第10話 城下町
金の髪の美しい少女がいました
まだあどけなさが残るその少女には使命がありました
――母から
――子の元へ
鼓動を繋ぐ、橋を架ける
彼女には白い翼と、黒い爪がありました
白い翼は彼女を護り、黒い爪は彼女の刃となり……
金の髪の美しい少女は使命を果たしました
ラント族伝承古書『いせかいのおとめ』
※※※
『塔の扉が開くまで』と言われていた期間が約半分終わりました。
私はダイエットと特訓、そして内職の日々を送っています。
ダイエットは順調。
体重は恐らく六十キロくらいです。
最近漸く、リコちゃんからお肉を食べて良いと許可が出ました。
やったああああああああっ!!
でも『食事』は朝だけで、昼と夜は相変わらずポン汁です。
慣れてきたので、前ほど苦痛では無くなりましたがもう少しお肉を食べたい……ステーキ、トンカツ、照り焼きチキン……。
出家でもしたのかという食生活ですが、不思議と身体は軽いです。
戦闘ではアルが他にも力を貸してくれるようになりました。
ターゲットの照準と合わせて、ロックオン出来るようになりました。
一度照準が合えば、余程見当違いの所を狙わない限り当たります。
これで殆ど打ち損じが無くなりました。
味方に当たらない軌道に注意を払うことは必要ですが、『トドメをさす』という私の役割から言うと、かなり有用な機能で大助かりです。
コミュニケーションの方は、まだまだ難しいですが……。
脳天突かれエブリディです。
その内頭に穴が空きそうです。
その前に禿げそうです。
でも灰原さんの体だからいいか、なんて悪い考えで落ち着きます。
そして、『視覚拡大』という能力も備わりました。
その名の通り広範囲を見ることの出来る能力です。
あと、味方の命中率を上げることも出来るようになりました。
トドメ役だけではなく、サポートもしていく方針です。
練習場所も、海だけではなく、陸でもするようになりました。
近くにある無人島で群生した森で魔物退治をしています。
無重力のような動きが出来る海の中とは勝手が違うので、最初は苦戦しました。
自分の位置取りが難しいというか……。
それと自分の身は自分で守れる、あと皆のことも守れるような『防御』も必要ですね。
これは新しい印をつけて、試して行く予定です。
商売の方はというと、ミラさんがシュシュをつけてくれるようになってかなり売れ始めました。
モデルケースが素晴らしいと広まるのも早いです。
リンちゃんのようにブレスレットのように使ったり、服の袖をめくり上げる時に使ったりと色々な使われ方もされ始めました。
剣の鍔のところにつけている女剣士さんもいました。
邪魔じゃないんですかね、あれ。
ともあれ、シュシュを異世界スタイルで使ってくれるのは嬉しいです。
そしてリンちゃん曰く『本命』のポン汁も裏で売り始めました。
まだあまり出してはいませんが、かなり問い合わせがあるようです。
リンちゃんが黒い笑みを浮かべて、とても楽しそうにしていました。
あと、ポン汁に『美容・健康』以外の効能があることを広めました。
『元気になる、精が付く』というアッチ方面のことです。
ポンスーに似ている私の世界のスッポンという亀には、そういう効果もあるって聞いたよと話すと、リンちゃんの目が光り、早速『顧客』になりそうな人達の耳に遠くから入るように仕込んできたそうです。
売れ行きは順調、かなり私達の懐は温かくなったようです。
私は自分が作ったシュシュが好評、ということがとても嬉しいです。
私自身は人気が無いので、せめて私の手から生み出された子達は皆に愛されておくれ!
今日は気分転換と装備を代えるために、オリオンと二人で城下町の方に出ることになりました。
城の敷地が広いので窮屈さは感じていませんでしたが、やはり城内と町では雰囲気というか、空気が違うと思うので楽しみです。
少しだけ観光もしてくる予定です。
ワクワクします。
外に出るということで服装も外出仕様です。
『あまり目立たないように』ということでしたが、この世界のセンスが分からないのでリコちゃんに任せました。
トップスは白のブラウスの上にニット素材っぽい黄色のポンチョ、下は萌黄色のスカート、茶色のブーツでした。
どことなくオランダの民族衣装に感じが似ています。
少し幼い印象もしますが、可愛らしいです。
お洒落出来る幸せ、プライスレス。
マタギじゃ無いだけでも舞い踊りたくなります。
オリオンも町に出るのだからお洒落すればいいのに、いつもの黒尽くめです。
つまらない!
そんな時に取り出したるは……コレ!
「じゃーん!」
「……」
オリオンにも何か作ろうと思って作りました、ストールです!
気候は穏やかなので、薄い生地をむら染めして作りました。
黒じゃないとつけてくれない気がしたので、黒を目指したのですが難しくて……。
結果的に真っ黒にはならず、暗いグレーになったのが悔しいです。
でも割と出来はいいと思います。
ストールを『どやっ!』とオリオンの前で広げているのですが、リアクションがありません。
プレゼントだということは伝わっていると思うのですが……。
無表情で止まっているので、首を巻こうと近づいたら……逃げられました。
「なんで逃げるの!?」
「何をする気だ」
「つけて欲しいなと思って。……まさかこれで首を絞めるとでも?」
「……」
心底嫌そうですが大人しくつけてくれるようで、こちらを見て静止してくれました。
よろしい。
「どんな巻き方にしようかなあ」
男の子にお洒落をさせるなんて滅多に無いので楽しいです。
「早くしてくれ」
「まあまあ、そう焦らず。イケメンにしてあげますからねー」
「イケメン? 巻き方なんかどうでもいい。これでいいだろ」
そう言うとくるりと適当に巻いて行ってしまいました。
つまらないなあ、でもつけてはくれるのですね。
良かった!
でも……つけた姿を見て一瞬失敗したかもと思いました。
それでなくても前髪で見えない顔が、ストールを巻いたことで顎も隠れてしまいました。
前髪とストールの間に見える素顔……あれはオリオンの絶対領域なのですね……。
※※※
オリオンと二人、城の外に出ました。
徒歩です。
灰原さん達は城の中でも馬に乗っていたというのに……。
でもいいんです、『走れ-!』と鬼軍曹に追い立てられずゆっくり歩けるのだから素晴らしいです。
良い散歩になりますし。
城の前を真っ直ぐに進むと噴水の広場がありました。
そこから海側に向かって行くと、大きな通りにでました。
「活気があるね!」
「女神の使者が現れたからな、世界中から人が集まっているんだ」
「え、じゃあ私はあまりうろつかない方がいいの? 大混乱が起きちゃう!?」
ある意味『主役』な女神の使者である私が、こんな人の多いところで見つかったら、騒ぎになるかも!?
芸能人みたいですね!
困っちゃう!
「お前は大丈夫だろう」
「どういう意味ですか」
ハンマーで殴るようなこのツッコミ。
どうせ私は嫌われ者の『ハズレ姫』ですよ。
『姫』なんてつけてくれているだけでも有り難いです。
でも、拗ねてもいいですよね。
「ぶー」
リンちゃんがいたら、『町中で豚が鳴くな』なんて言われそうです。
グボアッ、想像してダメージを受けてしまいました。
「勘違いするな」
勝手に拗ねて、ここにはいない人の台詞を想像してダメージを受けている私の頭に、ポンとオリオンの手が乗りました。
「来た時に比べると見違えた。だから誰も気がつかないだろう、ということだ。悪い意味で言ったんじゃ無い。お前は良くやってる」
見た目は中学生で私より年下に見えるのに、穏やかな微笑みには安心感があります。
懐の深さが滲み出ているのでしょうか。
オリオンに褒められると、とても嬉しくなります。
「うえへへ」
「ヘラヘラ笑うな。呆けていたら迷子になるぞ」
「はーい!」
道の両端には露天が押し合うように並んでいます。
まるでお祭りようです。
お土産、食べ物、武器、道具……色んな物が目に入ります。
目的の買い物はここから外れたところにある、しっかりとした店舗を構えたところでするようなので、気楽にウィンドウショッピングをしながら進もうとしたのですが……。
人が思いの外多く、オリオンとはぐれないように気をつけるのがやっとです。
「昼間っから呑むぞ! お前の奢りで!」
「またですか! 仕方無いですねえ、まあ……いいでしょう!」
不快な大声が耳に入り、そちらに目を向けました。
前を歩く二人組の若い男性が空気に飲まれてテンションが上がっているのか、お酒に酔っているのか知りませんが、騒ぎながら進んでいて邪魔です。
真っ直ぐ歩いてくれないと、後ろの私達はぶつかりそうになります。
苛々します、蹴りたいです……。
こういう時にリンちゃんがいてくれたら、『邪魔だオラア!』と一蹴してくれたに違いありません。
オリオンは持ち前の落ち着きを発揮しているのか、特に気にしていない様子です。
今ならリンちゃんくらいヤンチャになってもいいのですよ?
……あれ。
二人の内、敬語口調の方に見覚えがあります。
後ろから見ていると分かりませんでしたが、ちらりと見えた横顔で気づきました。
城の武器屋の、ひょろっとしたもやし青年です。
この眼鏡、司書の方が似合う感じ……間違いありません。
「美人が酌してくれりゃ、もっと美味い酒が飲めるんだけどなあ」
「ああ。ルナ様みたいな美人にお酌をして頂けたら……」
私の苛々を煽る話題になりました。
『必殺のしかかり』をお見舞いしてやりたいです。
……というかもやしよ、貴方もやはり灰原さん信者だったのですね。
あ、でも『美人』と言ってくれているのは私の体なので、よく考えれば嬉しい?
自分の体に戻れなかったら、何の意味もありませんが。
「この前の出発の時、沿道で見送る僕に……ルナ様は微笑んでくださった!」
「ばーか、アレはおれに笑ってくれたんだ!」
「何を言う! あれは武器を買いに来て下さった時、『お気をつけて』と気遣った僕に対する感謝の微笑みだったのだ!」
どうでもいいですね、心底。
某アイドルグループのコンサートで、アイドル君と目が合っちゃった! と騒いでいた友人を思い出しました。
幸せなのは良いことです、うん。
「女神の使者って、もう一人いるんだろう?」
うわあ、そっちにも話題は行ってしまいますか。
聞きたく無いのですが大声で話しているので、耳栓でもしない限り耳に入ってしまいます。
迷惑……。
「ああ、『ハズレ姫』だろう? 全く興味が湧きませんね。店に来ましたが、畑のイモのようでしたよ」
!!?
私だって貴方には興味ありません!
無いもんね!
べーっと舌を出してやりたいですが我慢です。
っていうか、畑のイモって酷すぎません!?
貴方の店の武器のせいで、マタギ感が完成してしまったんですからね!
「ルナ様は出発したっていうのに、今も城でぐうたらしてるんだろう?」
「さあ? 何をしているか知りませんが、メイドと走り回っているのを見かけましたよ」
「はあ、暢気なものだな。罰が当たって死んじまった、『大ハズレ』みたいにならなきゃいいがな!」
「ははっ!」
……え?
……『大ハズレ』?
ぐうたらなんかしてないという抗議もしたいですが、それよりも『死んじまった大ハズレ』という言葉が気になります。
もしかして……。
女神の使者で、過去に亡くなった人がいたのでしょうか。
そんなことがあったのなら……もしかすると自分も。
そう思うと、突然氷水を頭から浴びせられたかのように心臓がキュッとなりました。
怖い……。
『オリオンに聞いてみよう』
そう思い、横を向こうとしたその時……。
「ぐあ!?」
「あがっ」
横にいたはずのオリオンの姿は、何故か目の前に移動していました。
そしてその両手は前を歩いていた二人の頭を掴み、地面に押しつけていて……。
「お、オリオンッ!!?」
突然のことで一瞬固まってしまいました。
周りにいた人達も驚き、オリオンから飛び退きました。
割れた人垣の中で、少年に頭を押さえられた青年がもがき、抵抗しています。
大人二人の抵抗にビクともせず、メリメリと地面に押しつけ続けるオリオンの表情は見えませんが……怒ってる?
只ならぬオーラが出ています。
声を掛けると殺されそうな気さえします。
私が『ぐうたらしている』と言われたことを怒ってくれた?
……いえ、違うと思います。
そんなことで、オリオンがこんな風に我を忘れたように怒ることは無いと思います。
「ど、どうしたの! ちょっと、オリオン!」
ボウッとしてないで止めなきゃ。
急いで止めに入りました。
オリオンの体を掴み大きく揺さぶると、我に返ったようで顔を上げました。
相変わらず長い前髪で顔は見えませんが、混乱……動揺しているように見えます。
「大丈夫?」
「……ああ」
本当に大丈夫なのでしょうか。
私には大丈夫には見えません。
心配ですが、『どうしてこんなことになったのか』と聞いていいか、迷います。
「……え? ええ!? オリオン!?」
もう帰るべきか考えていると、オリオンが逃げるように人垣の中に飛び込んで行きました。
何処に行くの!?
急いで追いかけないとはぐれてしまいます。
二人組は放置して、急いで背中を追いかけました。
※※※
「OH……」
まずいです……完全にオリオンを見失いました。
かれこれ一時間経ったでしょうか、いや、もっとかもしれません。
一人で心細さを押し殺しながら歩き回っています。
知らない場所で人捜しなんて絶対無理です、無理無理。
だって……私が迷子なんですから!
ここ何処なのー!?
本当にオリオンはどうしちゃったのでしょう。
怒っている姿も驚きましたが、面倒見の良いおじいちゃんが私を放置していることにも吃驚です。
おじいちゃん、孫はここだよー!
……なんて言うと怒られそうですが。
「はあ」
オリオンにとって、とても大事な何かがあったんですね。
だったら、暫く一人にしてあげた方がいいのでしょうか。
幸い、見上げると坂の上に城が見えます。
大通りを真っ直ぐ上ると、城に帰れます。
今日、一端戻った方がいいかもしれません。
いや、でも……戻ったことが分からず、探していたらまずいですね。
こういう時は、はぐれた場所から動かないのが一番のような気がします。
来た道を引き返すことにしました。
「……あれ?」
私は進んだ道を、来た通りに引き返したつもりなのですが……様子がおかしいです。
賑やかな場所を目指しているはずなのに、どんどん静かになっていきます。
引き返そう、再びそう思いましたが……。
どうしよう、どっちに進めば良いか全く分からない!
狭い路地に入って、建物囲まれているため、上を見ても城も見えません。
おじいちゃあああん!
大声で叫びたいですが、怖い人が出てきたらどうしよう!?
そして視界に入る寂れた建物、割れた瓶、薄暗い通路……。
なんだか荒んだ、危険な場所に見えてきました。
そんなことを考えていると、数人の足音が聞こえてきました。
足音に混じり、『ガハハッ』と品の無いいかにも荒くれ者といった声が聞こえてきます。
考えていたところに、なんというタイミングなんでしょう。
呼んだわけじゃないのに!
フラグを立てたつもりでもなかったのよ!?
見つかったらどんな目に遭うか分かりません。
慌てて隠れようとしたのですが……どうしよう!?
「隠れる場所がない!!」
建物に囲まれた長い直線通路になっていて、次の角までは遠く、走っていても遠くて進んでいるうちにみつかりそうです。
戻ると十字路がありますが、そこに行くまでは怪しい人達の目の前を横切らなければなりません。
「ぐあわあ、どうしよ! どうしよ! ……ぐあ!?」
どうしたらいいか分からずジタバタしていると、急に体が浮かび上がりました。
何事!?
フワッとした優しい風を感じましたが、視界が天地反転していて何がなんだかさっぱり分かりません。
ん? ……暖かい……誰かに担がれている?
オリオンが助けに来てくれたんだ! と思ったのですが……違いました。
逆さに揺れる頭を必死に持ち上げ、見えたものは少し癖のある朱色の髪でした。
誰?
知り合いの中で、心当たりはありません。
どうしよう、誘拐!?
逃げなければ! と焦りましたが何故か恐怖感はありません。
この髪がとても綺麗だからでしょうか。
太陽の光が当たって輝いています。
燃えるような炎ではありませんが、暖かな優しい暖炉の火のような温もりを感じます。
細身ですが……体格と雰囲気から察するに、同世代の男の子でしょうか。
黒いズボンにブーツ、黒のマントには、被ってはいませんがフードがついています。
あ、フードになんかついてる……猫耳のような……猫耳フード!?
男の子なのに可愛いフード、素敵!
「重っ!」
「!?」
私を担いでいる男の子の口から、禁断の言葉が出ませんでしたか!?
知らない人に、しかも同世代の男の子にこんなこと言われるなんて……!
というか……今の声、聞いたことがあるような……。
あー……駄目です、思考が停止します。
風の魔法を使い、屋根を飛び移っているようで上がったり下がったりしています。
どこに行くの、どこまで行くの……うぷ。
この拷問タイム、早く終わりません?
また上がった、また下がった……ああ、このヒューっとする感覚、駄目です。
それよりもお腹の中をグルグルかき回されているようで……気持ち悪い。
あ、駄目。
「吐きそう……」
「!?」
その瞬間、私の体は急降下しました。
さっきまで感じていた人の温もりも感じません。
まさか……捨てられた!?
「ぎゃあああああああっ!!?」
暖かな風の温もりもありません。
つまり、魔法無し!
重力に従って真っ逆さまです。
雄叫びを上げながらも、心の中で覚悟しました。
私、終わった。
人生が走馬燈のように流れるって本当なんですね。
今までの思い出、この世界に来てからの経験が次々と目の奥に浮かびます。
まだ何もしていないのに、塔にも入っていないの死んじゃうなんて……。
しかも、何処の誰か知らない人にポイされて、轢かれた蛙のように這いつくばってベチャっと潰れてジ・エンドだなんて。
「嫌すぎるううううううっ!!」
目は開けられませんが、きっと地面はもうすぐです。
衝撃を覚悟し、思いっきり力んだら……。
あれ?
体がフワフワしました。
真逆の感覚を予想してたのに。
目を開けると、私はぷかぷかと浮かんでいました。
そして、申し訳なさそうに俯いているオリオンの姿が――。
「オリオン!?」
どうやら落ちる私を、魔法で止めてくれたのはオリオンのようです。
私の声を聞くと、ゆっくりと下ろしてくれました。
「やっと! やっと見つけたー!!」
探し求めていた姿を見て、安堵で涙が出そうになりました。
思わず飛びつき攻撃です。
前はこの衝動を我慢しましたが今日は出来ません。
おじいちゃん、探したんだから-!
私のタックルを食らってオリオンはよろけてしまいましたが、体勢を立て直すとポンポンとあやすように背中を叩いてくれました。
「……悪かった。何も無かったか?」
「うん。今、ジェットコースターみたいに上下に揺れて吐きそうになったくらいで、特には何もなかったよ」
「……そうか」
オリオンの方も安堵したのか、ホッと息をつきました。
そして私の台詞を聞いてクスリと笑っています。
でも多分、ジェットコースターを知りませんよね?
そういえば、あの朱い髪の少年は誰なのでしょう。
「あの人、オリオンの知り合い?」
「ああ……そうだな」
と、いうか……今思いつきましたが、『光隠の印』を使って姿を隠せばよかったですね。
そうすれば、ジェットコースター体験しなくて済んだのでは!?
オーマイガッ!
あ、でも、強い人達だと見えてしまうのでやらなくて正解だったかも?
ブツブツ呟く私を、オリオンがジーッと見ていることに気がつきました。
なんでしょう、顔に何かついてる?
は! さっき担がれている時に涎とか鼻水が出てしまったのでしょうか。
慌てて顔を手で隠しました。
「今日は……本当に悪かった。これからはちゃんと、俺がお前を守ってやるからな。……もう二度と同じことは繰り返さない」
「う? うん……」
どうやら顔に何かついていたわけでは無いようです。
手の隙間からオリオンを覗くと、とても真剣な様子でした。
『守ってやる』なんて言われると、女子として大いにトキメキますが……。
その表情を見るとトキメキよりも、今の言葉の意味が気になりました。
『同じことは繰り返さない』
それは今日のことを指しているのでしょうか。
それともオリオンには、何か『大きな失敗か、後悔』があるのでしょうか。
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