真章16~不伝~怪力乱神御伽噺~真実の欠片アタゴリアン編


ナンテ・メンドールから君達へ。

先ず、自己紹介から始めよう。

俺の名はナンテ・メンドール。

未来世界から来た者だ。

今日は真実を伝え、それを成す為にこの国アタゴリアンに来た。

貴様達に伝える真実。

それは今行われている実験を中止し、『実験台の国アタゴリアン』の存在を歴史から完全撤去する。

だがいきなりこんな話をされても混乱するだろう、せめてもの情けでこの国の本当の事実を教えてやる。

アタゴリアンは今から300年前、我々が未来から実験の為に作り上げた施設だ。

培養した人造人間に一通りの知識・文化・人格を与え13の地区を作り出し一地区100人ずつ配置した。

また、その内一区画だけ政治・経済の知識を沢山詰め込ませた100人を配置し、彼等がこの国の長になるように様々な改良を施した。

結果としてこの国は12の村と一つの都市で出来た国に発展し、

百年の間に様々な歴史を作り上げた。

そして実験第二段階として我々の時代で作られた不良品達を投下し、君達がどんな反応をするか見ていた。


実験台にわざわざ過去の時代を選んだのは、どんな危険が発生しても我々の時代に干渉が無いからだ。

そして君達は楽しそうにそれを使い、更に発展していった。

だがそれは我々が望んだ実験結果とは違う物だ。

このままでは君達は単なる実験台以上の存在になってしまう。

だから我々は実験を中止し、君達の存在を歴史から消滅する事にした。

君達にもう一度真実を伝えよう。

我々が300年かけて作り上げた御伽の国アタゴリアンは、今日を持って完全に滅びる。



〜王城、廊下〜


年老いた秘書コッコは王の間に向かい走っていた。


(もうダメだ、私の力ではもはや大臣達を、あの敵を止める事は出来ない!

王よ、民の言葉が聞こえますか?

今こそ貴方の声が必要なのです!)


コッコは急いで王の間に向かう。

やがて『治療中、入るな』と書かれた板が打ち付けられた扉を見つけた。

クックは強引に板を扉から剥がし、ノックもせずにこじ開ける。


「王よ、入ります!!」


そこに居たのは、四角い映像が映る箱を座りながらじっと見つめる、王冠を被った男がいた。

よく見れば箱は細い線で小さな機械に繋がり、小さな機械からはまた操縦幹のような物が付いており、男は箱を見ながらひたすらに操縦幹を動かしていた。

コッコは再度叫ぶ。


「王よ!お願いです!

貴方の民が泣いています!

彼等に声をかけてください!一声、たった一声『安心しろ』というだけでいいのです!

お願いです!王よ!」

「煩いぞコッコ!

怒鳴らなくても儂の耳にはきこえておる!」


王、と呼ばれた男が叫ぶ。

その拍子に冠が地面に転がり落ちるが、二人は拾おうとはしない。


「言った筈だ!

儂は今、『王国げぇむ』で儂の国を作るから、この国は貴様に全て任せるとな!

全てそちがなんとかするのだ!」

「王よ、貴方の民が泣いているのか聞こえませんか!?

王冠を被っているのは貴方なのです!貴方の声を民は望んでいるのです!」

「黙れ、それは全てお前への言葉だ!あの民はお前が王になるのを望んでいるのだ!

分かったらさっさと民の所へ戻れ!儂は自分の国を作るので忙しい!」

『パンパカパーン!

今日はラッキーデイ!なんと農業生産量が二倍になるんだよー!』


四角い箱から軽快な音楽と共に楽しそうに喋る若い女の子の声が聞こえる。

それを聞いた王と呼ばれた男はニヤリと笑う。


「そうか、ならば農業を発展させねばなるまいな!

まずは無職の民に職業を与え、農業で働かせ生産量アップじゃ!

ハハハ、儂の国はとても潤っておるぞ!ハハハハハハハ!」

「……」


コッコは目の前の男がもはや四角い箱の中にしか興味が無いのをさとり、静かに部屋の外へ出ていった。

もはや、この国を治められる者は居ないと諦めながら、王の間を出ていった。


〜エゴの風穴〜


放送を聞いたダンスはラジオ片手に持ちながら、汗を流して体を震わしていた。


「何だそれ……俺達の先祖が人造人間?実験の為に作られた国?

今日この国が滅びる!?

どういう事だよ!」

「落ち着けダンス!

今、避けんでも始まらん!」


魔王はダンスの両肩を掴み、がくがくと揺らす。

だがダンスの言葉は止まらない。


「俺は……俺は今まで何の為に魔術を……親を捜そうと……俺のした事は、全て無駄だったと?」

「ダンス!」


魔王は思い切りダンスの頬を叩く。ダンスはハッとしながら赤く腫れた頬を抑えた。


「ダンス!安心しろ!

貴様には我等が付いている!

デビルズ・ヘイヴンは悪魔と堕天使の要塞!必ず貴様を守ってくれる!」

「魔王……?」

「恐れるな!震えるな!絶望に呑まれるな!

貴様には想い馳せる大切な者がいるではないか!」

「……リン、ベル……」

「そうだ、そいつをお主は助けに行かねばならない!

リンベルもまた、お前の助けを必要としているからな!

だからこそ、一度デビルズ・ヘイヴンに向かい戦力を整えるのだ!」


魔王はダンスが壊れないよう、必死に叫ぶ。


「未来から来た奴だが何だか知らぬが、我等の世界を土足で踏み潰そうとする愚か者が如何なる末路を迎えるか、その身を持って教えてやる!

このスーパーハイパーマスターウルトラアームストロングネオパーフェクト暗黒大魔王様がな!

だからお主は安心せよ!」

「魔王……分かった」


ダンスはふらりと魔王から距離をとり、しっかりとした目で魔王を見つめる。


「一度、デビルズ・ヘイヴンに戻ろう。

リンベルを助ける為に、この悪夢を終わらせる為に」


そして二人はエゴの風穴の中へ入る。

しばらく経ってから、1台の車が風穴に近付く。

その車にはリンベルが乗っていた。


「ダンスは本当にここにいるの?」

『ハイ、コノ洞窟ノオクニイマス』

「ここまでありがとうね、後は私が……あれ、扉が開かない」

『ダンスノトコロマデハシリマス』

「え?でもこの先洞窟……」

『発車!』

「ちょ、ちょちょっとタンマアアアア!!」



車は速度を上げ、洞窟の中へ入り込む!リンベルは悲鳴を上げながら、洞窟の闇の中へ消えた。



続くか?続かないか?

闇の中へ消えた二人の人間が、それを知っている。

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