第9話 雪の世界
公太郎が氷の洞窟を抜けると、そこは吹雪が吹きすさぶ雪山だった。
「なんだこの雪山は。まあいい。吹っ飛ばしてやる」
公太郎は双剣を抜き、それを振った。しかし、吹雪がわずかに緩み、雪山に少し道が出来た程度で、とても吹っ飛ばすレベルとまではいかなかった。
吹雪はすぐに元の強さを取り戻し、雪に出来た道は埋まっていった。
「なんだよ、この力は。本当に半チートなんて役に立つのかよ」
公太郎はぼやきながらも剣を納め、歩みを進めることにした。
「まあいい。我慢出来ないほどじゃねえしな。さっさとこの世界の神様って奴を見つけてやるぜ」
公太郎は歩いていく。情報を得るために人や村を探すことに集中しながら山を下りていく。
周囲に視界を塞ぐような木々はあまりなく、ただ吹雪が目障りに吹き荒れている。
視界が狭い中で地上にあるものに目を配っていたので、公太郎は空から飛んできたものに気づくのに遅れてしまった。
気が付いたときには、公太郎は巨大な氷の鳥の足に掴まれて空に連れ去られようとしていた。
「なんだこいつは! ふざけんな! いや、空からなら探しやすいか」
公太郎がそう思っていた時だった。
不意に地上から銃声が響いてきて、鳥の足が緩んだ。公太郎は離され、氷の鳥は山の頂上に向かって飛び去っていった。
公太郎が身をひるがえして着地すると、そこに銃を持った数人の男達が走り寄ってきた。
「大丈夫ですか、旅の人」
「ああ、大丈夫だぜ。あんたらはどこかの村の人達かい?」
「はい、我々はこの山の中腹にある村の者達です。この辺りは危険です。我々の村に来てください」
「ああ、御厄介になるぜ」
公太郎は村人達に案内されて村に行くことにした。
その村は穏やかな雪の村だった。
「この村で一番の物知りは誰だい?」
公太郎が訊ねると村人は快く教えてくれた。
「それは村長ですよ。あそこの家が村長の家ですよ」
「そうかい、ありがとよ。じゃあ、そっちへ行ってみるぜ」
快く教えてくれた村人に礼を言って、公太郎はそっちへ向かった。
村長の家へたどり着き、ドアを開ける。
「この俺がお前の知っていることを聞きにきてやったぜ」
言いながら部屋に入ると、村長は落ち着いた物腰で応対した。
「ようこそ、旅の方。山では大変な目に合われたそうですな。どうかゆっくりしていってください」
「ゆっくりするつもりは俺にはねえんだ。何か話すことがあるだろ。話してみろよ」
「話すことなどありません」
「じゃあ、あの氷の鳥はなんなんだい?」
公太郎としては軽い話を振ったつもりだった。だが、村長はみるみる顔を青ざめさせていった。
「あれを見たのですか?」
「ああ、見たぜ。なんか大変な奴みたいだな」
「旅人様が気にされることではありません。それにもう大丈夫ですから」
「大丈夫とはどういう意味だ?」
「姫様があいつを退治しに来られることになったのです」
村長は元の落ち着いた態度を取り戻していた。よほどそいつを頼りにしているらしい。公太郎としては首を傾げるしかなかった。
「姫様だあ?」
「あ、噂をすれば早速」
「あん?」
村長の目線をたどり、公太郎は振り返る。
「邪魔をするわよ、村長」
扉を開いて入ってきたのは、清楚さと気品を感じさせる旅姿の少女だった。後ろには従者と見える戦士と魔法使いの二人の男を従えている。なるほど、姫様と言われればそれっぽい感じには見える。
村長はさっそく愛想よく応対した。
「これはこれは、こんな所にようこそおいでくださいました。フィオレ姫様」
「ここは素晴らしい村ですね、村長。あら、客人がいらしてらしたのね。こんにちは」
フィオレと呼ばれた姫様はにこやかな笑顔で公太郎へ向かってあいさつした。その姫様に向かって公太郎は指を突きつけた。
「あんた、ここへ何しに来た?」
「何しにとは……?」
フィオレは自分に突きつけられた指先を不思議そうに見つめ、それでも友好的な態度は崩さずに微笑んで言った。
「モンスターを倒して、この村を救いに来たのよ」
公太郎は鼻で笑った。
「残念だがそれは姫様の役目じゃない。この俺の仕事だ」
「そう言われてもね……」
フィオレの目線が村長の方へ行く。事情を説明しろと言っているのだ。村長は応援を得たかのように胸を張って言った。
「旅人様の気持ちは嬉しい。だが、あの鳥はただの魔物ではない。伝説の三魔獣の一匹なのじゃ!」
「伝説の三魔獣とはなんなのですか?」
公太郎は訊く。村長は答える。
「知らぬのならば教えてやろう。伝説の三魔獣とは神によって遣わされた三匹の魔獣と言われている。なぜか最近になって暴れ始めたのじゃ。今ここの近所の雪山で暴れている奴は氷の魔獣フリーザー。素人にはとても無理な相手じゃからここは姫様に任せて……」
「神に関係する物か。都合がいいな。分かったぜ。ここは俺が引き受けた。姫様は城に帰ってな」
「お前は何を聞いていたのじゃー!」
憤慨する村長。彼から公太郎に視線を移して、フィオレは凛とした声をかけた。
「帰るわけにはいきません。みんなを守ることがこのわたしの使命なのですから」
「なんだと? 仕方ねえな。分からないなら少し痛い目にあってもらうか」
「そうね。分からないというのなら少し痛い目にあってもらおうかしら」
公太郎とフィオレの間で火花が散る。そこへ割って入ったのがファイタンとマホルスだった。
「お待ちください、姫様! このようなどこの馬の骨とも分からぬ無礼者の相手など姫様自らがされる必要などありません!」
「目的はあくまでもフリーザーの討伐。ここで無駄に力を使うことは得策ではありません。ここは我らにお任せください」
姫様は目の前でひざまづく二人の顔を見て言った。
「そうね。じゃあ、任せるわ」
「ハッ、我らにお任せあれ」
公太郎はその光景を不愉快な思いで見ていた。
「俺を軽く見やがって。後悔させてやるぜ」
ファイタンとマホルスは振り返って公太郎を睨み付けてきた。
「後悔するのはお前の方だ! 姫様への無礼、このファイタンが晴らしてみせる!」
「家の中で戦っては村長に迷惑が掛かります。表に出なさい。わたしの特大魔法をお見せしましょう」
「迷惑が掛かるほどの戦いになるとも思えんが、やられる場所ぐらいは選ばせてやるか」
公太郎はファイタンとマホルスとともに表に出ていった。
それを村長は心配そうに、フィオレはすました顔で見送った。
少しの戦いの音の後に、外はすぐに静かになった。村長は不安気な顔でフィオレに声を掛けた。
「あの者は大丈夫でしょうか?」
フィオレの態度は落ち着いていた。
「大丈夫でしょう。ファイタンとマホルスは城の中でも手練れの者。一般の方への手加減も心得ているはずです」
「そうですね。あまり村で騒ぎは起こしてほしくないものです」
そう話していると玄関から人が入ってくる足音がした。
「あ、帰ってきたみたいですよ。早かったですね。どうでしたか?」
扉を開けて勝利者が部屋へと入ってくる。その姿を見て落ち着いていたフィオレの表情が変わった。
「どうもこうもねえよ。まあ、予定通りってやつだな」
そこに立つ公太郎の姿を、フィオレは厳しい目で見つめた。
「あなた、何者なんですか?」
「フッ、知らないなら教えてやろうか。俺は公太郎だ」
「公太郎?」
「いや、今はあえてこう言おうか。新生公太郎と」
「新生公太郎」
「ああ。分かったら表に出ようか。こんな茶番はさっさと終わらせちまおう」
「そうですね。わたしには使命があります。こんな茶番劇は早く終わらせてしまいましょう」
公太郎とフィオレはお互いに不敵な笑みを浮かべて睨み合った。
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