第3話 爺様

爺様が帰って来たので、いよいよご飯にあり付けた。古めかしい料理が多くて、ハンバーグとか食べたいなと思ったけど、味気なさそうなものも意外に美味しくて、ぱくぱく食べた。

婆も爺も、「このお客は小さいのにほんによう食うな」とか、「お母さんも飯の作りがいがあろう」とか言っていた。いや、これは、おかあの作る飯よりもうまい。


「ああ、あそこの家の坊か。あそこの倅もまたいい倅ば育ててから幸せたい」


爺もまた褒めてくれた。

褒めながらも、


「だけんど、勉強はせにゃあならんよ。将来なお前さんもお嫁をもろうて食わせにゃならんて。そしたらば勉強が大事なんよ。勉強したらば社会のいろんなことば分かるようになってな、人のお役に立てるたい。そしたら、食うに困らんほど稼げるたいね。お前さんは知恵も沢山持っとりそうやから、勉強したらば、いい大人になれるばい。どら、爺と約束せんね。そしたら、面白いもんば見しちゃるけん」


この爺の話は不思議と心にストンと落ちて、婆もニヤニヤしてるし、面白いもんも見たいしで、とうとう爺と婆に勉強を約束してしまった。きっと、おかあもしたり顔だろう。


うまい飯も食べ終わり、爺にはいろんな外の話を聞いた。都会の話もあった。

「あそこは賑やかばってん、怖い場所でもあるとたい」と言っていた。外国の話も出て、世界にはいろんな人が暮らしていることを教えてくれた。婆も爺も終始ニコニコで、楽しくて楽しくて、片付けもまた婆と一緒にした。


片付けて、爺に呼ばれて外に出た。何を見せてくれるんだろうと思うと、空を見上げろと言われた。


「綺麗じゃろ?面白かろう?」


といいながら、星とか星座について教えてもらった。ウチからも見えるや、こんなもん、と言うと、爺が「いやいや、あのお星様たちには、色んな話がつまっとるんよ」と説明とか面白い話聞かせてくれて、普段は気にしない空の星がぐっと近づいてきて楽しくなった。爺はそんな僕を見て、


「これもまた勉強たい。どうね、面白かろう?これは何百年と昔の人が少しずつ糸を紡いでいくようにしてつくった話ばい。知らんのはもったいないたい」


と、しみじみと言っていた。


「楽しくない、楽しくないと思ったらなんでも楽しくなかとよ。楽しもうと思うことが大事なんやけん。覚えとき」


爺に誘われて一緒に風呂に入り、三人並んで寝た。

次の日の朝、婆に「また来んね」と言われて見送られ、爺に送られて家に帰った。


爺に連れられて家に着いたら、おかあが玄関前に立っていて、げんこつを浴びた。爺に丁寧に頭を下げるおかあ。すると爺が、


「あんたがたのばあ様には世話になったけんね。ははは、お返したい。こちらこそ、ありがとう。楽しかったたい。坊、また来んね」


そう言って、爺は去っていった。

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