出会いは新しいことに気づくこと

side 青ウサギ

 なんだこの状況?

 俺は今、現在の状況が全く呑み込めていない混乱というよりも困惑の色の強い状態にある。単純に言うならば別のコミュニティの人間(この場合は純粋な人種を指す)と屋根に寝っ転がりながら星を見ながら会話しているといったような状態だ。あとこの人間の影が妙な動きをしているがそのたびに人間が影を叩く蹴る等の攻撃をしているように見える。純粋に意味がわからない。


「なんなんだこれ?」

「おや、星にまつわる話は面白くなかったかい?」

「いやそれはなかなか面白いんだけど、なんて言うかあれ?」


 なんか問題ないような気もするが、そもそもこの人間を知らないことに気づいた。なんで名も知らない人間と普通に話をしていたのだろうか?自分の警戒心が薄いのかそれともこの人間の警戒させないスキルが高いのか。たぶん前者だと思う、というか後者だった場合自分がわりとやばい状態にいることにな・・・・・・あんまり変わらないな前者も後者も。


「どうでもいいことだったなと思っただけだな。うん」

「どうでもいいことって?」

「あんたの名前知らないって事」


 ああ、うっかりしていたとその人間はカラカラと笑い、改めて向き合いこいつは言った。


「私は金糸雀。ちょっとしたコミュニティの参謀みたいなことをやってるんだ」

「俺の記憶が確かならちょっとしたコミュニティではなかったはずなんだが?」

「どういう事かな?」

「階層支配者をまとめて連合に組み込んだ中心的コミュニティをちょっとしたっていうのは俺には無理だね」


 もしかして敵かもしれないと少々警戒していたが、いい意味でも悪い意味でも予想以上の大物と俺は会話していたらしい。自分の所属している月の兎とも同盟を結んでいてなおかつ、この箱庭で最大勢力の一角と言っても過言ではないくらいに大きなコミュニティを率いる女である。見るのは初めてだが。


「そうかい?」

「そうだよ。あ、俺は青ウサギとか呼ばれてる」

「知ってるよ。今大騒ぎしてるのの息子だよね」

「コミュニティのリーダーとは思えないほど大騒ぎしてるけどな」


 なにがおかしいのかケラケラ笑う金糸雀を見ていたらなんかいろいろどうでもよくなってきた。この後の展開も割とどうでもいい気がしてきた。実際どうでもいいけどさあ。


「なんていうか、君は変わってるね」

「月の兎としては異端だってのは自覚してるけど? あとあんたも相当変わってると思うがね」

「そうかな?」

「そうかもよ?」


 どうでもいい会話もなんとなくでも続けているとなんだか楽しくなってきた気がするのが不思議である。いや、実際に楽しいんだろうな。自分が思ってるより自分ってのは単純だったらしい。

 なんだかんだ言っても俺は組織の長の息子、近い年の連中でもなんだかんだで俺とは対等というより若干距離を置いている。自分が壁を作っていただけかもしれんがなんだかんだ言って組織の後継者にもっとも可能性の高い人材である。別にうちのコミュニティは血統主義よろしく次は誰がリーダーをするという風に明確に決まってるわけではないが。一族全体が親戚みたいなものである俺らは、次のリーダーになるであろう人物としてもう大雑把に認識されている。保守的というより日本人的なそういうもんみたいな感覚である。

 今の金糸雀みたいにただ戯言を言い合う仲のいいやつなんていなかったし、なんだかんだで一番年少である俺は子供扱いや弟みたいに見られていた。そういうのが居心地が悪かったのかもしれない。半分以上は想像だけど。

 ふと気になったことあんまり意識せずに聞く。


「そういえば金糸雀さん?」

「今更、さん付けかい?」

「どうでもいいでしょ。それでなんで金糸雀がいるの?」

「今度は呼び捨てか」

「気にするようなことじゃないと思うけどね。で答えは?」


 俺の言葉に軽く苦笑したみたいだがこれからが楽しみそうな子だねとか呟き、大したことじゃないと言ってから


「君の誕生パーティに呼ばれたんだよ。君に私を会わせたかったらしい」


 お父さんは何を考えてるんだろう? ただの親バカ・・・・・・だろうなあ。きっと。

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