99話「図書館の幽霊」
フラムの手を引きながら、鈴の音が鳴る方へゆっくりと近づいて行く。
どうやら向こうも少しづつ移動しているらしい。
本棚の間を覗きながら歩いていると、ついにそれと鉢合わせた。
その姿を見て「ひぅっ・・・・・・!」息をのむフラム。
「ぐすっ・・・・・・どぉしてぇ・・・・・・どぉしてみつからないのぉ・・・・・・。」
目の前に現れたのは、四つん這いで歩く裸の少女だった。
白い肌には無数の痣が浮かび、見ているだけで痛々しい。
彼女が一歩歩く度に首輪に付けられた鈴が揺れ、その音を響かせる。
俺は目線を合わせる様に少女の前に屈み、声をかけた。
「何を探してるの? 良かったら私も手伝うよ。」
「わたしの・・・・・・借りてた本・・・・・・ちゃんと持ってきてたのにぃ・・・・・・。」
「失くしちゃったの?」
「ひっ・・・・・・! ごめんなさい! ぶたないで・・・・・・いたいのはもう嫌なのぉ・・・・・・。」
少女は本棚にもたれかかるようにうずくまった。
「大丈夫、ぶったりしないよ。・・・・・・その傷は誰かにぶたれたの?」
「せんせいが・・・・・・ぐすっ・・・・・・わたしはわるいこだから、おしおきするって・・・・・・。」
「そっか・・・・・・。安心して、本は私が見つけてくるから。」
少女の体に触れ、治癒魔法をかけた。
少し時間が掛かったが治癒を終えて立ち上がった俺に、フラムが話しかけてくる。
「ど・・・・・・どうするの?」
「ちょっと気になる場所があるから、そこを探してみようかなって。」
「どこ・・・・・・?」
「多分、校舎の方かな。」
*****
<ズ る い><ず ル イ><ず る イ><ず ル い>
進む先の校舎内の壁や窓に赤い文字が現れる。
いい加減うざったいな。
「ひっ・・・・・・! ちょ、ちょっとぉ・・・・・・怒ってるわよ・・・・・・?」
俺は溜め息を吐き、赤い文字を書いている誰かさんに向かって話す。
「ふぅ・・・・・・、別に”複製を作るな”なんて書いてなかったんだし、いいでしょ別に。”規則違反”はしてないよ。」
・・・・・・止んだか。
事の発端は校舎に入って最初に行った職員室。校舎内の鍵を取りに行った時だ。
職員室の中の鍵置き場にはいくつかの鍵がぶら下がっており、隣の張り紙に”鍵は一つずつ持ちだすこと”と書かれていた。
「別に全部持って行ってもいいよね?」なんて話していると、<ひとツだケ><キそくをマモれ>と赤ペン先生がお叱りに。
仕方がないので一つずつ手に取り、その場で全ての合鍵を土で作ったのだ。
まぁ、ズルイと言いたくなる気持ちも分からんでもないが。
こうして鍵を手に入れた俺達は校内図を頼りに、当初の目的であった部屋へ辿り着いた。
入口には部屋名が入ったプレート。
「宿直室・・・・・・? こんな所に何かあるのか?」
「うん、この六番目の記事の詳細を見てみてよ。」
鞄に入れていた学校新聞を広げ、ヒノカに手渡した。リーフも横から覗くように記事を確認する。
記事の詳細はこうだ。
図書館の管理を任されている教師が宿直担当となった時、遅くまで図書館に残っていた生徒を拉致。
数日間に渡り図書館の地下にある倉庫に監禁し、暴行を加えていた。
教師は逮捕されたが生徒は既に衰弱死しており、教師も獄中で自殺してしまったため真相は闇の中となった。
「・・・・・・酷い話だな。」
「それで、どうしてこんな所へ来たのかしら?」
「あの子から盗った本を隠すなら、図書館の中よりこっちの方かなと思ってさ。」
「盗った・・・・・・て、どういう事なの?」
「あの子が返しに来た本を、犯人がどこかに隠しちゃったんじゃないかと思って。」
「なるほど・・・・・・そう言う事ね。」
「そんな事をして何の意味があるのだ?」
首を傾げるヒノカにリーフが答える。
「犯人はきっとこう言ったのよ。”本が見つかるまで帰ってはいけません”って。そして学校に人が居なくなったのを見計らって・・・・・・。」
「それは分かったが・・・・・・どうして隠す必要があるのだ? 本など処分してしまえば良い気がするのだが。」
「確かにそうね、本なんて燃やしてしまえば跡も残らないし・・・・・・。」
「後で処分するつもりで隠した、ならあり得ると思うけど。極力目立つ事は避けたいだろうしね。」
まぁ、犯人の気持なんか想像もつかないが、此処は迷宮の中。
そのイベントのシナリオとして考えるなら、この迷宮のどこかに本が存在している筈だ。
でないとクリア出来ねえしな。
「ふむ・・・・・・しかしそれが、どうしてこの部屋に繋がるのだ?」
「あぁ、それは単に”宿直担当だった”ってその記事に書いてあるからね。他の情報もないし、この部屋に別の手掛かりがあるんじゃないかと思ったんだよ。うまく本が見つかればそれで良しなんだけど。」
教師の名前でも分かれば職員室に戻ってデスクを調べることも可能だろう。
ただ、記事には事件の日付も書かれていないので、日誌の日付から教師を特定なんてのも無理そうだ。
「ま、とりあえず入ってみるよ。」
土で作った合鍵を鍵穴に挿して回す。
・・・・・・カチャリ。
少し心配していたが、コピーした鍵でも問題無く使えるようだ。
中は六畳ほどの和室に小さな冷蔵庫と流し台、コンロ。
布団でも入っているであろう襖に小さなちゃぶ台。
特筆するべきような特徴は無いが、図書館でも見た光がある一点を示していた。
「お、何かあるみたい。中はちょっと狭いから皆は少し待ってて。」
「だ、大丈夫なの?」
「一応何の気配もないけど・・・・・・、フラムは一緒に来てくれる?」
「ぅ・・・・・・うん。」
しばらくフラムは離れてくれそうにないな。
フラムを連れて部屋の中に入り、光が照らしている場所へ真っすぐ向かう。
「これ、テレビか・・・・・・ブラウン管とか懐かしいな・・・・・・。」
光の下にはキャスター付きの台に載った大型のブラウン管のテレビ。
とりあえず台ごとテレビを動かしてみた。
「台の下には何も無いか。」
光は動かしたテレビの方を差している。
台の中を見てみるが空っぽで、ビデオデッキすら入っていない。
ならテレビの下かと台の上からテレビを除けてみる。
テレビの下には何も置かれてなく、光はテレビの方を示す。
テレビを回して360度調べてみるが何も無い。
「これ・・・・・・もしかして、テレビの中か?」
テレビなんか開けた事ないんだが・・・・・・。
まぁ、簡単な工具なら土で作ってしまえば良いし、何とかなるか。
*****
「あった、これかな・・・・・・。」
分解したテレビの中には、袋で包まれた何かがガムテープでべったりと貼り付けられていた。
ベリベリとそれを剥がして包みを取り出す。
袋の中からは一冊の本。普通の小学生は読みそうにない、小難しそうなタイトルだ。
背表紙の内側には貸し出しカードが入っており、数行書かれた貸し出し履歴は随分と期間が空いている。
最後の行には名前と貸し出し日だけが書かれ、返却日が書き込まれていない。
これがきっとあの少女の名前なのだろう。丁寧で、綺麗な文字だ。
「さ、探してた・・・・・・本?」
「うん、多分ね。・・・・・・さて、折角校舎まで来てるんだし、先に一階くらいは探索してもいいか・・・・・・? あそこも気になるしな・・・・・・。」
顎に手を当て、どう探索すれば効率的かを考えていると、フラムが俺の手を引いてふるふると首を横に振る。
「は、早く・・・・・・持って行ってあげよ?」
「・・・・・・分かった、そうしようか。」
図書館の子を早いとこ解放してあげるとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます