの言葉が今でも響く。
「アタゴリアンで生きている者は、殆どいない」
君も・・・死んでしまったのだろう?
君も、居なくなってしまったのだろう?
地獄のような絶望と苦しみの中で、君は死んでしまったのだ。
すまない、リンベル。
俺はただ、欲しかっただけだった。
こんな状況に成ってしまった今、もはやそれが何かだとと言うのもおこがましいが、ただ欲しかっただけなんだ。
すまない・・・リンベル。
あの時、あの時君が俺を旅に出ないかと誘ってくれた時、自分の事で精一杯だった俺は、君の手を払ってしまった。
だけどねリンベル。あの時、本当は嬉しかったんだよ。
こんな小さな俺に手を差し伸べてくれる人がいて、こんな弱い俺に手を差し伸べてくれる人がいて、本当に嬉しかったんだよ・・・だからこそ、弱い自分が許せなかったんだ。
すまない・・・すまない、リンベル!
あと何百ぺん謝っても届かないと分かっていても言わせてくれ!
すまないリンベル!!すまない・・・すまない!
供物を捧げる祭壇への道が、今開く。
俺はその道を黙って進む。心の中に君への罪悪感を募らせながら。
〜供物の祭壇〜
そこは古墳の上に造り上げられていた。
石を加工して積み上げられた建築物は、まるで山のように三角に作り上げられている。だがてっぺんには細長い石の台が設置され、それが更にこの建築物の神々しさを輝かせていた。
その麓では悪魔や堕天使の大群が集まり、楽しそうに談笑したりパンフレットを読み漁ったりしていたが、
供物がその麓に足を踏み入れると一斉にそちらを向いた。
そして、次々にこう言い始めたのだ。
「供物万歳!魔神万歳!」
「魔神万歳!」
「供物だ!我等が待ちわびた供物が遂に来たぞ!」
「供物万歳!魔神万歳!供物万歳!魔神万歳!」
供物と呼ばれた男・・・ダンスは、それを冷ややかな目で見ながら、群衆の間を進んでいく。
枷も重りも縄も付けてはいないが、ダンスは真っ直ぐ祭壇へ向けて歩いていく。
そして長い階段を登りついた先には、まるで神父のような服に身を包んだ悪魔が立っていた。
一見人型に見えるが、七本ある手は隠せなかった。
「供物・・・ダンスよ、良く来てくれたな。
俺の事を覚えているかい?」
「ああ・・・床屋のミールバイトだろ?
まさか、貴方が神官長を務めるとは思わなかったよ」
「ははははは、違いない。
俺は近所の床屋でずっと通してきたからな。だけど、デビルズヘイヴンに来る前は偉い悪魔だったんだよ」
「・・・初耳だな、偉い奴ならなんでデビルズヘイヴンに来たんだ?」
「あー、それはな。
まあこれはここにいる皆にも言えるんだが、簡単な話・・・お伽噺の住人である事に耐えられなくなったんだ」
神官長は後ろを振り返る。
大衆達は全員笑顔で「魔神万歳!供物万歳!」と叫んでいた。
「この世界では神様なんて簡単に作れる。
信仰する者がいて、聖地があって、奇跡を可能にする魔法使いを捧げれば簡単に神様が出来るんだ。
そして神様は信仰する人の為に悪魔や天使を作り上げお伽噺を始める。
自分の考えと力を分かりやすく伝える為に・・・俺はその中で、悪役だった」
七本ある手は皆バラバラの方にうねり、内一本は虹色に輝いていた。
「俺は嫌だった。生まれてから死ぬまで、永遠に忌み嫌われ続けられる立場である事が。
そして奴らから離れデビルズヘイヴンに来た時・・・一つ目標を立てたんだよ」
「目標?」
神官長は笑みを浮かべる。
「作られた俺達でも、何か出来るって証明したかったんだ。
お伽噺の住人でも、演じられた世界で演じ続ける以外の事が出来るって胸を張りたかったんだ。
魔神を作り上げるのは、世界に対し俺達の叫びを伝える為なんだよ・・・」
「・・・なるほど、ミールバイト、お前が神官長で良かったよ」
ダンスは一歩ミールバイトに近付く。
「俺を騙したお前達を、今この瞬間から憎む事が出来なくなってしまった・・・。
お前も・・・お前達も俺と、同じなんだって知ってしまったからな」
「ダンス・・・お前の出生は知っていた。
だが俺達の目的の為にそれを言う事は出来なかった。
・・・その事で責められても、仕方ないと思っている」
「・・・もう、そんな事はどうでも良いさ。
これはお伽噺なんだ。皆、お伽噺の中生き、お伽噺の中で死ぬんだから」
「・・・魔神に魂を捧げる為の儀式を始める」
声のトーンを少し低くして、神官長は大衆達にも聞こえる声で伝える。
「先ず、魔神に清らかな状態で魂を捧げる為にこの場で湯浴みを始める!
意義のある者はいるか!」
「・・・・・・え?」
湯浴み、とはお風呂に入ると言う意味である。
ダンスは顔をひくつかせながら右手を上げる。
「い、意義あり・・・」
「なんだダンス?」
「この場で湯浴みするの?全国民がみてる前で?」
「そうだ、裸になってゆっくり30分は漬かり、体を綺麗にするのだ」
「待って、それ聞いてないんだけど」
「お前これから魔神に喰われるのに汚いままで出せる訳ないだろ、魔神が腹壊したらどうするんだ」
「カーテンとかタオルとか体隠す物は・・・」
「一切無い。
諦めるんだな、ダンス・ベルガード」
「・・・・・・」
ダンスはぎぎぎ、と目線を横にずらす。
全員がキラキラした表情でダンスが脱ぐのを期待していた。
「・・・前言撤回、やっぱりお前達、好きになれないな・・・」
「悪魔の見解なんてそんなもんでいいだろ。
さ、早く脱ぐんだ」
ダンスは神官長を睨み付けながら、洋服を脱ぎ始めた。
〜デビルズヘイヴン・牢屋〜
リンベルは牢屋に閉じ込められていた。
鉄柵で四方を囲まれているが、リンベルは鍵のついた柵にへばりついている。
「開けろー!私は外に出たいんだー!開けろー!」
「ええい囚人は黙ってろ!
全く、俺も儀式を見たいのに何で囚人の相手なんか・・・」
「儀式?」
「貴様には関係ない話だ!」
警備兵はイライラしながら牢屋から離れて行った。
「行っちゃった・・・どうしよう、これじゃダンスを探すどころじゃない・・・」
「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」
突如隣りの牢から激しい泣き声が聞こえ、思わず振り返るリンベル。
そこにはみすぼらしい服を着た悪魔が、涙を流して叫んでいた。
顔は包帯をぐるぐるに巻き付けている為、見る事は出来ない。
「我だあああ!!全て我のせいなんだあああああ!!」
「う、うわあ!ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ!」
リンベルはなだめようと手を伸ばす。
それを見た悪魔は包帯の奥から鋭い眼光を飛ばした。
「誰だ貴様は!?
悪魔か堕天使か知らぬが我の嘆きを邪魔するな!!」
「私は悪魔でも堕天使でもないわ!
人間よ!」
「人間!?人間がこのデビルズヘイヴンにいるはず・・・」
リンベルの顔を見た悪魔が、言葉を止める。そしてリンベルの顔をまじまじと見つめた。
「な、何よ・・・」
「お主、真に人間か?・・・いやそれにしては魔力が清らか過ぎる・・・名は?」
「え、リンベルだけど・・・?」
「・・・・・・・・・・・・リンベル?
リンベルだと!?リンベルなのか!?
本当にリンベル!?」
悪魔は先程とは違う表情でリンベルを睨み付ける。リンベルはその意味が分からず、困惑しながらも言葉を続ける。
「あ、当たり前でしょ!こんな所でウソ付いてどうするのよ?
っていうか、貴方こそいきなり何よ!」
「我、か。
我の名は魔王、それもスーパーウルトラ・・・いや、その名前は今は意味が無いか」
悪魔はゆっくりと座り込む。
そして静かに告げた。
「我の本名はジャベール・ジョブズ。
悪魔になった・・・人間だ」
続くか?続かないか?
それはジャベール・ジョブズだけが知っている。
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