46話「カリスマホスト」
ミアの瞳から零れる涙を拭う。
「うっ・・・・・・ごめんなさい、旦那さま。こんな、いやらしい女で・・・・・・。まだ小さい旦那さまに・・・・・・あんな事。」
涙は溢れ続けている。
「どうしても・・・・・・うっ・・・・・・止まらなくて、止められなくて。あんなの、初めてで・・・・・・っ。」
動けなくしていた縛めを解いてやった。
「ぁ・・・・・・旦那さま?」
「もういいよ、私は怒ってないからさ。」
膝を抱えてうずくまるミア。
「でも・・・・・・でもっ・・・・・・とんでもない事。」
「まぁ、ちょっとビックリしたけどさ。ミアの事を嫌いになったりしてないよ。」
また新しく彼女の瞳から涙が流れる。
「ちゅー・・・・・・しちゃったんだよ?旦那さま・・・・・・女の子なのに・・・・・・初めてなのに。」
「あ~・・・・・・確かにそうか、人生初か・・・・・・。」
そう考えると中々に感慨深いものがある。
「ねぇ、ミアは私の初めての相手で嬉しい?」
「そんなの・・・・・・嬉しいに決まってるよ・・・・・・っ。」
「そう、ミアが嬉しいのならそれで良いよ。この話はこれでお終いね。」
ポンポンとミアの頭を撫でた。
「どうして、そんなに優しくしてくれるの・・・・・・?アタシ・・・・・・こんなにいやらしいダメな子なのに。」
「ん~・・・・・・私はさ、実は中身がおじさんなんだよね。だからエッチで可愛い子は大好きなんだよ。」
一瞬止まったミアが笑い出す。
「・・・・・・ふっ、ふふっ・・・・・・あははっ!やっぱりヘンな女の子だよ・・・・・・旦那さま・・・・・・ふふっ。」
なんとか雰囲気が柔らかくなったところで話を仕切り直す。
ミアの隣に座って極力優しく話しかけた。
「私はミアを助けたいんだ。だから、聞かせてくれるかな?今までの事を。」
「・・・・・・うん。」
*****
深呼吸を一つして心を落ち着けたミアが訥々と語り始めた。
「アタシは森の奥でお母さんと暮らしてたんだけどね、ある日捕まったの。それから奴隷として売られて・・・・・・、ある男の人に買われたんだ。」
「それが・・・・・・今の主人?」
ミアは俺の問に答えてから言葉を続けた。
「うん、一応そうなるの・・・・・・かな?その人は私を買った日に馬車で帰る途中で襲われて・・・・・・殺されちゃったから。」
ミアの表情が少し暗くなるが、話はまだ続く。
「その時、私の他にも買われた奴隷達が散り散りに逃げて行ったんだけど、私だけ逃げ遅れて咄嗟に馬車の下に隠れたんだ。でも、襲ってきた人達が逃げた奴隷達を追いかけて行った隙に、なんとか逃げられたの。」
「他の奴隷達も殺されたの?」
「分からないけど、奴隷は生け捕りにしろって叫んでたから。大丈夫じゃないかな?」
狙いは奴隷か。・・・・・・ミアを狙った?
いや、確かに可愛いけど、それだけでそこまでするか?
そういうのが目的なら他の奴隷でも良い訳だしな。
ミアよりスタイルが良くて美人なのだって居るだろう。
その辺は好みによるだろうが、そこまでのリスクを犯してまで手に入れようとは思わない筈だ。
捕まれば最悪処刑もあり得るのだから。
実は買われた奴隷の中にどこかの王族が混じってた、とかか?
ファンタジーなだけに。
・・・・・・彼女がとてもそうとは思えないが。
「ん~、相手の目的はちょっと分からないね。それからどうしたの?」
「それから、森の中を歩いたり、商人の荷馬車に忍び込んだりして、何とか辿り着いたのがこの街だったの。」
「それから娼婦として食いぶちを稼いでいたのか・・・・・・。」
「うん、これで・・・・・・良いかな?」
「大丈夫、何とか出来るか調べてみるよ。」
「ありがとう、旦那さま。」
俺は立ち上がってミアの頭をもう一度撫でる。
「私はもう少し調べたい事があるから戻るよ。それが終わったら寮へ帰る。ミアはもう眠ると良いよ。寝床はあるの?」
「うん、その・・・・・・旦那さまが「俺の女だ」って言ってくれてから、すぐに中ボスさんが部屋を用意してくれて。」
準備が良いな中ボス・・・・・・。
俺はミアを部屋に送り、まだ皆が騒いでいる広場に戻って娼婦達が集まっている一画へ足を向けた。
「おい、この中にミアと寝た奴はいるか?」
何人かの顔がサッと青ざめる。
「あぁ、待て、勘違いするな。別に過去の事で怒りに来た訳じゃない。彼女の情報が必要なんだ、協力してくれ。」
数人から聞き取りしてみたが、結果は全て同じだった。
<もの凄く気持ち良かった事は覚えているが、事の最中の記憶が殆ど無い。>
言葉尻は違えど総括するとこうなる。
金に余裕のあった娼婦達は金銭を払い、彼女と寝ていたという。
娼婦だけで予約が埋まる事も多々あったそうだ。
・・・・・・どこのホストだよ。
着ている服は確かにボロボロだったが、他の娼婦達より健康状態が良かったのはその所為だ。
食費まで削ってミアと寝ていた娼婦は自業自得だが。
ハゲを含めた部下達にも聞き取りをしてみたが、こちらも結果は同じだった。
これらの情報から得られた回答は一つ。
どうやら俺は、とんでもないヤツを”俺の女”にしてしまったらしい。
*****
俺は中ボスに後の事を任せ、寮へと戻る事にした。
時間的にもう皆寝ているかもしれない。
寮の廊下をそろそろと進み、そっと扉を開く。
リーフが仁王立ちしていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・ゴメンナサイ。」
こってりと絞られた後、あれやこれやと、根掘り葉掘りと聞き出される。
「・・・・・・意味が、分からないわ。」
「ネコミミっていうのは猫の耳の事だよ。」
「そうじゃない、そこじゃないの・・・・・・そんな事じゃないの。」
リーフが頭を抱えてブツブツと呟いている。
「そもそも、どうして裏通りなんて行ったの?」
「通った事のない道があったから・・・・・・かな。そしたら裏通りに出て、いきなり絡まれたんだよ。」
リーフがため息をつく。
「はぁ・・・・・・、貴女は賢いのにどうしてそう・・・・・・。フィーだって心配していたのよ?」
赤い目をしたフィーと目が合う。
柔らかい拳で頭をコツンと小突かれた。
「あいてっ。」
「・・・・・・ばかアリス。」
「ごめんなさい、お姉ちゃん。」
こほん、とリーフが咳払いをする。
「それで、女の子を助けるのが・・・・・・どうしてそんな事態になるのかしら?」
「助けた後、私が居なくなったらもっと酷い事をされるかもと思って、だったら連中を更生させるのが一番手っ取り早いかなぁ・・・・・・と。」
リーフが頭を振って話を仕切りなおす。
「もう・・・・・・分かったわ。とにかく、もうそんな所に近づいちゃダメよ?」
「あ~、明日も行かないと・・・・・・。」
バンッ!とリーフがテーブルを叩いて身を乗り出す。
「ダメよ!そんなの!」
「ま、まだダメなんだよ。ちゃんと回せるようにしないと元に戻っちゃうし。」
中ボスなら何とかしてしまうかも知れないが。
それに、まだミアの事が残っている。
「で、でもそんなのアリスが責任を持つ事じゃないわ!それに心配じゃない!フィーだって今日ずっと・・・・・・!」
「じゃ、じゃあリーフも一緒に来てよ。その・・・・・・手を貸して下さい。お願いします。」
頭を下げる。
「もう・・・・・・、分かったわよ。・・・・・・最初から素直にしなさいよね。」
ぷいっと顔を背けるリーフ。
「ヒノカにもお願いしようと思ってたんだ。」
「む、私か?」
突然話を振られ、ヒノカが顔を上げる。
「うん、選抜者10人の稽古をつけて欲しいんだ。」
「ほう・・・・・・、”稽古”を?」
稽古という単語に目を光らせるヒノカ。
「目標は五日後に誰か一人が冒険者試験に合格すること。」
「ふむ、構わんぞ。」
妙な気迫をヒノカから感じる。
「し、死なない程度にお願いします・・・・・・。」
くいっと俺の服の袖がフィーに引かれた。
「わたしもやる。」
こちらも気合いが入っている。
「お、お願いします・・・・・・。」
二人の気合いの入り様にクスリと小さな笑みを零すリーフ。
「二人とも今度から後輩が出来るから、張り切っているのよ。ふふっ。」
「予行演習って訳・・・・・・。」
もうすぐ二年生、か。
戦術科と魔術科には、沢山の後輩が入ることだろう。
魔道具科に後輩は・・・・・・出来るといいなぁ。
フィーと反対側の袖をフラムが摘まむ。
「フラムも来てくれるの?」
「ぅ、うん。」
更にニーナとサーニャが名乗りを上げた。
「面白そうだからボクも行く!」
「あちしも行くにゃ!」
「結局、皆来てくれるんだね。」
「暇だからにゃ!」
「それは言わない約束よ、サーニャ。」
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