第4話 暗黒神様、頭痛に襲われる


 依頼の達成を報告するため、アレクサンドル卿の屋敷に行くと、異様に静まりかえっていた。もっと、お祭り騒ぎにでもなっているかと思っていたのだが。

 不審に思いつつ、アレクサンドル卿の部屋を目指す。


「何故こんなに静かなのだ?」

「メイドさんたちは居たし、普通に働いてたみたいだから、何かよからぬ事が起きたとか、そんなわけではなさそうだね~」

「ま、あの筋肉ジジィに聞けばわかるじゃろ」

「そのような野蛮な表現は慎んでいただきたいですね」

「うるさいのう、ちびっ子め」

「ち、ちび……!?」

「よさないか、アシュリー。リアは私にとって娘のような存在なのだぞ」

「フィオグリフ様……」

「だってさ、リアちゃん! よかったね!」

「合流すると、うるささ百倍ね……」

「あ、ご主人様。見えてきましたよ」

「うむ」


 広い屋敷がこうも静まっていると、我々の会話が響く響く。そのせいでいつもよりやかましく感じる。

 それはそうと、無事にアレクサンドル卿の部屋まで着き、ドアを軽くノックした。


「フィオグリフ殿たちじゃな?」

「はい」

「入りたまえ! 報酬は既に用意しておる!」

「失礼します」


 あの儀式からレンが生還した事がよほど嬉しいのか、老人の声は明るかった。部屋に入り、彼の顔を確認してみるが、やはり嬉しそうだ。

 また椅子が用意してあったので、遠慮なく座らせてもらおう。


「お孫さんの護衛、完遂しました」

「うむ、よくやってくれた! 今は孫も疲れて寝ておるが、無事に戻ってきてくれたわ! お主らのおかげじゃ!」

「いえ、仕事ですから」

「ほほ、そうじゃのう。じゃが、何度感謝してもしきれんよ! それだけ、今回の件は儂らにとって重要なモノじゃったからのぉ!」


 我々を代表してプルミエディアが応対しているが、老人は本当に嬉しそうにしている。机の上にハンカチが置いてあるあたり、もしかしたら嬉し涙を流していたのかもしれん。

  それにしても、レンは寝ているのか。つまり、奴を起こさないために、屋敷の皆が静かにしているのか?


「さて、これが今回の報酬じゃ!」

「ケース入り、ですか」

「うむ!」

「この場で確認しても?」

「もちろん構わぬよ!」

「レラ」

「はい、ご主人様」


 アレクサンドル卿からの許可も得たことだし、頑丈そうな箱に入っている、報酬の中身をレラに確認させてみる。


「これは……総額、50万Cコームといったところですね。いくらリスキークエストとはいえ、少々額が大きいのでは?」

「気持ちじゃよ、気持ち。遠慮せずに受け取ってくれぃ」

「それでは、ありがたく」

「うむ! オフィスへの報告は儂の方で済ませておくから、お主らも帰ってゆっくり休むと良いぞ!」

「ありがとうございます」


 プルミエディアと二人で、パイロヒュドラを倒した時もリスキークエストだったはずだが、あれの報酬は確か5万Cコームだったと思う。それと比べれば、いくらランキングが上がったとはいえ、随分と高いな。

 血闘でボロ儲けしたから、金には困っていない。とはいえ、まぁあるに越したことはあるまい。ちなみに、我々の所持金は全て異空間に保管してある。アレは、持ち歩くには少々重すぎるからな。


「それでは、なすべき事も終わりましたので、我々はここで失礼させていただきます」

「本当は引き留めたい所じゃが、そうもいくまいな。じゃが約束しよう! この先、何か困ったことがあれば、いつでも来るが良い! 我らイシュディア家がお主らを助けようぞ!」

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いしますね」

「うむ! あ、暇なときでも良いから、たまには顔を出してくれぃ。レンとシイナも会いたがっているじゃろうしな」

「わかりました。それでは、失礼します」

「達者でな!」


 会話の応酬を適当なところで切り上げ、ミリーナの隠れ家へと帰る事にしたらしい、プルミエディア。まあ、依頼は終わったのだし、長居は無用だからな。ついていくとしよう。




「ふぅ、終わった終わった」

「疲れたね~」

「あれ、フィリルはどこに?」

「さて、では私は食事の用意でも……」

「フィ、フィオグリフ様っ! ご褒美をくださいっ! ご褒美、ご褒美!」

「まずは飯を食ってからだ」

「あうぅ……我慢、我慢じゃぁ……」


 ちょっとしたハプニングはあったが、なんとか無事に終わったな。レンもきちんと生還したし、我々も誰一人欠けていない。おまけに報酬もたんまりもらった。終わってみれば、なかなか有意義な体験だったな。

 さて、ミリーナの隠れ家に帰ってきたはいいが、留守番をしているはずのフィリルはどこへ行った?

 彼女を探し、なんとなく食堂へと足を運んでみる。すると、呆気なく見つかった。見つかったのだが……。


「あ、フィオグリフさ~ん。お待ちしてましたよっ!」

「ご主人さま、おかえりなさいです~♪」

「あれ? なんか増えてる?」

「ああ、先に食べていたのですね」

「どなた……?」

「ま、また女かの!?」

「……何故ここに……」


 さも当然のごとく椅子に座り、テーブルの上に用意された料理を貪っていたのは、フィリルと、もう一人。


「フィオグリフさんっ! 早速報告で~す!」

「……後でな。まずは食おう」

「ま、まさかボクを!?」

「料理を、だ。バカトカゲが」

「トカゲ……?」


 プルミエディアが気絶している内に出会い、私が呪いをかけて人間にした、元エンシェントドラゴン。

リリナリアであった。


 報告か……。

なんだか嫌な予感がする。

心なしか、頭が痛くなってきた気もする……。


 いや、まずは飯だ。飯を食おう。

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