真章8~不伝~怪力乱神御伽噺~魔法使いの懺悔
知識求める魔法使いから、若き雌鳥へ。
先ず、先程声を荒げてしまい申し訳ないと思っている。
しかし俺はあなたの覚悟に応える事が出来ない。俺は……俺は誰かと一緒に歩く事が出来ないからだ。
俺は孤児だった。
幼い頃は孤児院で育ち、この国の数少ない魔術師バベル・ダンクール・ジェネットに引き取られた。
彼はとても魔法に秀でていて、何時も俺に魔術の勉強を教えてくれた。
だが俺はずっと両親の姿を思い描いていた。
実の両親の温もりが欲しかった。実の両親の顔が見たかった。実の両親の声を聞きたかった。実の両親が何故俺を捨てたのか、その真実が聞きたかった。
或る日、俺は魔力から人の家系を探る事が出来るという事を知った。
だがそれを探るためには非常に強力な魔力と非常に深い魔術の知識が必要だと知った。
それを知った日から、俺の中の人間が消えた。
俺は貪欲に魔術の本を読み漁り、十歳になる前には魔術師の書庫にある魔術本の知識を全て頭の中の本棚に納めていた。
だがそれでも足りない。家系を探るだけの魔力も足りない。
科学や機械が発達したアタゴリアンでは、もはやこれ以上の知識を得られない。
俺はまだ十三だったが、国を出るかどうか悩んでいた。
そんな時、偶然俺はエゴの風穴を見つけた。そしてデビルズ・ヘイヴンという悪魔と堕天使の楽園に辿り着いたのだ。
俺は悪魔や堕天使の弟子になり、様々な知識を吸収した。今やあの小さな楽園の誰よりも賢くなっていた。
そしてようやく両親を見つけられると思った時、育ての親、バベル・ダンクール・ジェネットは死んだ。
車と正面衝突し、あまりに呆気なく死んでしまった。
彼の亡骸を見た時、あの時程自分の人生を悔いた事は無かった。
自分を恥じた事も悲しんだ事も無かった。
そして、自分の実の両親探しがどれ程無意味なのか理解してしまった。
なんて自分は愚かだったのかと何度も何度も自分を責め続けた。
それから、自分はただがむしゃらに魔術と魔力を求めるようになった。
心が寒く、常に透明で見えない罪悪感が俺を蝕み続ける。それに抗いたかった。魔術と魔力だけが、それに打ち勝てると信じていた。
だが、同時にそんな自分を愚かだと思うようになっていた。
賢くなって、強くなって何を得られるというのか?
俺は自ら嵐吹きすさぶ荒野を歩き続ける道を選でしまったのだ。
俺はバベル・ダンクール・ジェネットの墓を訪れた。
魔術師である彼の姿をこの国の人は誰も知らない。彼の存在はもはや、魔術の教科書に載る名前の一つに成ってしまった。
俺も将来、こうなるのだろうか?
魔術師ダンス・ベルガードは、どこかの誰かが書いた文章の中だけの存在に成ってしまうのだろうか?
俺はこうして生きている。
血肉も涙も感情もあるのに、誰からも理解出来ないのだ。
そんな絶望を抱えたまま、俺は生きてきた。
リンベル、貴方の夢は美しすぎる。俺はその夢を叶える事はできない。
もはや俺は、生きながら死んでしまった愚かな存在なのだから。
続くか?続かないか?
それは、愚かな魔法使いと夢見る雌鳥だけが知っている。
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