4 こんな異世界救う前に、俺を救えよ……
★★★
そーいえばさ、ヘルってさ、なんで魔法使えるの?俺の体だよね?ね?俺は魔法使えないよ。だってさ、さっきから「はぁぁぁぁぁあ!」とか「術★解散!」とか「いでよ贋★魔女!」などラノベの魔法を言っているがまったくでてこない。当然だけどね。
「なぜ、私は魔法を使えるのかと貴様は今思っていただろう」
「……うん」
「魔法というのは体が行うのではなく、その者の精神が引き起こすことだ。入れ替わったと言っても、体が汚くなっただけで、その他はほぼ何も変わらない」
おい地味に俺の体汚いとか言ったぞこいつ。まぁ俺のムスコは汚いけどさ!
「つまり、だ。今までと何も変わらないということだ」
「いや、胸があるとかムスコがないとかありますけど?」
「屁理屈を言うな!……貴様は元々魔法が使えない。つまり、貴様が私の体であろうと魔法は使えない。とんだゴミのようだ!」
「お前どんだけジブリ好きなんだよ!」
まぁ魔法使ってみたいと思ったが、使えないのならしょうがない。諦めよう。だけどこんな体験もう2度とないから、1回ぐらいは魔法使ってみたいな。
ところで今、洞窟の中を歩いている。ニコラス王国に続く洞窟の中だ。どうやらあの本はその異世界の王国に続く洞窟に転送されるらしい。
2人でトタトタ歩く音と声が洞窟内を響かせる。うるさいぐらいに。
しばらく沈黙状態で歩いていたら急にヘルが静止してくる。
「どうした――」
「シッ!」
ヘルは黙れと言ってきた。何もかも分からなかった俺は、そのまま歩きだそうとした。
「待て」
ヘルに言われてそれをやめる。
この洞窟は歩いただけで足音がものすごい響く。だから、誰か来たらわかるはずなのだ。しかし今は足音1つしない。しかし、
「誰か来る」
ヘルは俺の声で静かに呟いた。
俺は洞窟の奥をジーっと見つめる。しかし何も見えない。と思ったその瞬間。辺りが不気味な雰囲気に包まれる。え?なにこれ怖っ!なんかオバケでそう!
その瞬間。
剣と剣が交じる音が響き渡った。その音源は俺の真後ろだった。
瞬間的に振り返ると、大きい丸い白玉が俺に向けて剣を振っていた。そして、その剣を横からヘルが防いでいた。
俺は悲鳴を上げることも出来ずその場に座り込んでしまう。言葉が、でない。叫びたいのに恐怖で、声がでない。
「貴様は下がっていろ」
言うと、ヘルが俺を蹴り飛ばす。
俺を蹴り飛ばしたのはただの足踏みだったようで、そのままジャンプし、洞窟の天井を手で押して白玉の後ろに回り込む。その際、白玉が剣を振ったが、空中にも関わらずヘルはそれを見事に避けた。
着地してすぐに剣を振るが、白玉は動いていたようでだいぶ前にいた。それが隙を作ってしまい、一気に白玉が突進してくる。ヘルは吹き飛ばされる。
ヘルが吹き飛ばされ、ハッ!と気づいた時には、白玉が真上にいた。
白玉はそのまま剣を突き刺しに来た。だが、ヘルは横に回転してよけ、そのまま立ち上がる。
剣が地面に突き刺さり、抜いてヘルの方を向く。目先には紅い剣が突きつけられていた。どうやら勝負はついたらしい。
「終わりだ。貴様はなんだ」
ヘルが聞く。すると白玉が口を開く。
「俺は視察に来る異世界No.3ニルバナ王国、ニューヘル女王を殺せと命じられて来た殺し屋だ」
その声は、声ではなかった。声ではなく、音。機械音みたいだった。
「ほう。殺し屋か。殺し屋が数秒でこのザマだ。笑っちゃうわ」
「ふん。まさかニューヘル女王にこんな護衛がついていたとは計算外だった。今回は負けだねぇ」
「で?雇い主は誰だ?魔王か?」
「さぁね。雇い主を喋るとでも?」
「喋ろ」
「喋らなかったら?」
瞬間、白玉が斜めに斬れる。
「殺すまでだ」
ヘルは目にも止まらぬ速さで真っ二つにしてしまった。
その光景を俺は見ていることしかできなかった。ヘルの魔法で理解できるようになっているはずなのに、言葉がでない。
目の前にいるヘルがあのヘルとは思えなかった。あのと言っても出会ってから1週間も経ってないが。
ヘルが剣を消すと(消すと言ってもまた戻るが)手を握ったり開いたりしている。
「お前の体……オッパイを揉むように作られたのか?」
「なわけないだろ!」
相変わらず、怖い思いをした時でもツッコミは忘れない。あれ?俺ってツッコミ担当だっけ?というより、声が女なのでなんか気持ち悪い。
「お前の手……オッパイで作られたのか?」
「ふざけるなよおい!」
「お前の手の感触がオッパイなんだけど。マジオッパイ。オッパイだわこれ。絶対オッパイだわ。うんオッパイ。オッパイオッパイオッパイ」
「お前ただ単にオッパイって言いたいだけだろ!」
ば、バレたか!みたいな表情をする。いやバレてるから。どっかのラノベはパイオツ連呼だけど。ぜってぇこいつそれパクったよな。訴えよう!
「……それにしても、まさか視察がバレていたとはな」
そっちのバレたかよ!
「い、今のは?」
「今のはこの異世界No.9ニコラス王国の殺し屋だ」
「こ、殺し屋!?」
「あぁ。このニコラス王国はな、ゴーストなんだよ」
「ご、ゴースト?」
え?オバケ?え?何?厨二病ですか?
「あぁ。ニコラス王国の別称。ゴーストの異世界。……すべてがゴーストの形をしている。お前があいつが来るのに気づかなかったのは、ゴーストだからだ。ゴーストは浮いてるだろう?足音がないんだよ」
「だけどなぜヘルはわかったんだ?」
「私にはわかるんだよ」
いや、答えになってないんですけど。
「……ついでに詳しく話しておこう。ほら。立て」
ヘルが俺の手をとってくる。お!優しい!と思ったその瞬間。
ドゴン!
と天井に叩きつけられ、顔が天井に埋まった。え?ちょ死んだ?俺死んだ?
顔を血まみれにしながら洞窟を歩く。
マジ痛い……まだ死ななかったのはよかったけどさ。
「異世界No.9ニコラス王国。実際のところこの異世界には王国などない。とうの昔に滅んだ」
「え……?」
「元々はゴーストではなく、お前の世界の外見をしたような者が住んでいた。だがある日、魔王リヴェルトンが攻めてきて、一瞬のうちにこの異世界は乗っ取られた。元々魔王リヴェルトンの住処は異世界No.7にいた者だ。なぜかは知らんが、この異世界の魔王と手を組み、この異世界No.9を滅ぼした。その戦いは1日で終わった。魔王リヴェルトン率いるゴースト軍団が強すぎたのだ。……ゴーストの主食はその者の魂だ。ゴーストはその者の魂を食い、それをゴースト化して増やしている。はっきり言えば、ニコラス王国の者達は一瞬にしてゴーストにされたというわけだ。お前の世界……異世界No.2地球で言われている幽霊の正体はこのゴーストだ。お前も食われるなよ」
蓮雄は黙って聞いていた。はっきり言って、こんな残酷なことがあるものか。酷いじゃないか。そんなの……ひどいよ……。
「だがしかし、どうやらゴースト内でも前世の記憶を持つ者達がいるらしい。それで分裂してしまい、前世の記憶を持つゴーストが私のところに依頼に来たという」
「……なんか、酷いですね……」
「あぁ貴様の顔がな」
「おい今なんか言ったかおい。これお前の顔だぞゴラァ……でも、なんで俺まで巻き込まれなきゃダメなんだよ」
「は?」
「俺は何もかんけーねぇじゃねーか。こんな異世界救う前に、俺を救えよ……俺はこんな異世界救わねーぞ」
「安心しろ。今のお前に救える力はない」
「じゃあ尚更だぜ」
立ち止まる。ポッケに手を入れ、下を向いている。
「俺には、この異世界を救う理由もなく、救える力もなく、救って利益があるわけでもない。じゃあなぜ俺はこの異世界を救わないとダメなんだ?」
「さぁな。嫌ならここで死ぬか?」
こいつ、私の魔法が効いてないのか?ヘルは、剣を出現させて蓮雄に向けながらそう心の中で呟いた。魔法が効いていれば、こんな話にはならない。蓮雄がそう思うはずがない。なぜ効かない。
――こいつは何者だ?
ヘルは剣を向けながら蓮雄の様子をうかがった。
「ふっ。ここで死ぬのはゴメンだ。できれば、帰りたいところ……だが……」
ヘルは決意して、魔法の威力を強めた。
「うわぁぁぁ!そ、そうか、帰しては、も、もらえ、な、ないだろう、な!ぐわぁぁ!」
苦しみながらその場に倒れ込む。少し強すぎたか?そう思いつつ、剣を消した。多分この記憶は消えているはずだ。
「貴様はこうなる運命なんだ」
ヘルは1人でそう呟いた。
★★★
何か長い夢を見ていたような気がする。
スーっと目を開けるとそこはどこかの家の中に見える。目をこすりながら起き上がると、
「おぉ起きたか」
横で腰を前後に振っているヘルの姿が見えた。あと幻聴。
なんか幻覚と幻聴が同時に襲ってくるんですけど。え?何回目をこすっても、何回耳を叩こうとも、幻覚と幻聴は止まらない。ちょ俺頭おかしくなっちゃったんだわ。そうだ。こんなもん見えるはずがない。
またベッドに寝転ぶ。そして目を閉じる。
「おい待てよ」
隣から聞こえてきたようなきがする。きがするだけね。
その後、こちらに向かってくるような足跡が聞こえてきたような。聞こえてきたようなだけだから。日本語おかしいけど許して。今、俺の目と俺の耳の方がおかしいから。ム★カ大佐の頭並におかしいから。
そして、ドスンと何かに乗られた感覚がする。おいおい、ついに感覚器官までおかしくなったのかよ。おいこれ病院行った方がいいんじゃね?死んだ方がいいんじゃね?
恐る恐る目を開いてみると、ヘルが俺の上に乗っていた。え?ちょ待て。
えーと、勘違いしないでね。第3者から見ると男が女を襲ってるようにしか見えないからね?でも実際はヘルが俺を襲ってるね?逆★★★だから。
って解説してる場合じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
「お前……何やってんの……?」
「あ?」
「いや、何やってるの?」
「ヤッてるの」
「ヤだけ強調すんのやめろ!」
「調教!?あなた文字を調教するという変人だったの!?」
「おいてめぇ何口調と声変わってんだよ!調教じゃねーよ!強調だわ!」
もう嫌だ。何この寝起きドッキリ。こんなのTVで放送したら全国から苦情くるわ!こんな寝起きドッキリいらねーんだよ!いい加減にしてくれよ!なんかこっちは頭いてーんだよ!
「ていうかここどこだよ」
「あぁ、依頼人が用意してくれた宿屋だ。ここにこればHPもSPも全回復だ」
「ド★クエかっ!」
「ド★クエじゃない、オナ★エだ」
「何★ラじゃないカ★ラだ、みたいに言ってんだよ!」
丸パクリじゃねーか!てかなんだよオナ★エって!★つける位置おかしいだろ!今の流れだと普通オ★クエだろ!ぜってぇエロゲーのこと言ってるよなこいつ!女王がエロゲーとかまじありえんわ。
「あんしんしてください」
と、どこから不気味な声が聞こえてくる。というか辺りの空気が暗くなってんだけど!?
「ここはあんぜんです」
マジ震えてるんですけど。え?何?怖くね?
と、ドアががちゃりと開き、誰かが入ってくる。ヘルは急いで俺の上から降りた。そして、ドアから顔出したのは。
マッチョかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
マッチョのゴーストが入ってきた。あ、やべアゴ外れた。え、ちょ。マジアゴ外れたんですけど。驚きすぎて。
「蓮雄。このゴーストが依頼人のマチョさんだ」
ヘルが俺の耳元で囁く。
名前完璧マッチョだよね?ね?ていうかアゴ外れて喋れない!
筋肉ムキムキだなおい。
「どうもマチョです」
ヘルが無理矢理俺のアゴを直した。あれ?治したって言うんじゃないの?なんで直したなの?
「どうも爆颶蓮雄です」
ヘルが答える。だって体は俺がヘルで、ヘルが俺だもん。
俺も空気を読み、話を合わせないとな。
「マチョさん。依頼ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ依頼を受けて頂き感謝しております。どうか、この異世界を救ってください」
「……わかりました」
「ではごゆっくりと……」
そう言ってマチョは部屋から出ていった。
フゥ……と2人して力が抜ける。
「バレなかったー」
「ほんとだわ。あのまま俺の上に乗ってたら殺されてるわ」
「ハハハ」
「っで、これからどうすんの?」
「何を言ってるんだ貴様は。依頼内容通り、魔王リヴェルトンを倒し、この異世界を救うだけだ。それ以外やることはない」
「いや、俺を救えよ」
ちょマジ体返してよ。嫌なんだけど。胸重すぎ。
――なんかマジ嫌な予感しかしないんだけど。
俺が言ったことに対して、なぜか大爆笑をしているヘルを見ながら、俺はそう叫びそうになった。
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