真章11~不伝~怪力乱神御伽噺~さ迷う拳銃~
さまよう拳銃は知っている。
双子悪魔が何をする気か、若き魔術師にどんな危険な目を合わせるか、を。
だが拳銃は黙っている。それは意識もたない武器だからではない。
この拳銃は待っているのだ。
真実が動き出すその時を、この武器はただただ待ち続けているのだ。
エゴの風穴入口。
ダンスと魔王は再開した。
ダンスは洞窟の入口に立ち、魔王はまじまじとダンスを見つめている。
「本当に、ダンスなのか…?」
「フハハハハハハ、暗黒と猛獣が支配する黒き森の中からよくぞこの風穴を見つけたな、
我が弟子ならばこれくらいの試練、天地を覆すより簡単という事か!その実力、その根性、大いに評価してやろう!」
「…!
それは、我の言葉ではないか!
それを知っているという事は!」
「俺は本物のダンス・ベルガードだ」
「う、うおおおお!
ダンスウゥゥゥゥゥゥ!」
魔王は感激のあまりダンスを抱き締めようと突進するが、ダンスはそれをあっさりかわす。
魔王は勢い余り、岩壁に激突した。
「ぶべっ!?」
「悪い魔王!
今お腹を怪我してるんだよ!」
「うう…う?
お腹を怪我してるだと?
それはピストルという奴で怪我し時のものか?」
ずきずきと痛む頭を抑えながら魔王は立ち上がる。ダンスはリンベルの祖父に言われた事を思い出しながらこたえる。
「ああ、あれは弾を込めて引き金を引くと武器になるんだ。
死ななかったのは本当に奇跡のようなものさ」
「ふむ…何故ここに来たのだ?
傷が完治してからでも良いだろう」
「少しリハビリがてらに報告しに来たんだ。
余り長く空けるのも嫌だしな」
「む…?」
魔王は思わず口ごもる。
何故なら悪魔達は今必死になってダンスを探しているからだ。
その事を言おうとする前に、魔王はずっと感じていた違和感を口にした。
「…ダンスよ、お主変わったな」
「え?」
「以前のお前はもっと生きる事に必死だった筈だ。
知識を求める事に執着し、他を寄せ付けない雰囲気を出していた。
…だが今は違う」
魔王はじっとダンスを見つめ、腕を組んで首をかしげる。
「あの時感じた心の奥底にある苦しみが無い。ダンスよ、一体何があったのだ?」
「…そうか?
俺は俺だぜ。知識を求める魔法使い、ダンス・ベルガードさ」
「ふ…そうだな。そうに違いない。
仮にお前が別人になっていても我が真のお主を取り戻そう。友人だからな!」
「ありがとよ、魔王。
そう言ってくれると助かる」
「ふ、お主に感謝されてもあまり嬉しくはないがな」
「違いない、アハハ…」
魔王とダンスはそれからも暫く冗談を言ったり今までの話をして楽しそうに笑いあう。
ダンスがリンベルの話をした時、魔王が驚いた様子で「お主…そうか、そうなのか、遂にお前もそうなってしまったのか」と呟いていたが、その時のダンスにはそれが何か知る由も無かった。
そして、この出会いが恐ろしい事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らなかった。
舞台は変わり、イドの洞窟。
発掘隊隊長フロッグは新しい機械が無いか探していた。
「お、見つけたぞ」
フロッグは小さな箱のような物を見つける。
箱は銀色で四方の内一面は硝子のように透明な物が付いている。
その近くには『名前、スマートフォン。用途、遠くの相手と通信する物』と書かれた紙が落ちてていた。
「またスマートフォンか。
最近同じ物が流れてきてるな。
使い方が分からなければ意味が無いのになあ」
フロッグはそうぼやきながら落ちているスマートフォンを幾つか拾い、不意にある物を見つける。
それは人間の右腕だった。
傷は一つも無く、肩の付け根の部分も皮膚で塞がれている。
そしてその側にはこう書いてあった。
『名前、貴方の右腕。
用途、貴方の右腕が破損した時の代替物』
真実の足音は確実に近付き始めている。
だが、それに気づけるのは極一部しか居ない。
そしてその幸運な極一部は、人でも悪魔でもなく、機械なのだ。
真実が近付いてくる。
さ迷う拳銃はそれを感じ取り、イドの風穴の暗黒はずぶずぶと音を立てて深まっていく。
そして暗黒の中で真実は鼓動し、やがて人間の赤子がそうであるように恐ろしい程大きな産声を上げて外の世界に名乗りを上げるのだ。
続くか?続かないか?
答えはイドに堕ちた蛙だけが知っている。
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