10話 幻の村


 ロボに内蔵されているデータベースの照会結果から、仕掛けられているのは術者が近くにいなくても作動する、配置型の幻術だと判明した。

 その魔術回路は巧妙に隠されていただけでなく、属性上書き効果も付与されていて、魔力反応がほとんど出ていなかった。熟練の魔法使いでもいなければ簡単に見抜けない仕組みになっていたのである。

 しかし、ロボは人工物の検出にターゲットを絞った走査で、現象のある両サイドの木に魔術回路が設置されているのを、わけなく見つけていた。


「フフフッ、遂にオレの活躍の場が来たぜ、ネオ・ルカキス!」

「…………」

「目ぇ、かっぽじってよぉぉ~く、見とけよ!」


 木に貼り付けられた魔術回路を、ロボは左手に内蔵された銃で2つとも破壊する。その途端、景色が歪むようなエフェクトを伴い、岩で塞がれていた場所に突如として道が現れた。


「なるほどな。これが迷いの森と言われる所以か。おそらくこの森の要所には、今みたいに幻術が施されてるんだろう。そのせいで本来進みたい道とは違うルートへ、知らないうちに誘導されちまう仕組みになってたみてーだな……ネオ・ルカキス」


 ロボはロボットに作れる可能な限りの『どや顔』を、勝ち誇ったようにルカキスに向けた。


「何っ!……どういうことだ!」


 しかし、それに驚いたルカキスは、驚愕の表情でその場に固まっている。状況を理解できていないのは明白なリアクションだった。


「……いや、つまりだな(分かるように言ったつもりなんだが、まあいいか。もう少しかみ砕いて説明してやるか)この森には誰かが幻術を仕掛けていて、森が実際とは違って見えてたんだよ。そのせいで道のあるところに岩が見えたりして、知らないうちに進路を誘導されてるわけ。だから森の奥に進もうとしても、いつの間にか入り口に戻される。そんなことが起こっちまうんだよ」


 ロボはできるだけ分かり易く現状をルカキスに説明した……つもりだった。しかし、それを聞いたルカキスは、先ほどとほぼ完全に同じリアクションをとった。


「な、何っ!……どういうことだ!」

「いや、何じゃねーだろ? 分かっただろ? 今の説明で? なに言い方微妙に変えてんだよ? 何度も言わせんなよ?」


 ロボはあきらかにとぼけたリアクションをとるルカキスを、矢継ぎ早に言葉で責め立てる。だが、それを聞いた途端振り返ったルカキスは、背後にあった少し大きめの木に近づいて行くと、森の奥を眺めるような姿勢をとった。

 何かを調べるわけでもなく、じっとそこから動かない。落ち込んでいるようにも見えるその背中は、そこはかと哀愁漂う儚い雰囲気に包まれていた。

 それをつぶさに感じ取ったロボは、すまなさそうな足取りでルカキスに近づくと、優しく言葉をかけた。


「……悪かったよ。少し言い過ぎたな」

「…………」

「カリューへ行くんだろう? だったら、こんな所でぐずぐずしてても、しょうがねーじゃねーか」

「…………」

「立ち止まってても、なんにも始まらねー。行こーぜ、ネオ・ルカキス!」


 ロボは表情こそ変えられなかったが、心の中で精一杯ルカキスに微笑みかけてみた。それが伝わったのか、振り返ったルカキスもまたロボに笑みを返した。


「こんな所でぐずぐず立ち止まってはいられない! 行こう、ロボ!」

「お、おう……」


 咄嗟にそう返事を返したものの、ロボは理不尽な思いにかられた。


 ぐずぐずって……それは今、オレが言ったセリフじゃねーか? ってか、ぐずぐずしてんのはてめーだろーがっ!……と言いたいところだが、また落ち込まれても困るし。今は何も言わないでおいてやるぜ……ったく!


 何かから完全に吹っ切れたルカキスは、勢いよくロボを押し退け、その脇を抜けると、視界に広がる光景を見て驚きの声を上げる。


「ロボ、見てみろっ! ここにあった大きくせり出した岩が無くなってる!」

「…………へっ?」

「見ろ! 奥に進んでいけそうだぞっ!」

「ハ、ハイ――――――――――――ッッッ!?」

「そうか分かったぞ! この森は時間が経つと姿を変えていくんだ。それが迷いの森と言われる所以だったんだ!」

「あ……あそーなんだ……」


 って、ゲエェェ――――――――――――ッッッ!

 何言っちゃってんのこの人っっ!?


「ハッハッハ、お前がぐずぐずしていたおかげで大発見じゃないか!」


 受け入れ難い現実に直面したロボは、完全に面食らい、そして度肝を抜かれていた。


 おい、おい、おい、こいつ自分で何言ってるか分かってんのか?

 ひょっとして、オレのしてたこと見てなかったって?

 いや、いや、いや、ありえんでしょ。あの会話の流れで。

 オレ、イッたよね?

 左手の銃でバシッとイッたよね?

 ネオ・ルカキスにも見てて~って、オレ言ったよね?

 だとしたら今起こってるこの現象は何? この人ってばいったい何? 何者なの?

 天の邪鬼なんて生易しいもんじゃねーぜっ! 事実をねじ曲げるどころか、さっきオレがしたことが、まるまる何もなかったかのような話ぶりじゃねーか!?

 近年まれに見る、超ド級の衝撃事件発生だぜっ!


 ロボはあまりの出来事に、意識がぶっ飛びそうになるのを何とか持ちこたえた。


 ……オレは果たしてこの先こいつに着いて行けるのか?

 っていうか、何でオレはこいつと行動を共にしてるんだ? 目的のためとはいえ、あまりに危険過ぎるんじゃねーのか?

 それが近道だとあの女は言ってたが、ネオ・ルカキスの言ってた占い師って、まさか同一人物なんじゃねーの? だとしたら、少し胡散臭くねーか? っていうか、あの女が既に胡散臭くなかったか?

 なんかオレ、変なことに巻き込まれちまってるんじゃ……


 その時、ロボの心に言い知れぬ不安が渦を巻いた。だが、それを断ち切るように、ロボはもう1度思い直した。


 ……いや。オレの目的は安全策を取っていて達せられるものじゃねー。もとより危険は承知の道行だ。多少のリスクは無視しても最短ルートを行くべきだ……?

 多少のリスク? その認識に間違いねーか?

 ……いや。たとえリスクが高くとも、オレは行かなきゃならねーんだ。それにもう少し一緒に行動してみりゃー、そんな不安もなくなるかもしれねー。人間としては、そんなに悪い奴じゃねー気もするし……? 本当かよ?

 ……いや、いや、あまり深く考えるんじゃねー! こいつを理解しようとするのは危険だ。それだけは間違いねー!

 とにかく、オレ自身が壊れちまわねーよう、細心の注意を払いながら、もう少しだけ付き合うことにしよう。もう少しだけな……


 そんなロボの葛藤も知らず、ルカキスは新たな道が開けたことに、すっかり気を良くして、ご機嫌になっていた。


「よしっ、行くぞ!」


 晴れやかな顔で足取りも軽やかに、ルカキスは意気揚々と歩いてゆく。ロボは内心まだ迷いを感じてルカキスに警戒の視線を向けつつ、とりあえずその後に続いたのだった。


◆◆◆


 空間の歪みは1ヶ所だけに留まらず、その度にロボは回路を破壊して幻術を解除した。しかし、その作業を行っている時に限って、ルカキスはロボのしていることを見ようとはしなかった。

 その態度に苛立ちを覚えたロボは、わざわざ回路のある場所にルカキスを連れて行くのだが「やや、あれはなんだ!?」と何かを発見したリアクションを見せ、どこかに行ってしまう。

 その行動を、ロボは確信犯だと気づいていたが、咎めだてるとさっきの二の舞になりかねない。そう判断し、不愉快ながらも口には出さず黙々と作業を進めた。

 そうこうしているうちに2人は森を抜け、開けた場所に辿り着いていた。


「ロボ見てみろ! あそこに村が見えるぞ!」

「……あ、ああ」

「どうした? 疲れた雰囲気を醸し出して? 何か疲れることでもあったのか?」


 お前だよっ! と、いつものロボなら突っ込んでいただろう。

 しかし、散々我慢させられたせいで、ある程度の起爆剤でなければロボは怒りを表に出せなくなっていた。その感情をぐっと胸の内にしまい込んだところで、速攻の2発目がルカキスから放たれる。


「もしかして、この程度の道のりでバテたのか? 意外に体力のない奴だなぁ。ハッハッハッハ」


 続けざまの言葉に、さすがのロボも自分を抑えきれないだろうと思った。ボクシングで言うところのワンツーパンチを、コンビネーションで喰らったのである。

 挑発されるロボにとって、それは我慢ならないことだったが、ルカキスにそんな意識はなかった。これは意識的にやっているのではなく、ルカキスのスキル(性能)が生み出したたものだったからだ。

 

 無神経に発した言葉が相手の心を逆撫でする。ルカキスはこのスキルを保持するが故に、親友と呼べる存在を1人も持っていなかった。

 ルカキス自身、このスキルを持っていることは薄々分かっていたし、そのせいで人が自分から離れていくことも知っていた。だが、ルカキスはこのスキルを手放せなかった。なぜならこのスキルは『天邪鬼』から派生した、いわば副産物と呼べるものだったからだ。


 ルカキスの天邪鬼は、既にルカキスの本質と一体化を果たすことに成功している。いわば天邪鬼=ルカキスの構図が成り立つのである。

 相手の気持ちを逆撫でする発言は、相手の気持ちを良く理解している時に最もその効果を発揮する。すなわちルカキスは理解しているのである。ロボの気持ちを。

 そして、無神経を装いながら、相手の傷口に塩を塗りこむ発言をする。相手の望むものを理解しながら、天邪鬼にもその反対のセリフが口を突くのである。

 内容と矛盾するが、しかしルカキスは意図せず相手の気持ちを逆撫でしている。本質が天邪鬼であるルカキスは、これを無意識に行うことができるのだ。

 恐るべしは天邪鬼スキルだが、ルカキスはこの性能を実は愛していた。反骨精神という良い意味に置き換えて、勝手に自分自身を高みに持ち上げ、悦に入ってしまっていたのである。友人がついて来れないのは、自分が友人より高みに上がっているせいだと、屁理屈で自分を納得させていたのである。

 

 そんなルカキスのワンツーパンチを、ロボは奇跡の耐久力で耐え切った。しかし、この度重なる忍耐が後に悲劇を招くことを、その時の2人(正確には1人プラスロボット1体)はまだ気づいてはいなかった。


◆◆◆


 その村は大きな湖の中心にあり、四方を水で囲まれていた。水に浮く孤島。そこは何者も寄せつけない要塞のような印象を備えた場所だった。

 村までは大きな橋が架かっており、ルカキスは鼻歌混じりに、ロボはただ黙々とその橋を渡る。100メートル近くある橋を何事もなく渡り終えた2人(正確には1人プラスロボット1体)は、ほどもなく村の入り口に辿り着いていた。

 ここが果たして目的地カリューなのかは定かでないが、橋を渡り終えた途端、ルカキスは確信を持ってこう発言した。


「ついに、カリューに辿り着いたぞ!」

「…………ああ」

「――!?」


 ルカキスはロボの気のない生返事に対して、今度は強い不快感を顕にした。


「ああ、だって?」

「…………」

「お前、なに簡単に俺の意見に同意しているんだ? 確かに俺達はカリューに向かっていたし、言われた通りの場所にあったのがこの村ではある。だが、だからといってここがカリューと判断するのは、やや早計だとは思わないのか? 隣接した別の村の可能性だってあるし、ここまでの経緯を考えれば『空間転移』なんかで、全く違う場所に飛ばされてる可能性もある。確証がない現時点ではお前は俺の言動をたしなめ、慎重を期するべく諫言を持って応える立場だろう? それをいとも簡単に俺の意見に呼応して――」

「おいっ!」


 突然の怒声に、ルカキスは以後の言葉を飲み込んだ。ロボが意気消沈してるのをいいことに、少し図に乗り過ぎたことに気づいたからである。

 だが、時既に遅し。鬼のような形相を彷彿させる雰囲気を醸し出しながら、ルカキスを睨みつけるロボがそこにはいた。


「おい、ネオ・ルカキス! てめぇー今『空間転移』って言わなかったか?」

「……言ってはいない」


 ルカキスは間違いない筈の事実を、こともなげに否定した。


「言っただろうがっ! 何ごまかしてんだよ! そういう知識がないなら理解できねーのも仕方ねーと思ったが……てめ、やっぱりオレのしてたことを分かってたんじゃねーかっ!」


 さすがのロボも、ここは黙っていられなかった。だが、一瞬動揺したルカキスだったが、言われっぱなしで終わらせる筈もなく、即座に別の切り口で反撃を開始する。


「なんて! ああ、なんて口汚い言葉で人を罵るんだろう!」

「え?」

「なんて心ない口調で人に接するのだろう!」

「いや、ちょっと――」

「やっぱり無理なんだ。所詮、ロボットはロボット。人間の持つ情緒や奥ゆかしさを理解したり、体現することは不可能なんだ!」


 この言葉に、ロボは異様な反応を見せた。


「おい、おい、ちょっとその言葉だけは聞き捨てならねーなっ! オレにはこの世界でも類を見ない、最先端の技術が搭載されてるんだ。言語だけでも過去に衰退した文明や、魔族、獣人の類も含め、ほとんど全てを発音すら完璧に再現が可能だし、加えて民族固有の慣習や文化もかなりのデータがインプットされている。当然人間に関する思考パターンも、俺が作られた時点までに集積された膨大なデータが搭載されているだけでなく、それをもとに独自の答えを考え導き出す、人工知能まで完備されている。そのオレに対して、人の心が分からねーなんて戯言を聞き流すことは……って、既にいねーしっっ!」


 ロボがあまりに長ったらしい説明を始めている間に、ルカキスは村の奥まで行ってしまっていた。

 急いで追いついたロボに対し、ルカキスは「それにしても人の姿が見えないなぁ」と、さらりと話題を変えて話しかける。しかも、ロボに言葉を返す暇を与えないまま、話題をニ転、三転させる。そうすることで、先ほどまでの会話は急速にその鮮度を落とし、遠い過去の話へとその印象を変えてしまう。

 今更それを蒸し返すのが酷く時代遅れで、ヘタをすれば罪悪ででもあるように、巧みにイメージを与えながらルカキスは会話を運ぶ。そうなるとロボは話を戻して文句を言うことができなくなる。そして、発散されないまま、その不満は胸の奥に蓄積されるのだった。


 それほど大きくはない村を概ね見て回った2人(正確には1人プラスロボット1体だが、今後は注釈なしに2人とだけ表記する。これはロボを人として区分することに該当し、人数の変化や類似の事象及び、派生して考察可能な事柄についてもこの決定事項は適用される)は、人はおろか動物を見かけることもなかった。


「生活感はねーのに、廃れてる雰囲気もねーな」

「お前のアレで分からないのか? もしかしたらここにも、さっきまでのよう……に……!?」

 

 自分の致命的な失言に気づいたルカキスは、そこで言葉を呑み込んだ。

 先ほど、うまくごまかせたばかりだというのに、立て続けの失態である。だが、やはりルカキスは、ロボがレーダーなどを駆使して幻術の位置を探り出していたことに、気づいていたのである。

 ロボはルカキスの顔を、ニンマリといやらしい笑みを浮かべながら眺めていた。


「どうしたんだネオ・ルカキス。急に歯切れが悪くなったな?」

「いや……べ、別にそういうことは……」

「ないんだろ? だったら話を続けろよ。確かオレのを使えと言ってたよな? さっきまでオレが使ってたって……いったいなんだ?」


 まるで小姑のような陰湿な言い回しで、ロボはルカキスを問い詰める。


「アレというのはだなぁ……そ、そのつまり……」


 そこでルカキスは、ロボの背後に何か重要なものを見つけたような、わざとらしいくらい大きなリアクションをしてみせた。


「やや、あれはなんだ!?」

「フフン、悪いなネオ・ルカキス。オレは見かけ上お前の方を見ているように見えるが、構造的に背後や死角が存在しない。両目にあるメインカメラに加え、襟足と両肩についたサブカメラを使って、オレは全方位を同時に視認できるんだ。当然レーダーや各種センサーなどを交えた複合観察で、周囲30メートル以内は既に解析を終え、驚異となるものは確認されていない。墓穴を掘ったなネオ・ルカキス! オレに対してその手の引っかけは……って、既にいねーしっっ!」


 ロボが長ったらしい説明を始めた3秒後には、ルカキスはロボの横を抜け、先にあった家屋の中に入り込んでいたのだった。


◆◆◆


 そんな2人の様子を、誰にも気づかれることなく観察する者があった。

 その者は、少し村を離れた仮設テントのような場所で村の様子を観察していた。

それを可能にしていたのが、この者が持つクリスタル製のボードだった。

 まるでタブレットにも見えるそのクリスタルボードには、多少画質の粗い村の映像が表示されており、それを使って村のあらゆる場所を観察できるようになっていた。

 因みにこれは科学ではなく、魔法を使ったものである。


 この者は、この先しばしば登場することになるが、ストーリー展開上、現時点でこの者の素性や名前を明かすことはできない。敢えてそれでも何とか情報をと請われれば、性別が男であることが告白できるのみである。

 だが、この先この者を、この者や謎の男などとと表現し続けるのは、頻度を考えると些かウザったい上に、内容も分かり難くなることこの上ない。そこで、やむなくの措置として、この者の素性と名前が判明するまで、その仮初めの名を『ナゾール』とすることをここに決定する。

 謎の男であることと、言葉としてのまとまりに配慮して付けられた、素朴で素直な良い名前である。

 ナゾールは2人の動向を観察しながら、その顔を雲らせていた。


「情報を聞きつけて王国軍が来たのかと思ったが、たったの2人か。冒険者が迷い込んだだけか? ここへは入って来れないよう術を施していたのに……。魔法使いを連れてないところを見ると、当然解除して来たんじゃないだろう。どこかに綻びがあって、ここに通じているのかもしれない。あとで確認しなくてはならないな。だが、冒険者にここをうろつかれても厄介だ。早々にお引き取り願いたいことこだが……それにしても、あいつはいったい何だ?」


 ナゾールはロボを映像の正面に据え、注意深く観察する。


「全身を金属の鎧で包んでいるのか? あんな装備は見たことがない。かなり重そうに見えるが、だからといって動きが緩慢でもないようだ。最近ちらほら聞く西からの技術か?」


 しばし熟考したナゾールは、何かを思いついたのか口の端に笑みを漏らす。


「フフッ。どうせ2人はこの村から追い出すつもりだし、ついでに、あの全身を鎧で包んだ異形の実力がどの程度のものか、少し見せてもらおうか」


 ナゾールはクリスタルボードに映る村の状況を確認しながら、戦略を練る。時折尖った耳をピクピクと動かしながら。


「こいつらが今いるのは北西エリアか……ん? おあつらえ向きに連れの1人が既に家の中に入り込んでるじゃないか。丁度いい。あそこに入ったのなら、間違いなく勝手にトラップを発動させるだろう。少し危険も伴うが、万一のことを考えて、リミッターを解除しない限り、人が死ぬことがないよう安全には留意している。頭まで鎧を着こんだあいつはもとより、もう1人もあの出で立ちだ。最低限の体術くらいわきまえているだろう。だがもし、打ち所が悪くて重症を負うようなことがあれば、応急処置を施し、ワリトイの病院まで運んだ上で、そこにある設備が十分でなければ、王都の病院にスムーズに転院できるよう渡りをつけてやるつもりだがな……」


 本当にそうなった場合、その対応で果たして落ち度が無いかを少しの間検証したナゾールは、問題ないと結論づけ、すぐに晴れやかな表情を浮かべた。


「さて、お手並み拝見といくか」

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