147話「恋愛禁止は禁止」

「調子はどう、リタ?」

「は、はい! 問題ありません、姫騎士さま!」


 ヨタヨタと松葉杖をつきながら杖姉妹の姉、リタが答える。

 中々に危なっかしい感じだが体調は悪くは無さそうだ。

 額には玉の汗が浮かび、フリフリの超ミニスカメイド服から生えた太腿が日を浴びて輝いている。


「がんばって、おねえちゃん!」

「う、うん・・・・・・!」


 妹のリコの声援を受け、松葉杖と”両足”を使ってゆっくりと前に進むリタ。

 真っ白なニーソックスを履いていない方の膝下に着けられた義足が地を踏みしめる。

 彼女は所謂リハビリ中というやつである。


「あんまり無理はしないでね。」

「い、いえ! せっかく姫騎士さまに作って頂いた物ですから!」


「私が作ったのは一部の部品だけなんだけどね・・・・・・。」


 設計は誰かは分からないが、魔女の一人。

 俺はリタの主治医から渡されたその設計図を元に、指定された部品を土から作っただけだ。


 まさかネジの一本々々まで作らされるとは思ってなかったが。

 そして、それらの部品は極限まで中抜きして軽量化を図っている。

 何故そこまでして軽量化が必要だったのかと言うと――


 ――カチッ!


「あっ――」


 ――ヒュンッ!!


 風切り音とともに、義足に仕込まれた刃が飛び出した。


 この仕込まれた暗器のおかげで軽量化が必要だったのである。もちろんコレ一つでは無い。

 彼女が身を守れるように・・・・・・というのは建前で、確実に設計者の趣味だろう。

 もし作るのが義手であったなら、サイコなガンを仕込んでいたに違いない。ヒューッ。


 そしてリタが超ミニスカを履いている原因でもある。

 いつもの長いスカートだと、引っ掛かってズタボロになってしまうのだ。・・・・・・なってしまったのだ。


 かなり恥ずかしがっていたが、義足を使いこなせるようになるまでは仕方がないだろう。断じて俺の趣味ではない。

 危険なので、リコには義足側に立たないようにと厳命してある。


「おねえちゃん、だいじょうぶ!?」

「う、うん・・・・・・平気だよ。」


 リタはふりふりエプロンのポケットから取り出した義足の取扱説明書を広げ、横にしたり逆さにしたり悪戦苦闘しながらも、なんとか飛び出した刃を納めた。

 まぁ、その間に他のも飛び出してしまったワケだが。

 ・・・・・・前途多難だな。


「ちょっとアンタ!」


 いきなり声をかけられ、振り向く。


「サラ・・・・・・どうしたの?」

「話が・・・・・・あるの。」


「いいよ、何?」

「・・・・・・・・・・・・来て。」


「・・・・・・え?」

「わ、私の部屋まで来てって言ってるの!」


「えーっと、ここじゃダメなの?」

「ダ・・・・・・ダメだから言ってるの!」


「うーん、今は二人を見てるし・・・・・・後でいい?」

「だ、ダメ!!」


 困ったな・・・・・・サラは何か切羽詰まったような感じで、たんなるワガママという雰囲気ではない。

 昨日あんな事があったばかりだしな。

 かと言ってリタを放っておくわけにも・・・・・・。


「行ってきて下さい、姫騎士さま。」

「いや、でも・・・・・・。」


「これから先、ずっと姫騎士さまに甘えさせて頂く訳には参りませんし・・・・・・それに、先生の所でも何度か練習しているので大丈夫です。」

「・・・・・・分かったよ。けど、何かあったら急いで私を呼びに来てね、リコ。」


「うん!」

「サラも、それで構わない?」


「分かったわよ・・・・・・。その・・・・・・ありがとう、リタ。」

「気にしないで下さい、サラサさん。」


 二人に別れを告げ、サラの後ろについて歩く。

 その間サラが口を開く事はなく、気付けば彼女の部屋の前まで来ていた。

 扉を開いたサラの後を追い、部屋の中へ入る。


「おかえりなさい、お嬢様。それと、ようこそおいでくださいました、ご主人様。」


 部屋で俺たちを出迎えたのはソフィだった。

 サラとソフィの二人部屋だから当然といえば当然なのだが。

 サラが椅子に座ると、俺は何故か椅子に座ったソフィの膝の上に座らされる。・・・・・・うむ、柔らかい。


「えーっと話って・・・・・・ソフィはいいの?」

「ソフィアは構わないわ。」


「それじゃあ、改めて・・・・・・話って何かな?」

「アンタ・・・・・・私のご主人様なのよね?」


「うん、まぁ・・・・・・一応そうだけど。」

「だったら、責任取りなさいよ!」


 そう言ってサラが俺の目の前に突きつけたモノに視線が釘付けにされる。

 いくら俺がDTと言っても知識が無い訳ではない。

 目の前にあるコレは女の子同士で「昨夜はお楽しみでしたね」をする為の玩具である。であるが・・・・・・。


 何この双頭極悪極太龍(アルティメットドラゴン)。


 木彫りで作られているが、トゲなどが刺さらないようパーツの一つ一つまで丁寧に磨き上げられ、ツヤツヤと妖しく光を反射している。

 所々が球体関節のようになっており、ある程度は動かせるらしい。

 両先端は男のアレを模して作られているが、刺激を高めるためかツノの様な小さな突起がいくつも生えている。


 あと、デカい。デカい。

 いや・・・・・・無理無理無理無理!!

 無理だろこんなの!


「せ、責任って・・・・・・。」


 俺の問にソフィが答える。


「ええっと・・・・・・ご主人様のモノに手出しは出来ないって、中ボスさんにフラれてしまったみたいで・・・・・・。」


 あぁ・・・・・・それで自棄になったのね。


「てか・・・・・・ソレどうしたの?」

「・・・・・・ソフィアに借りた。」


 なんてモノを隠し持ってんだ・・・・・・。


「えーっと、中ボスも勘違いしているみたいだから言っておくけど・・・・・・私は別に恋愛禁止なんて言ってないからね? サラが奴隷だからって無理矢理襲うのはダメだけど。」

「それ・・・・・・ホント?」


 そもそも奴隷管理局に登録されている奴隷には基本的人権みたいなものが認められている。

 当然、恋愛禁止なんてのも禁止である。


 だが、それを主どころか当の奴隷達でさえ理解していない有様なのだ。目の前のサラのように。

 管理局も指導などを行っているが「奴隷に対する認識の相違」というものがあまりにもデカ過ぎるのが問題だろう。


「中ボスにも伝えておくから、後は二人で話し合って。」


 そもそも二人がくっついてくれれば、サラを奴隷にしておく必要無いんだけど・・・・・・。


「あの、ご主人様・・・・・・それは、私も・・・・・・ですか?」

「ソフィは私の奴隷じゃないんだし、それこそ自由にして良いんだよ。」


「ホントに・・・・・・良いんですね?」

「だから良いって・・・・・・ひぁっ!? ど、どこ触ってんの!?」


「私、ずっと我慢してたんですよ? ご主人様とのこと・・・・・・。」


 後からムギュっと抱きつきながらも、服の中で蠢くソフィの手は止まらない。

 彼女の吐息が首筋や耳裏に掛かり背筋がゾクゾクと震える。


「・・・・・・コレ、返しておくわね。」


 サラが手に持っていた双頭極悪極太龍(アルティメットドラゴン)を机の上にそっと置いた。


「それと・・・・・・リタ達の様子を見てくるから、暫く戻らないわ。」


 部屋から出て行くサラ。

 いやぁあああああ! 置いてかないでぇええええ!

 心の叫び虚しく、ソフィの指先に絡め取られる。


「ひゃあっ!? ソコ、だめ・・・・・・って!」

「ご主人様・・・・・・感じやすいんですね?」


 とりあえず、貞操だけは死守した。

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