君への願い

サタケモト

第1話


恋というものは、気付いた瞬間からはじまるらしい。



恋の名言は、世間にたくさんあって、書物の中やインターネット上のおびただしい情報量の中から自分にあった恋の手ほどきを調べ出す。


探しているあいだは相手のことを忘れることが出来て、気持ち的に楽になるのか、それとも相手のことを考えていることにつながって、その時間が楽しいのか、そこらへんはよくわからない。


「異性なんてこの世には星の数ほどいるのに、誰かひとりを選ぶなんて不思議なことだと思わない?」


「ほら、星はたくさんあるけれど、届かないじゃないか。だからキラキラしている異性なんて手に入らないも同然だね。手元にある、暗くて地味なものがちょうどいいんだよ」


「”月がきれいですね”を夏目漱石ふうに?あーあー、たしかに月はきれいさ。月の裏に含まれる意味なんて考えたくないね。じっくり見たらクレーターだらけじゃないか」


ロマンチストはすぐに、星や月といった象徴的なものを引き出してくるから正直、反吐が出る。


ので、あえて夢を失くすようなことを言うようにしている。



引き出してくるわりには、惑星学、天体力学、位置天文学、銀河天文学、インフレーション理論、星形成論、恒星進化論、天体物理学、一般相対性理論、観測天文学、ガンマ線天文学、赤外線天文学、電波天文学、紫外線天文学、X線天文学、ニュートリノ天文学、高エネルギー天文学、宇宙生物学、宇宙化学、日震学、宇宙論などを用いるものではない。


”男性とはああいう生き物で、女性とはこういう生き物である”という、そんな短絡的なものにしか結局、行き着かない。


”惹かれない”というよりは理解できないのだろう。


男女関係だって究極的にそうだ。


気難しい人間なんて言うのは、嫌煙されてしまうに決まっている。



気難しいと相場が決まっているのは、大概偉人であり、蔑称は変人だ。


その名言を述べた偉人とやらに、言い切ってもらい、極論を述べられることに安心している自分がいる。


偉人は偉業を成し遂げた人で、学業であったり、そのほか才能豊かな人間ばかりだ。


そんな人たちだって、恋愛においては、みんな同じ。


みんな、同じように想いどおりにならなくて苦しんでいたりしていたようだ。


だれかの後押しが欲しくて友だちや周りの人間に相談したり、同調や共感をしてもらいたくて、惚気けたり。


そのなかには他人からどう見られるかだけを重視した恋もあって、ぼくはそんな恋があまり好きではなかった。



たとえ一時的であっても、その刹那だけでも、本気で夢中になれるのがいい。


どうせすべては一過性である。持続のしようがない。



そんなことに対して絶望的になったり、夢見がちに願っていたりするから、あっという間に恋に落ちてしまったときは、どうすればいいのだろうとただ狼狽する。



持ち合わせる手札もない。




恋には、罠が多い。ゆえに、怪我も多い。



ぼくは常日ごろ、自分が恋によって怪我だらけになってしまいそうだと予感をしていた。


ぼくは、恋多き人間なのかもしれない。


恋が多いくせに、頭のなかではあれやこれやと考えてしまっている。


頭のなかであれやこれやと考えている恋が好きなのか、ただ踏み出すのが苦手なのか、怪我を負うのがいやなのか、もうわからなかった。





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