114話「火と水と」
週が明けて二年生たちの課外授業の初日。
二年生たちの先導を終えたあと、三年生組は2~3人ごとに分けられ、二年生パーティへ割り当てられる事となった。
俺たちのパーティはヒノカとニーナ、リーフとフィー、そして俺とフラムとサーニャの3チームに。
チーム分けが決まれば、振り分けを行っている列へ並ぶ。
立ち止まって雑談する間も無い程、列はサクサクと進んでいく。
「それじゃあ、行ってくるわね。貴女たちも頑張って。」
担当の決まったリーフがフィーを連れてその場を離れる。
次にヒノカたちの担当もすぐさま決まった。
「では行くか。そちらも気を付けてな。」
次は俺たちの番。
割り振り担当の恰幅の良い女性の先生が、コホンと咳払いする。
「あなた達は三人ね?」
「はい。私がアリューシャで、こっちが使い魔のサーニャです。」
「ゎ、私・・・・・・は、フラムベーゼ・・・・・・イ、イストリア・・・・・・です。」
俺たちの名前を確認し、先生が手元にあるリストに目を落とす。
「あら、丁度良いわね。あなた達には11番の子達をお願いするわ。」
「分かりました。」
俺たちもその場を離れ、広場を見渡して言われた番号のパーティを探す。
二年生の子たちは皆番号の書かれた大きなゼッケンを身に付けているので、すぐに見つけられるだろう。
よくよく考えると、後輩と直に触れ合う機会はこれが初めてだ。
魔道具科には居ないからな・・・・・・。
ふと、先に別れたリーフとヒノカ達が視界に入った。
彼女らはもう担当するパーティを見つけているようだ。
リーフ達は素直そうな女の子のパーティに、ヒノカ達は少々やんちゃそうな男の子のパーティにそれぞれ付いている。
どちらも感触は悪くなさそうだ。
「ぃ、居たよ・・・・・・。」
フラムが指した木陰の下で、制服の上に11番のゼッケンをつけた女の子が四人休憩をとっていた。
一人は手頃な岩に腰かけ、残りが地べたに腰を下ろしている。
なんともまぁ、力関係がはっきりとしていそうな感じだ。
年齢は四人とも13歳前後といったところか。
その四人に近づき、声を掛ける。
「こんにちは。11番のパーティはあなた達四人だけですか?」
「そうですけれど、貴女方は?」
岩に座っている女の子が、水色の髪をかきあげて答えた。
可愛い、というよりは綺麗な感じで、冷たい印象を受ける子だ。
腰には美しい装飾のついた細身の剣を下げており、力のある貴族であることが窺える。
髪よりも濃い青色の瞳で、刺すような視線をこちらへと向けてきた。
「あなた達のパーティの補佐役になりました。私はアリューシャ、こっちが使い魔のサーニャです。」
「ゎ、私・・・・・・は・・・・・・ぁ、あの・・・・・・その・・・・・・。」
俺に突き刺さっていた冷たい視線がフラムへと移る。
「お久しゅう御座います、”落ちこぼれ”のフラムベーゼ様。相変わらず挨拶もお出来になりませんのね?」
「ひぅ・・・・・・っ!」
うわぁ・・・・・・面倒臭そうな子だコレ。
「ぇーと・・・・・・知り合い、なの?」
「ぁ・・・・・・あ・・・・・・そ、その・・・・・・ぁぅ・・・・・・。」
極度に怯えるフラムの手を握り「大丈夫だよ」と言い聞かせる。
「小間使いの子が困っておられますわよ? フフッ・・・・・・申し遅れました、私はリヴィアーネ・アストリアと申します。」
「アストリア・・・・・・って確か”水の民”の・・・・・・。」
さっき割り振りしていた先生が丁度良いって呟いていたのはこの事か。
いやどう見ても良くねぇ・・・・・・正しく水と油じゃねーか。
「あらあら・・・・・・、随分と博識な小間使いを雇っておられるのですね。貴女の仰る通り、アストリア家は水の民の末裔・・・・・・そして私はそこの”落ちこぼれ”と同じく、始祖様の力を受け継いでおりますの。」
フラムと同じ様な力を持っている、ということだろう。
どの程度かは分からないが、水の魔法に関してはスペシャリスト以上の筈だ。
「えーと・・・・・・リヴィアーネ、さん。私は小間使いでは無いですし、フラムも”落ちこぼれ”ではありませんよ。」
「あら・・・・・・あらあらあら! それは失礼致しましたわ。フラムベーゼ様のお友達とはつゆ知らず・・・・・・。でも、良かったですわ。フラムベーゼ様にこんな小さいお友達が出来ていたなんて。とても良くお似合いですわよ。」
「えぇ、ありがとうございます。フラムはとても仲良くしてくれていますよ。」
「それで・・・・・・獣と田舎者の子供と”落ちこぼれ”で、私の何を補佐して下さるのかしら?」
一々棘のある言い方をする子だな。
田舎者ってのはまぁ・・・・・・その通りだけど。
きっと俺の名前でそう判断したのだろう。
この世界にもギリシャ神話のように神様が出てくる物語が数多くあり、その中にイアという神様が出てくる。
イアは美の女神で、それに肖って「美しい子に育ちますように」と名前の最後にiaの音を付けるのだ。
ウチのパーティだけでもフィーティア、ニーノリア、アリューシャの三人。
全員田舎者・・・・・・つーか同じ村出身じゃねーか!
獣人も同じ風習ならサーニャも該当するだろう。
ただ、現在では古風な・・・・・・悪く言えば古臭い名前なので、一部の貴族なんかには田舎者と揶揄される事もある。
まぁ、そんな相手に今更怒るのも馬鹿らしい。
「では・・・・・・まずリヴィアーネさんに私の力を示すというのはどうですか?」
「それは素晴らしい考えですわ。是非ともアリューシャ様のお力を拝見させて下さいまし。」
とりあえず、ボコって言う事を聞かせるのが一番手っ取り早いのだ。
*****
テントを借りてから二年生の子たちを連れて森の中へ入り、少し開けた野営地へと案内する。
流石に広場で勝負をおっ始める訳にはいかないしな。
「ここなら広さも申し分ないですし、如何でしょうか?」
「私は何処でも構いませんわ。・・・・・・ですけれど、まずは私の魔法をご覧に入れましょう。フラムベーゼ様の大事な小さなお友達、怪我をさせるのは私の本意ではありませんもの。」
冒険者風に言えば「怪我する前に降参しな、お嬢ちゃん」と言ったところか。
リヴィアーネは手頃な木に狙いを付けると、魔法を発動させた。
「”水弾(アクバル)”!」
リヴィアーネの手の先に拳大の水の球が生成され、勢い良く解き放たれる。
水弾はその勢いのまま狙いを付けた木の幹に着弾し、大きな音を立てて炸裂した。
どっしりとした太い木だったが片側が大きく抉れており、その方向へゆっくりと倒れていく。
言うだけの事はあって、中々の威力である。
「如何でしょうか、アリューシャ様?」
息が上がったりしている様子は見受けられない。
今のが本気、という訳ではないようだ。
「凄いですね。こんな威力の水魔法見た事ありませんでした。」
「フフッ、そうで御座いましょう? 降参なさるのでしたら――」
「いえ、大丈夫です。始めましょうか。」
「そう・・・・・・ですの。えぇ、構いませんわ。お手柔らかにお願い致しますね、アリューシャ様。」
俺とリヴィアーネは互いに距離を取って向きあい、静かに対峙した。
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