24話「なつやすみのとも」
アンナ先生が自らの工房内で声を高らかに叫ぶ。
「”
ミスリル製の鎧が召喚され、その身体に纏われた。
「うむ・・・、少し疲れる程度で概ね問題は無いが・・・やはり演出無しだと少し寂しいね。」
魔力を大量に消費する演出は全てOFFにしているため、低予算の特撮でも観ているような・・・コレジャナイ感が溢れている。
「確かにそうですね。まぁ、設定で切り換えられるのでそこは使用者の判断で。」
「大半の人間は演出無しになると思うがね。しかし、本当に売りに出したりはしないのかい?」
「一つ作るだけでも面倒ですしね。お金が必要になったら考えます。」
「フフ、その時は相談に乗るよ。」
「お願いします。」
「さて、そろそろいい時間だがどうするかね?」
「今日は帰ります。皆に早く渡したいですし。」
「うむ、それが良いだろう。気を付けて帰るんだよ。」
机に並ぶミスリル製の髪飾り、形は違うがどれも先の機能を持っている。
一つ一つを布で包み、鞄に入れていく。
少し重くなった鞄を肩から下げた。
「これも忘れているぞ。」
今アンナ先生が使っていたものだ。
「それは先生へのプレゼントです。いつも工房を使わせてもらっていますし。」
「良いのかい?フフ、私の師に自慢ができるよ。」
「先生の先生・・・ですか。」
「運が良ければ会えるんじゃないかな。忙しい人だからね。」
「機会があれば。それでは失礼します。」
「ああ、また何時でも来たまえ。」
工房から出ると夕焼けの色が視界を染め上げる。
表通りなら、まだ人の多い時間帯だ。
店を眺めながらブラブラと学院の方角へ歩を進めて行く。
寮に戻る頃にはすっかりと太陽の姿が隠れてしまっていた。
「ただいまー。」
「おかえりにゃ!」
扉を開けるとサーニャが一番に飛びついてくる。犬かお前は。
リーフがパタンと読んでいた本を閉じた。
「あら、おかえりなさい。」
「お、ぉかえり・・・なさい。」
「他の皆は?」
「ヒノカ達は買い物に行っているわ。もう少しで帰ってくるんじゃないかしら。」
「じゃあお姉ちゃん達には戻ってきてから渡せばいっか。」
机の上に鞄の中身を広げると、サーニャが覗き込んでくる。
「それ何にゃ?」
「一応髪飾り。留め具を代えればブローチとかペンダントにも出来るよ。これがサーニャのね。」
肉球の形をした髪飾りを渡す。
「あちしのにゃ?ありがとにゃ!」
「これとこれがリーフとフラムの分ね。」
開いた本、炎を象ったものをそれぞれに渡す。
「あ、ありがとう・・・・・・ってこれ・・・ミスリル製じゃないの?」
「うん、そうだよ。あの兜を見てちょっと思いついてね。」
「そ、そんなの・・・貰って・・・良いの?」
「その為に作ったんだから貰ってよ。」
「ぅ・・・うん、ありが、とう・・・。」
「ずっとこれを作っていたの?」
「うん。今日やっと完成したんだよ。」
躊躇いながらも受け取った髪飾りを付けるリーフ。
フラムもそれに倣って髪飾りを付ける。
サーニャは苦戦しているので付けてやった。
「じゃあ使い方を説明するね。」
リーフが訝しげな顔をこちらに向ける。
「・・・・・・使い方?」
「魔具科の私が作ったんだから当然魔道具に決まってるじゃん。」
「こ、これ・・・魔道具・・・なの?」
「とてもそうは見えないのだけれど。」
「にゃー?」
「まぁ使ってみてよ。起動語は”魔装転身(マジカルフォーム)”だから。」
俺の髪飾りが反応し、鎧が出現して装着される。
「な・・・・・・何なの!?」
「おお!恰好いいにゃ!」
「ぇ・・・、ぇ・・・?」
「依頼で出かける時皆軽装だからさ、少しは足しになればと思ってね。着て歩かなくて良いから便利でしょ?」
「そ、そういう問題じゃ・・・。」
「にゃ!にゃ!あちしもやりたいにゃ!」
「じゃあ”
「”
サーニャの髪飾りが反応し、鎧を召喚する。
召喚された鎧は順次サーニャの方へ飛来し、カチリ、カチリと装着されていく。
「すごいにゃ!何もしなくても勝手に着せてくれたにゃ!」
「脱ぐときは”
俺の鎧が外れ、異次元へと帰っていく。
「”
サーニャの鎧も外れ、異次元へ繋がる魔法陣へ次々飛び込んでいく。
「ありがとにゃ、あるー!あちしコレ気に入ったにゃ!”魔装転身(マジカルフォーム)”にゃ!」
再度サーニャの鎧が召喚される。
「あ、そんなに使ったら・・・。」
「ま・・・”
今度はフラムが起動語を唱えた。
「ゎ・・・、すごい・・・。」
自分に装着された鎧をツンツンと突きながら感心している。
「鎧、重くない?」
「ぅん・・・、思ったより、軽い・・・。」
「それなら良かった。脱ぐ時は”
「ぅん、あ・・・ぁりが、とう。・・・”
「じゃ、じゃあ次は私の番ね。」
フラムの鎧が戻るのを見届けたリーフが意を決して唱える。
「”
宙に浮かび上がった魔法陣から鎧が召喚され、リーフに纏う。
「本当に凄いわね、あ・・・・・・れ?」
ふらり、と態勢を崩したリーフを慌てて支える。
「おっと。」
「だ、大丈夫にゃ!?」
「ど・・・・・・どうしたの?」
「わ、分からないわ、いきなり身体が・・・・・・。」
どうやら最初にアンナ先生が最初に使った時と同じ現象のようだ。
「ごめん、まだ魔力消費量が多かったみたい。」
「・・・・・・そう、私の魔力が足りていないのね。」
「ちょっとその鎧外すね。」
俺はそう言ってリーフの髪飾りに手を触れる。
「”
起動語を唱えると俺の魔力を使ってリーフの鎧が収納される。
アンナ先生の事もあったため新しく追加した機能で、手を触れながら起動語を唱える事で他の者でも鎧の着脱が可能なのだ。
「ごめんなさい、折角作ってくれたのに・・・・・・。」
「ううん、リーフが悪いんじゃないよ。」
抱き留めた姿勢のままリーフの頭を撫でる。
「あ、あの・・・・・・そろそろ離してくれないかしら?」
「ふふふ、ダメ~♪」
「ちょ、ちょっと・・・・・・!」
離れようともがくリーフだが、思うように身体に力が入らないため俺の為すがままだ。
「何をやっているんだ、お前達は?」
声のした方へ振り向くと買い物を終えたヒノカ達が立っていた。
*****
「・・・・・・くっ、私もまだ精進が足りないようだ。」
「うー、フィーは使えてるのにぃー。」
「うにゃ~・・・。」
戻ってきたヒノカ達に髪飾りを渡して説明すると、それなら自分達も、と使った結果である。
サーニャは調子に乗って使い過ぎただけだが。
「うーん、やっぱりまだ実戦には使えないか・・・・・・。」
「そんな事ない、と思う。」
フィーも何度か着脱を試したが、まだまだ余裕のようだ。
「ニーナはともかくリーフが使えないのは少し以外だな。」
「はぁ・・・、授業でも魔力が少ないと指摘されたわ。訓練していれば増えるとは聞いたのだけれど・・・。」
「練習ならボクとフィーは同じのをしてたんだけどなぁ。」
「やり方の問題じゃないかな。お姉ちゃんは家でもずっと”洗浄(クリン)”の魔法を使っていたし。今でもそうでしょ?」
「そうね、お陰でこの部屋は来た時よりも綺麗な気がするわ。でも、お手伝い程度だったのでしょう?」
「お母さんには逆に止められてたよ。道端の石ころにまで掛けてたしね。毎日フラフラになるまで。」
「それは危険過ぎないか?一歩間違えれば魔力が暴走して命を落とす危険があるぞ。」
「あー・・・・・・まぁ、うん、そうだね。」
フィーが魔力を暴走させたのは実は最初の一回だけではない。
魔法の練習を始めるようになってから頻繁に起きていた。
その度に俺が治していたわけだが・・・。
初めの内はガクブルものだったが、俺もすっかり慣れてしまった。
今では耐性が付いたのか、魔力を暴走させる事はない。
「それは一番ダメな訓練方法だと習ったわよ。」
確かにそうだろう。訓練の度に命を天秤に掛けるような真似なんてしていられないし、それなら自分にある魔力を効率良く使えるよう訓練した方が良い。
「フィーはそんなやり方誰に教わったのかしら?」
リーフの質問にフィーがじっとこちらを見つめる。
「・・・・・・アリス。」
「詳しく聞きたいわね、アリスさん?」
「・・・・・・はい。」
*****
「つまり、魔力を多く消費して回復させれば魔力量が増えると?」
「はい、たぶんそうです。」
リーフの問に素直に答えた。
「ふむ、身体を鍛えるのと大して変わらないという事か。」
「それが危険過ぎるからダメなのだけれど。」
「そんな危険な事を子供二人でやっていたとはな・・・・・・。」
「二人はどこかズレてるって思ってたけど、何か分かった気がするわ・・・・・・。」
ひどい言い草だ。
「フラムはどうなのだ?」
「ぇ・・・・・・私?」
ヒノカの視線を受けたフラムが首を傾げる。
「うーん、血筋と才能も関係あるとは思うけど、同じように我武者羅に魔法の練習をしてたんじゃない?私達程じゃないにしても。」
「う、・・・・・・ぅん。そう、・・・だと思う。」
昔の事を思い出してしまい、顔が翳るフラムの手を握ってやる。
「ふむ、それならサーニャはどうなのだ?」
「にゃ?何がにゃ?」
「魔法の練習をする時にどんな事をしていたのかしら?」
「まほー・・・?よく分かんないにゃ!」
大体予想通りな答えに二人は小さくため息を吐いた。
「・・・・・・まぁ、期待はしていなかったがな。」
「・・・・・・そうね。」
「にゃ?」
「でも実際魔力量が増えている人もいるわけだし、私も少し気にかけてやってみようかしら。」
「私も少し検討してみよう。」
息巻く二人にフィーが注意をうながす。
「やるならアリスの居る所でやらないとダメだよ?」
「どういう事かしら?」
「魔力がぼうそうしても治してくれるから。」
「あ、お姉ちゃん・・・・・・!」
それは内緒ですよ、姉さん!
「アリスさん?」
「治せる・・・・・・のか?」
信じられないと言った表情でこちらに視線を向ける二人に渋々と答える。
「一応、ね。ただ・・・・・・お姉ちゃん以外は診た事ないから他の人を治せる保証はないよ?」
そう都合良く患者が現れるわけでもないしな。
だからあまり無茶なことはさせたくないのだ。
「だから無茶な練習も出来ていたのね・・・・・・。」
「まぁ、そういう事だよ。」
「ねぇ、その・・・・・・私の訓練に付き合って貰っても構わないかしら?」
「構わないけど・・・・・・さっき言った通り安全は保障できないよ?」
「えぇ、それでもお願いするわ。これを使えないのは少し癪だもの。」
リーフは自分の頭の髪飾りを指差した。
「それなら私も混ぜて貰おうか。」
「ボクもボクもー!」
「分かったよ。それを作るのに割いていた時間は無くなったわけだしね。」
「よろしく頼む。と、そうだ・・・・・・。こちらの話をすっかり忘れていたな。」
ふらつく身体で買い物袋から一枚の用紙を取り出すヒノカ。
「夏季休暇予定申請書・・・・・・?」
夏季休暇、つまり夏休み。
異世界とは言え、この学院の創始者は転生者であるレンシアなのだからあっても不思議ではない。
交通機関があまり発達していない所為もあって約2ヵ月と少し長めだ。
「そろそろ予定を決めておいた方が良いと思ってな。」
「確かにまだ少し先だけれど、申請は早目にしておいた方が良いわね。」
長期休暇である夏休みには、各班に一度だけ転送魔法で送ってもらう事が出来るのだ。
更に帰還用のスクロールが一つ配布される事になっている。
申請書には転送魔法の使用日時と転送場所を指定箇所から選択、帰還スクロールの発動日時を記入するのだ。
例えば帰省する場合なんかはメンバーの故郷の中間点辺りに転送して貰い、そこから各々の故郷に帰省、帰還スクロール発動日時までに再度集合して学園に帰還という形で使える。
帰省はせずにパーティ皆で旅行も可能になっている。
帰還スクロールが日時指定で発動なのは悪用を防ぐためだ。
「ああ、それで皆の意見を聞きたいと思ってな。私はこのメンバーで旅行が良いと思うのだが。」
「そうね・・・・・・まだ出てきて一年も経っていないのだし、ゆっくり旅行に行きたいわね。」
「ぃ、家には・・・・・・帰りたく、ない。」
「ボクとフィーも旅行だから決まりだね!」
どうやら二人には既に話をつけてあるようだ。
「私はどっちでも良いけど、旅行先は決めてるの?」
「実は一度行ってみたい所があってな・・・・・・この場所なんだが。」
そう言ってヒノカが小冊子を取り出す。所謂ガイド本というやつだ。
「迷宮都市ローグライク?」
何ともド直球な名前である。
予想は付きつつもパラパラとページをめくる。
神が作ったとされる魔道具【千の迷宮】がある遺跡を取り囲むようにして作られた都市で、毎日のように腕に覚えのある冒険者たちがやってきて賑わっているらしい。
魔道具【千の迷宮】はその名の通り迷宮になっており、足を踏み入れる度にその姿を変えると言う。
つまりは千回遊べる不思議系ダンジョンである。
その中で手に入れた金銀財宝は全て取得者の物であることも明記されている。
大体は予想通りだったが魔道具という所に興味を惹かれた。
「へぇ、魔道具なんだ・・・・・・少し見てみたいかも。」
「そうなのだが・・・・・・妙な所に興味を持つのだな。」
「フラムはどうだ?」
「わ、私は・・・・・・どこでも。」
パンフレットを眺めたリーフが小さくこぼす。
「なんだか・・・・・・ゆっくり出来そうにない場所ね。」
「それを言うと、この部屋が一番ゆっくりできると思うけどね。」
「それは・・・・・・そうね。」
最初は緊張していたこの部屋も、もうすっかりと自分たちの居場所になっている。
乗り気では無さそうなリーフに、ヒノカが言葉を続けた。
「た、確かに少し騒々しいだろうが、直接転送魔法で行ける場所だから2ヵ月丸々使えるぞ。」
「皆乗り気のようだし、私もそこで構わないわ。フフ、それにこんなに必死なヒノカなんて中々見れないもの。ごめんなさい、からかってしまったみたいで。」
「う・・・・・・す、すまん。」
「私も何も考えていなかったし、お相子よ。それより早く申請書を出してしまいましょう。」
「あぁ、そうだな。早速出してくる。」
必要事項を全て記入し、ヒノカがさっと駆けていく。
「神様の作った魔道具かぁ、どんなのだろう。」
「貴女はそればっかりね。」
「これでも一応魔道具科だからね。」
「ボクも楽しみだよー!」
「うん、たのしみ。」
こうして俺達は、初めての夏休みに向けて着々と準備を進めるのだった。
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