104話「自分との戦い」

<レディーース・エーンド・ジェントルメーーン!! 今宵も新たな試練への挑戦者が現われました!!>


 実況のインプの言葉に、観客席の魔物達が沸き立つ。


<挑戦者はなんと!! この8人の少女たち!!!>


 割れんばかりの歓声。

 まぁ、こういうのもたまには悪くないな。


<そして対するは・・・・・・そう、その少女たち自身です!!!>


 更に大きな歓声。

 俺達の正面にある入場門が開き、俺達と全く同じ顔、体格、服装をした2Pカラーの俺達が入場してきた。

 所謂コピー人間とか、ドッペルゲンガーとかいうやつだろう。

 ただ、全員が同じ長剣と盾で武装しており、ちょっと惜しい感じだ。

 キシドーとメイは魔物であるためカウント外となっているらしく、相手の中にはいない。・・・・・・この時点で数的には有利だな。


「ほう・・・・・・中々面白そうだな。私は”私”とやらせてもらって構わないか?」

「りょーかい。お姉ちゃんとニーナは?」


「・・・・・・”わたし”と戦う。」

「うぅ~・・・・・・ヒノカ姉がそうするなら・・・・・・。」


「分かったよ。でも、危なそうなら横から援護するからね。」

「ふっ、それはこちらのセリフだ。」


「あと”自分”とサシで戦いたい人いる?」

「あちしもやるにゃ!」


「他は・・・・・・居ないみたいだね。サーニャも気を付けて。」

「まかせろにゃ!」


 俺達はそれぞれタイマン組と邪魔にならないように離れる。

 どうやら向こうもそれに合わせてくれるようだ。


「こっちは私が前衛でキシドーが皆の護衛、リーフとフラムが援護でいいかな。」

「一人で大丈夫なの?」


「多分大丈夫かな。性能を試してみたいし、ラビのナイフ貸してくれる?」

「う、うん、頑張って!」


 ナイフを受け取って軽く数回振ってみる。

 ちゃんと攻撃判定は飛んでいるみたいだ。


<さぁ、両陣営とも準備が整ったようです!! 果たして、少女たちは自らを越える事が出来るのか!? その答えは今ここに明かされます!!!>


 あれだけ騒がしかった観客席が静まりかえる。


<レディ~~~~・・・・・・・・・・・・ファイッ!!!!>


 開始のゴングと同時に、強化した足で地を蹴る。

 一気に間合いを詰め、ナイフの”斬撃”を飛ばす。

 ”斬撃”はコピー人間たちを捉え、触れた瞬間、相手の身体は弾けて崩れ去った。


「うわー・・・・・・。やっぱ強過ぎるな・・・・・・これ。」


 ナイフを腰に戻し、自分の刀を抜く。


「それじゃあ、タイマンといこうか、超美少女ちゃん。」


 同じ顔をした相手を見据える。

 自分と戦うなんて、中々燃えるシチュエーションじゃないか。

 超美少女ちゃんが手を前に構えると、いきなり氷の矢が俺目がけて降り注いできた。


「うおっと!」


 慌てて迫ってくる矢を飛び退いて躱す。


「そうか、人の姿をしてても魔物ってことか。」


 だから詠唱が無い。

 威力は申し分ないが、からくりさえ分かれば対処は簡単だ。


 超美少女ちゃんがもう一度俺に狙いを付け、次の魔法を放つ準備に入る。

 同時に俺は触手で掌に集められた魔力を散らし、不発にさせてやった。

 やはり魔法は発動前に潰すに限るな。


 それなら、と相手は俺に向かって走ってくる。

 接近戦を挑もうという気なのだろうが・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・遅っ!!


 それもその筈、身体に似合わぬ長剣をズリズリと引き摺りながら走っているのだ。


「・・・・・・なんか、可哀想になってきた。」


 コピー人間はオリジナルの持つスキル的なものはコピーされておらず、代わりに魔法がそれなりのレベルで・・・・・・たぶん剣術もそこそこ使えるように設定されているのだろう。

 そして身体能力は体格に準じたものになっている。

 つまり目の前にいる超美少女ちゃんは、剣と魔法が達者な8歳児だということだ。

 問題は彼らの持つ得物が一律同じ長剣であること。

 普通の冒険者ならいざ知らず、目の前にいる華奢な超美少女ちゃんには唯の枷にしかなっていないのである。

 剣と盾を捨てて魔法だけで戦った方がよっぽど強いだろうが、そこまで頭は回らないらしい。


 そんな彼女らが俺達の敵になるはずもなく・・・・・・。

 開始早々コピー人間たちは全滅してしまったのだった。


*****


「全く・・・・・・何だったのだ、今のは・・・・・・。」


 パラパラと観客席から空しい拍手が響く中、呆れたようにヒノカが呟いた。

 相手が弱かったからというより、自分と同じ顔をした相手が不甲斐なかった事にいささか憤慨しているようだ。

 まぁヒノカぐらいの女の子にとっても、あの剣は重いだろうし仕方ないとは思うが。


 もし俺達が身体の出来上がった男性であれば、もっと苦戦していたはずだ。

 実際、探索者の割合はそんな人間が殆どだし、コピー人間の設定もそれに合わせて造られていたのだろう。

 俺達の様なパーティがここまで来ている事がイレギュラーなのだ。


「で、でも魔法は凄かったよ? ボク、疲れた~・・・・・・。」

「・・・・・・魔法、使ってこなかった。」


「ふむ、私の相手も使ってこなかったな。」

「あちしのところもにゃ!」


「えぇ~!? なんでボクのとこだけ~・・・・・・?」


 ヒノカ、フィー、サーニャの3人は基本的にスピードファイターで接近戦が得意だ。

 一気に距離を詰められたコピー人間たちは剣で応戦しようとして負けたのだろう。

 接近戦で魔法を使うのはセオリー通りとは言えないし、当然の対応なのだが。


 対してニーナは剣と魔法を織り交ぜて戦うミドルレンジタイプ。

 まずは魔法で様子見、というところで手こずってしまったのだ。

 それなら相手の体格も武装もさほど問題ではないしな。

 ヒノカ達の様にいきなり接近戦に持ち込んでいれば、ニーナも労せず勝てていただろう。


「さて・・・・・・、夏休みはもう少し残ってるけど・・・・・・どうする?」

「お金も余っているし、前みたいにここで過ごせば良いんじゃないかしら。」


「そうにゃ! こっちの方がおいしいもの一杯にゃ!」

「ボクもその方がいいかなー。」


「・・・・・・わたしも。」

「ふむ、そうだな。稽古するにもこちらの方が静かで良いだろう。」


「お母さんには少し遅めに言ってあるし、私もこっちがいいかな。」

「ゎ、私は・・・・・・アリスと一緒、なら・・・・・・。」


「満場一致、かな。」


 俺達は踵を返し、夏休み終了間近まで迷宮内に滞在するのだった。

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