第7話 古代文明の遺跡調査②


「それじゃ、開けるっすよ?」

「ああ」

「了解です」

「はてさて、これほどの大扉じゃ。先はどうなっておるやら」


 カズヨシが見事、スケルトン・ロードを打ち破り、ウィクラテスとしばらくはしゃいだ後、全員が集まって扉を見つめている。


 「門番」が居たのだから、この先に何かしらの変わり種があってもおかしくはないはず。

 特に変わった気配が感じられるわけでもないが、一応注意はしておかねばな。


 そして、重々しい音と共に大扉が開いた。


 その先に広がっていた光景は……。



「さっ……」

「「「寒い~~ッ!!」」」

「そうか?」


 なんと見渡す限りの大雪原だった。おまけに激しく吹雪いており、突然季節が冬に変わってしまったかのようだ。

 面白いな。これはどういう仕組みでこうなっているのだろう。



「ちょっ、防寒着なんて持ってきてねえんだけど!?」

「れ、霊術じゃっ! 霊術で暖まろう!」

「寒い寒い寒い~~ッ!! こ、凍え死んじゃうよッ!」

「うぅ、寒すぎて上手く集中できぬ……!」


 私を除いたパーティー一同が揃って悲鳴を上げる。何を大げさな、とは思うが、まぁ人間だものな。仕方ないか。

 軽くため息を吐きつつも、注文通り霊術で全員に耐性を付けてやり、ついでに気温も上げることで助けてやった。


「これでいいか?」

「あ、ありがとっす!」

「す、すまぬっ!!」

「助かった~! ってフィオグリフ、さりげなくとんでもないことやったよね!? 気温を自在に操るとか、何事!?」

「細かいことは気にするな。ついでに耐性も付けてやったからもう寒く感じる事はないしな」

「そ、そう? まあ、いっか……いいのかな?」


 何故か土下座で感謝されながら、改めて周辺の気配を探ってみる。


「近くに魔物の気配は無いが、少々離れたところにまた異界種が居るようだ。オマケに先ほどのものより手強くなっている。避けた方が無難だな」

「うげっ、マジっすか? 是非ともご遠慮願うっす。見つからないようにゆっくり行きます?」

「いや。うろちょろと徘徊しているようだから、急いで離脱した方が賢いだろう。幸い、この雪原はかなり広いようだしな」

「そうじゃな。ちんたらしている間に目を付けられたら厄介じゃ」

「じゃあ、どっちに行く?」


 雑兵のワンランク上程度だから、正直余裕で倒せるのだが、今はカズヨシを連れているからな。うっかり死なせてしまっては困るし、多少遠回りでも確実に進んだ方がいい。

 となると、方向は……。


「こっち、だな。ついてこい」

「うっす」

「吹雪いてさえなければ良い景色が見れそうなのになぁ……。残念」

「英雄よ。おぬし、あまり働いていないくせにやたら偉そうじゃな……。いや、先ほどは助かったがの?」

「…………」


 ウィクラテスの小言をスルーしつつ、異界種と遭遇しないように一同を先導していく。

 そろそろ私も戦闘に参加した方がいいかもしれんな。あんまり何もしていないと実力を疑われかねん。


 しかしまぁ、本当に酷い天気だな。遺跡の中なのに天気と言うのも変な感じがするが。こうまで吹雪いているのは、やはり侵入者対策なのだろうか?


「む、敵か」

「い、異界種って奴すか!?」

「いや」

「アレは……って、えぇええええ!? なんでこんなところにエンシェントドラゴンが!?」


 遙か遠くに見える巨体を確認したクリスが叫ぶ。異界種を避けるために迂回ルートを通った結果、エンシェントドラゴンが行く道を塞いでいたのである。

 異界種を嫌がって避けてしまうと、今度は強力な魔物が挨拶してくるというわけか。もし、この遺跡を作ったであろう古代人によって魔物たちが配置されているのなら、なかなか性格が悪い輩なのだろうな。並の人間ならここでゲームオーバーだ。


 そう。並なら、な。


「い、いかんぞ! エンシェントドラゴンは危険すぎる! 急いで引き返して、別の道を探すべきじゃゾイッ!!」

「エンシェントドラゴンっつったら確か、ドラゴンの中のドラゴンだろ!? なんでこんな遺跡なんかに居やがるんだよッ!」

「一匹ならまだ、やれないこともないと思うけど……。でも、あんまり騒ぐと異界種にかぎつけられちゃうかもしれないし……。ああ、もう! フィオグリフ、逃げよう!」


 ウィクラテスが、カズヨシが、クリスが、揃って騒ぎ出す。何気なく聞いていたが、どうやらクリスはエンシェントドラゴンが相手でも勝てるっぽいな。あくまで言葉を聞いただけなら、だが。まぁ奴の実力からして当然か。


「ちょうどいい。お前たちはここで待っているといい。私が片付けよう」

「えっ!?」

「な、何言っとるんじゃ!?」

「だ、大丈夫なの!?」

「私を誰だと思っている? 邪神を倒した男、“皇国の英雄”フィオグリフだぞ?」


 信じられないものを見た、とでも言いたげな表情で固まっているクリスたちを放置し、私はスタスタと歩いていく。当然、その先にはエンシェントドラゴンが大口を開けて待ちかまえていた。



【止まれ。ここから先は偉大なる九星神様の宮殿が一つに繋がる、神々にのみ足を踏み入れることを許された道。貴様のような矮小な人間が立ち入ることは叶わぬ】

「ほう。トカゲの分際で言葉を解するか。どこぞのバカトカゲにも見習ってほしいものだ」

【止まれと言っておるのがわからぬか、人間】

「ふん」


 大分近付いたあたりで、エンシェントドラゴンが私に語りかけてきた。霊話術を使ったのだろう。リリナリアと初めて出会った時のことを思い出すな。尤も、奴はこんな尊大な喋り方ではなかったが。


 それにしても……。



「九星神だと?」

【そうだ。我のような神竜をはじめ、様々な生物をこの世に産み落とした偉大なる九柱の神々だ。知らぬとは言わせぬぞ】

「神竜? 貴様は、エンシェントドラゴンではないのか?」

【エンシェント……? 知らぬな。そんな間抜けた響きのモノと、我を一緒にするな、人間】

「何……?」


 おかしい。何かがおかしい気がする。


 九星神? 神竜? 知らんぞそんなもん。それに、このトカゲが、エンシェントドラゴンではないだと?

 ……妙、だな。


【気は済んだか】

「いや。むしろ少々興味が湧いてきたところだ。もっと貴様や九星神とやらについて聞かせてもらおうか」

【そうか。だが人間ごときにこれ以上費やす時間など無い。引き返すつもりがないのなら、死あるのみ! 失せよ、人間ッ!!】

「ふむ、そうか」


 サービス精神というやつを持ち合わせていないらしい。偉ぶっていても所詮はトカゲか。ならばもっと奥地に進んで調べるのみ。

 さっさと殺すとしよう。


【ガァッ!!】

「フィオグリフッ!!」


 神竜とやらが口を大きく開け、息を吸い込んだ。このままブレスで焼き尽くそうという腹だろう。どうでもいいが。


「リミッター、全解除。失せろ、トカゲ」


 私の力を、存分に見せつけてやらねばな。ウィクラテスやクリスに。カズヨシはまぁ、たぶん見てもよくわからんだろう。


【な、なんだ、この異常な霊力は……!】



 剣を抜き、味方に当たってしまわないように注意しつつ、振る。



【がっ】



 神竜とやらの首が飛び、斬撃はそのまま突き抜け、雪景色の向こうにあった山々を斬り飛ばす。ついでにたまたま攻撃範囲内に居た魔物たちも切り裂き、無数の霊力が消えていった。



「……少々、やりすぎたか? 私、うっかり」



 しまった。つい張り切りすぎてしまった。これではミルフィリアの奴と大差無いではないか。いや、大丈夫だ。私が及ぼした影響はこのフロアの中だけに留まったはず。あの狂人ツインテールのように世界そのものをやっちまったりはしていない、はず、だ!


 ふと、後ろを振り向いてみる。



「……ええぇえええええ!?」

「あ、ありえぬ……ゾイ……」

「山が全部、斬れたんすけど……?」



 あっ、やっぱりダメか。

 クリスたちが呆然としている。


 ……うむ。


「さて。進むか?」


 さも何事もなかったかのように笑いかけ、できる限り爽やかに言ってみた。



「ちょい! 今の何!? どういうこと!? 何が起きたの!?」

「落ち着けクリス」

「落ち着けないよ! 何なの今の!? なんかドバーって霊力が噴き出たと思ったら、剣を空振って、そんでいきなりいろんなものが斬れてっ! 説明! 説明してよっ!」



 ダメだった。

 いち早く再起動したクリスが猛スピードで私に駆け寄ってきて、矢のように疑問をぶちまけてきた。


 うーむ。こいつなら同じ事ができそうなものだがなぁ?


「全て斬った。お前にもできると思うぞ?」

「できるかぁッ!!」

「そうか?」

「やるにしてももっといろんな準備が必要だし! それでも霊術でやるし! ただの斬撃で辺り一帯斬り飛ばすとか無理だから!」

「そ、そうか。まぁとりあえず落ち着け。無事に終わったのだから良いではないか。あんまりうるさいと揉むぞ」

「なんでそうなるの!? っていうか人前でそういうこと言わないのっ!」

「人が居なければいいのか」

「ち、ちがっ! そういう意味じゃ……」

「では進むか」

「あっ!? ま、待ってよ~!」



 こうして、やたら偉そうに出てきた神竜とかいうトカゲは一瞬で退場し、私たちは無事に遺跡の調査を再開する事となった。


 尚、悲しい事に何故かウィクラテスとカズヨシがやたら余所余所しくなってしまった。なんというか、無駄に畏まってしまったのだ。特にウィクラテスは似合わない敬語を使ってきたりなんかして、正直不気味である。

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