97話「リトルスクールダンジョン」
おかしの迷宮から続いて”普通”の迷宮をサクサクとクリアし「これで最後」と言うところで、また妙な迷宮が俺達の前に立ちふさがった。
いや・・・・・・俺にとっては懐かしいと感じられる景色だ。
暗い夜のアスファルトの道。
空は厚い雲に覆われ月明かりは無いが、街灯に照らされて横断歩道が白く浮かび上がっている。
横断歩道の向こうには大人の背よりも少し高いくらいの閉ざされた門。
門の横の塀にはプレートが掲げられているが、掠れていて『小学校』の部分しか読み取れない。
横断歩道を渡る以外の道は見えない壁で封鎖されており、目の前の学校が舞台ということは言わずもがなだろう。
横断歩道を渡ると、門がガラガラと音を立ててゆっくりと開いていく。
その音が静かな空間にやけに大きく響いた。
門からは真っすぐ校舎への道が続いており、校舎以外の建物もいくつか確認できる。
学校の敷地内にも所々小さな明かりが灯されており、歩く分に支障は無さそうだ。
「ここは何なのかしら? 結構大きい建物だけれど・・・・・・貴族のお屋敷?」
「あぁ、これは学校だよ。」
「学校・・・・・・? それにしては小さい気がするわね。」
学校にしては大きい部類だと思うが、リーフ達にとって学校とはレンシア魔法学院の事なのだ。
あそこに比べれば何処だって小さくなるだろう。
「まぁ、入ってみれば分かるよ。歓迎はしてくれてるみたいだしね。」
全員が門を通り抜けると、今度は門が閉まっていく。
「ア、アリス! 門が閉まっちゃったわよ!?」
閉まった門を動かそうと試みてみるも、ガッチリと固定され動きそうもない。
「まぁ・・・・・・外には何も無かったし、別にいいんじゃない?」
戻ったところで、街灯と横断歩道くらいしかない。
ああいうのは外界と隔絶されるから恐怖なのであって、そもそも迷宮に入った時点でそれは為されているのだから。
きっと几帳面な誰かさんが閉めたのだろう。
「そ・・・・・・・・・・・・それも、そうね。」
まずは真っすぐ校舎へと向かい、玄関の大きなガラス扉に手を掛ける。
「ありゃ、開かないな。」
ガチャガチャと扉を弄っていると、ガラスからキュキュキュッと音が響き、赤い文字が書かれていく。
文字からは赤い液体が流れ、「これが血文字か」と妙に感心してしまった。
<か ギ ヲ さ が セ>
「い、いやぁ・・・・・・っ! 何なのよこれ!」
「”鍵を探せ”だってさ。」
「そ、それは分かってるわよっ!!」
とはいえ探せと言われてもヒントも無しじゃ、どうしようもない。
「まぁ、まずは片っ端から他の建物を見て回ってみようか。」
*****
最初に訪れたのは体育館。
正面の扉に近づくと、中からドーン、ドーンと一定間隔で何かの音が聴こえてくる。
「な、何の音よ・・・・・・これ・・・・・・。」
「うーん、良くあるのは頭をボール代わりについてる幽霊とか?」
「や、やめてよ・・・・・・怖い事言うの・・・・・・。」
「そっちから聞いてきたのにー。」
扉に手を掛けると、鍵は掛かっていないようだ。そのまま扉を開く。
はたして、そこには俺の想像通りの光景がそこにあった。
バスケットゴールの下で頭の無い女の子が自分の頭でドーン、ドーンと毬つきのようにドリブルしている。
身体は透けており、俗に言う幽霊のようだが魔物の気配も感じられるため、魔物と言う方が正しいのかもしれない。
ゴーストタイプのモンスターとでも言えば良いだろうか。
そして扉越しでは聴こえなかった女の子のすすり泣く声。
「や、やだっ・・・・・・あの子、ホントに・・・・・・自分の頭をっ・・・・・・!」
その光景に息を飲むリーフたち。
だが俺の目は全く別の物を捉えていた。
「ああっ!!! あの子・・・・・・!!!」
「やっ・・・・・・! 何?何なの、アリス?」
「あの子、ブルマを・・・・・・ブルマを穿いているッッ!!!」
そう、ブルマが・・・・・・もう見る事叶わぬと思っていたブルマが、よもやこんな所で・・・・・・!
ありがとう、異世界。ありがとう・・・・・・。
「な、何訳のわからない事を言っているのよ! そんなこといいから、早くなんとかしてっ!」
「えっ・・・・・・ああ・・・・・・うん。」
どうやらこの感動を分かち合う事は出来ないらしい。
「ア・・・・・・アリスは平気なのか?」
他の皆もリーフと同様青い顔をしている。ヒノカまでとは意外だ。
・・・・・・いや、サーニャは”毬”を猫の目で見てるな。
放っておいたらその内飛び掛かっていきそうである。
俺としては幽霊なんかより、その辺をうろついてる魔物の方が怖いと思うんだが。
ましてや相手はブルマを穿いた女の子。可愛いもんである。
そんな俺の言葉にヒノカはあまり納得した風でないようだ。
「それは・・・・・・そうかも知れんが。」
「まぁ、ちょっと様子を見てくるよ。」
「だ、大丈夫なのか?」
「うん、多分ね。」
なにも根拠も無しに言っている訳ではない。
魔力視できる俺から見れば、目の前の少女は微弱な魔力の塊に過ぎないのだ。
いざとなれば、魔法か触手でどうにか出来るだろう。
さて、問題のブルマちゃんの正面に立ってみたものの、毬つきをしたまま何も反応を示さない。
仕方ないので魔手を使って”毬”をスティールしてみる。
「いたいよぅ・・・・・・いたいよぅ・・・・・・。」
そらあれだけ床に打ちつけてたら痛いわな。
掠め取った”毬”は目を背けたくなる程ボロボロになっている。
治癒魔法で治せるか・・・・・・?
ゲームじゃアンデッドにダメージを与えたりする事もあるけど・・・・・・とりあえずやってみるか。
様子を見ながらゆっくりと治癒魔法を掛けていく。
すると、みるみる内に怪我が綺麗に治っていくではないか。
生身じゃないから、傷の治りも早いのだろうか?
そもそも生身じゃないのに怪我してるってのも解せないが。
「あれ・・・・・・いたく・・・・・・ない?」
「治したからね。他に痛い所は無い?」
「う・・・・・・うん。」
首が取れてる時点でそんな事言ってる場合じゃないと思うのだけど。
こうして相手の頭を持って会話するのも妙な感じだ。
「あ、あのね・・・・・・ゴールしないとダメなの。」
「ゴールって・・・・・・アレの事? 君の頭で?」
頭上にあるバスケットゴールを指差す。
「うん・・・・・・。」
「じゃあ、ちょっと我慢しててね。」
ギュッと目を閉じた女の子の頭をゴールの高さまで持ち上げ、ぶつけないようにリングを通し、その下で受け止めた。
そのまま手元に戻し、女の子に頭を返す。
「これでいい?」
「う、うん! すごいね、魔法使いみたい!」
「ハハ、そうだね・・・・・・”魔法使い(DT)”だね・・・・・・。」
最早乾いた笑いしか出ない。
まぁ、ブルマちゃんは満足気だし良しとしよう。
そして、天から優しい光が降り注ぎ、女の子を包む。
天井の事は気にしないのが礼儀ってもんだ。
「あのね・・・・・・やさしくしてくれて、うれしかった!」
女の子は頭をそっと持ちあげて俺の耳に寄せ、囁く。
「ありがとう、おにいさん。・・・・・・ちゅ。」
少女は俺の頬にキスをし、少し顔を赤らめて離れる。
いやちょっと待て・・・・・・中身バレてる?
「・・・・・・ばいばい。」
そう言って少し寂しそうに笑ったあと、質問する暇もなく少女は光と共に消えてしまった。
つか、頭もくっつけてあげれば良かったな。
まぁ・・・・・・元の世界じゃ人外系なんかも流行ってたし、いいか。
少女の居た場所に魔力を帯びた拳大ほどの水晶玉が転がっているのを見つけ、拾い上げた。
水晶玉の中には小さな星の飾りが三つ輝いている。
七つ集めれば願いでも叶えて貰えんのかね?
ま、集めたらクリアってところかな。
水晶玉を眺めているとキュッと袖を引かれる。
頬を膨らませたフラムだ。
「むぅ~・・・・・・。」
「え~っと・・・・・・つ、次行こうか、次!」
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