第5話 関田さんとの出会い
曲がり角の向こう側へ待ち構えていたのは、木製の擦れた扉だった。三メートルほどの空間に申し訳ない感じで、扉にくっ付いていた。壁に張り付く感じが、そんな風に思わせたのだ。扉から斜め横に、これまた申し訳ない感じの観葉植物が隅で立っていた。置かれているという感じではない。本当に申し訳なさそうに立っているのだ。顔色の悪い葉っぱに、蜘蛛の巣が至る所に張り巡らせていた。
僕は右足と左足、そして右手にお供するよう声をかけた。古びた木製の扉へ手を伸ばして、今にも取れそうな錆びたノブを掴んだ。向こう側には男ともう一人の男が待っている。きっと僕が扉を開けるか、賭けの対象にしているかもしれない。息を無意識に吸っては吐いた。覚悟しなければならないと、自分自身に問いかける。自問自答してる間に、僕は錆びたノブを廻して、向こう側の景色へと入った。
ワンフロアーの部屋に黒い革製のソファーが、オフィス机を挟んで二つ置かれていた。その奥に、一際異彩を放つ大理石の机を前で男が革製のチェアーに踏ん反り返っている。男は僕の姿を確認すると、目尻から口元に付いた有刺鉄線みたいな傷を触りながら笑った。男の手前にはもう一人の男がこちらを見つめていた。髪は短髪で身体が大きく、腕っぷしは明らかに強そうだった。動物に例えるならゴリラ並みの体格をしていた。僕に声をかけた男と違って、体格のデカイ男の目は細く、決して人を威圧するような目はしていなかった。それでも体格のせいか、近寄る者へ押し潰すような威圧感は十分すぎるほどの厚みを感じた。
沈黙が流れると思った瞬間、男はジョーカーを取り出してから体格のデカイ男へ何かを告げた。体格のデカイ男は、男の言葉を一言一言確かめるように頷いた。そして僕の方へ振り向いて話しかけてきた。
「ボウズ、今日から俺がお前の教育係だ。まあ、そっちへ座れ」と太い声でソファーへ促した。
男はジョーカーへ火を点けると、天井へ向かって核兵器を思わせるような煙の塊を吐いた。その様子を無言で見つめながら、僕は体格のデカイ男の言葉に従って向かい側のソファーへ腰を下ろした。
恐ろしく座り心地の悪いソファーに、尻をあげて座り直した。硬い豆腐みたいな感触が尻を緊張感にする。そんな僕を察したのか、体格のデカイ男は股を大きく開いて、机の上に肘を置いた。そして少し口元に笑みを浮かべて話しかけた。
「まあ、そんなにビビることはねえよ。何もお前さんを食べるわけじゃねぇんだ。俺は
僕が男の名前を知って、目の前に座る体格のデカイ男を関田と知った瞬間でもあった。そして深呼吸を忘れるぐらい緊張しているとも気づいた。そんな時、部屋の扉がゆっくりと開いた。このあと、僕はタイムカードを魅力的に差し込む女性と出会うことになるのだった。
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