257話「公の秘密」
フラムの膝をじっくり堪能していると、いつの間にか陽が傾き始めていた。
手は・・・・・・動く。足も・・・・・・動く。身体はある程度回復してきている。
全身に痺れた様な感覚は残っているものの、何とか動けそうだ。
心の中でフラムの膝枕を名残惜しみながら、ゆっくりと起き上がった。
「そろそろ戻ろうか、フラム。あんまり遅いとみんなが心配するだろうし。」
「動いて、大丈夫・・・・・・?」
「うん、大丈――っ!」
「ァ、アリス・・・・・・!?」
足元がフラついたところをフラムが咄嗟に支えてくれ、倒れることは免れた。
「ちょっとフラっとしただけ。ただ・・・・・・肩はそのまま貸して欲しいかな。」
「ぅ、うん・・・・・・はやく帰ろう?」
フラムの肩につかまったままヒノカの家の方へ向かって歩き出す。
俺を抱えているにも関わらず、その足取りはしっかりとしている。
「フラムも結構体力ついてきたよね。」
「そ、そう・・・・・・かな?」
「以前だったら、こうやって私を抱えて歩くなんて出来なかったでしょ?」
「で、でも・・・・・・アリス、軽いから・・・・・・。」
軽い、か・・・・・・。
隣にあるフラムの顔を見上げた。
と、ちょうどフラムと目が合い、彼女が頬を染める。
「ど、どうしたの・・・・・・?」
「フラムもおっきくなったなぁと思って。」
最初は同じくらいの背丈だったのだが、今では頭一つ分くらい抜かされている。
その頃は普通の子よりかなり小さくて年相応には見えず、下手したら俺と同い年と言われても分からなかったくらいだ。
今は平均値よりもやや小さめではあるが、ちゃんと年相応に見える。
「お、大きい・・・・・・。」
今度はしゅんとうな垂れてしまう。
「い、いや太ったとかそういう意味じゃなくてね!? 健康的になったなって事だからね!?」
「健康、的・・・・・・?」
「ほら、初めて会った頃は心配になるくらい細くて小さい身体だったから。今はもうそんな心配しなくて良くなったね。」
「そ、それはきっと・・・・・・アリスの、おかげ・・・・・・だよ。」
「え、なんで? 鍛錬とか頑張ったのはフラムでしょ。」
「でも、ァ、アリスが居なかったら・・・・・・頑張れなかった。」
「みんなには迷惑かけてばっかりだから、そう言われると嬉しいよ。」
「み、みんなも・・・・・・きっと同じ、だよ。」
「その割には怒られてばっかりな気がするけど、あはは。」
「そ、それは・・・・・・ぁぅ・・・・・・。」
怒られてばっかりなのは否定してくれないのね・・・・・・。
「それよりさ、明日からも特訓に付き合ってくれると嬉しいんだけど・・・・・・ダメかな?」
「ま、まだする・・・・・・の?」
「うん、あの魔法はどうしても使いこなせるようになりたいからね。」
「どうして、そこまで・・・・・・?」
「今回の旅で色々と思い知らされたからね・・・・・・。」
結局自分は魔力が多いだけのただの人間に過ぎないのである。
そりゃあ一山いくらの冒険者たちに比べれば、彼ら以上に実力はあると自負している。・・・・・・が、所詮はそこまで。
なにせ”普通の人間”であるトモエお師匠さんにでさえあの様なのだ。
ヘルフをはじめとする獣人族や、まだ会った事の無い種族、見たことも無い魔物。
それらすべてが友好的であるとは限らないのだから、手札は多い方が良い。
「でも今日みたいにならないようには気を付けるから安心してよ。」
いきなりトモエお師匠さんのレベルで魔法を使ったのがいけなかったのだ。
まずは極小範囲で身体を慣らしながら鍛えていけば良いだろう。
触手だってコツコツと練習を重ねて使えるようになったんだし。
「ぅ、うん・・・・・・わかった。」
次の約束を取り付けつつ帰り道を歩いていると、ようやくヒノカの家が見えてきた。
その玄関先には眉を吊り上げたリーフが立っていた。
こちらの姿に気付くと、慌てて駆け寄ってくる。
「ど、どうしたのよアリス! 一体何があったの!?」
フラムの反対側から俺を支え、覗き込むように聞いてくる。
・・・・・・嘘は通用しそうにないな。
「え、えーと・・・・・・秘密の特訓をしてたら失敗しちゃって・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・何やってるのよ、貴女は!!!」
うぅ・・・・・・やっぱり怒られた。
*****
翌日、俺とフラムはリーフから許可を貰って昨日の河原へ来ている。
”秘密の特訓をする時は必ず誰かと一緒にすること”がリーフに許可を貰える条件だ。
秘密とは一体・・・・・・。
まぁ、元々フラムには付いていてもらう予定だったし、特に問題は無いのだが。
「ァ、アリス・・・・・・身体は、平気?」
「うん。一晩寝たらすっかり良くなったよ。退屈かもしれないけど今日もよろしくね、フラム。」
昨日と同じ岩に腰を掛け、集中を始める。
魔力を広げるのは指先のほんの少しの空間。
それでも夥しい量の情報が流れ込んでくる。
・・・・・・なるほど、こんなのを一気に広げたらそりゃあ倒れるわ。
流れ込んでくる情報の一部を遮断してみたり、また再開させてみたりと制御を加えてみる。
やはり情報量を減らせば減らすほど身体への負担は軽くなるようだ。
これを繰り返して、必要な情報だけを取得するような魔法に改良していくのが良いだろう。
ただ、残念ながらこの魔法は感覚に頼る部分が大きいため、教えたり教えられたりといった事は出来なさそうだ。
身体の内部に働きかける身体強化と違って、外部に干渉する魔法だから魔力の制御も難しい。
「・・・・・・ふぅ。」
魔法を止め魔力を解放すると、流れ込んでいた情報がピタリと止み、まるで何もない空間に独り残されたかのような錯覚に陥る。
「だ、大丈夫・・・・・・? すごい汗だよ?」
その錯覚から助けてくれたのはフラムの声だった。
彼女の指摘で服の中がぐっしょりと濡れていることに気付く。
十分も経っていないのに、どうやらかなり体力を使ってしまったらしい。
「うん・・・・・・ありがとう、フラム。今日はこれくらいにしておくよ。」
「も、もういい・・・・・・の?」
「思ったより疲れるみたいだから、無理はしないようにするよ。・・・・・・また怒られちゃうしね。代わりに、今日は二人で村の中を見て回ってみようか。」
「ほんとに・・・・・・!?」
「たまにはね。どうする、フラム?」
「い、行こう・・・・・・!」
というわけで、この日は久しぶりにフラムとデートをすることになった。
特に観光スポットのようなものもない村だったが、旅人の往来があるおかげで食事処は粒ぞろいで、楽しい時間を過ごすことができた。
そのせいで帰りが遅くなって怒られてしまったのはお約束。
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